参入コスト「ゼロ円」時代のEC戦略とは?クリエイティブに手間を惜しむな

 新型コロナウイルスの感染拡大により、多くの企業がリモートワークの制度導入や環境整備に力を入れざるを得ない状況になっています。新規事業や業態転換への着手を検討する経営者の方々も少なくないのではないでしょうか。

 今回、EC事業・新規事業のプロフェッショナルである吉野隆行プロにECの立ち上げやオンラインビジネスへの業態転換についてインタビューを行いました。

吉野 隆行 氏
PlayNode Consulting 株式会社 代表取締役社長
同志社大学大学院卒業。新潟県長岡市出身。広告代理店からキャリアをスタートし、インデックスにてゲオとの合弁会社を設立し事業責任者、ファーストリテイリングにてEC部門のマーケティングマネージャー、バロックジャパンリミテッドにてEC事業部長を経て、PlayNode Consulting 株式会社設立。
※PlayNode Consulting 株式会社のHPはこちら

リアルとネットの融合の面白さ

ーまず吉野プロのキャリアについてお聞かせいただけますか。

 現在48歳なのですが、会社を創って2期目です。広告代理店からキャリアをスタートして、インターネットの黎明期からインターネットビジネスに関わってきました。

 30歳前半ではインデックスという携帯電話向けコンテンツの製作・提供をする上場企業で働いていました。この会社は後に、上場廃止、破産手続をするのですが、私が在籍した時には面白い事を多々やっていました。例えば、タカラと共同で犬語翻訳機バウリンガルを開発・発売したり、フランスサッカーリーグ2部に所属するグルノーブル・フット38に資本参加するなど、本当に刺激的な日々で、オフィスは不夜城でしたね。ライブドアなど当時のネットベンチャーは他もそうでした。

 当時の僕のミッションは、ゲオのインターネットビジネスの立ち上げを行うことでした。名古屋にウィークリーマンションを借りて、東京と名古屋を行き来しながら立ち上げを行いました。ゲオの強みである「中古」とインターネットをかけ合わせたEC事業、携帯電話を会員証とした店舗とネットの融合など、今で言うオムニチャネルの立上げ・事業推進を行っていました。

 その後、ファーストリテイリングに転職しました。当時のユニクロは、今では想像出来ない方もいるでしょうが、「ユニバレ」という言葉があったほど、ユニクロを堂々と着ることは恥ずかしいとされていた時代でした。ファストファッションという言葉も勿論、無い時代でした。

 そんな時に、佐藤可士和さんがクリエイティブ・ディレクターで関わられ、ブランディングを強化し、グローバルで勝っていく体制を整えていくタイミングで働く事が出来たのは幸運だったと思います。Webもガラッと変えていろんな改革が行われるタイミングで、僕はユニクロオンラインストアのマーケティングマネージャーをさせてもらうことになりました。

 その後、予備校の映像配信ビジネスに関わったり、前職はバロックジャパンリミテッドというアパレル会社でECの事業部長をしていました。moussyやSLY、ENFOLDなど10ブランドくらい展開している会社です。

 ゲオ、ユニクロ、バロック、予備校の映像配信など、専門領域としては「リアルとネットの融合」になると思っています。

会社設立の想い

 今は「PlayNode Consulting 株式会社」を2年前に設立し、全国の中小企業やスタートアップに特化した新規事業の全てのフェーズの業種を支援しています。

 社名にコンサルティングと入っているんですが、プロジェクトマネジメントを行う会社です。理屈だけでなく、ハンズオンでその会社の一員となって、改革をしていくことを売りにしています。

 場合によっては共同で会社を創ったりすることもあります。例えば今は、静岡の焼津にある動物病院とのジョイントベンチャーを立ち上げようと思ってます。

楽しみながら仕事をする

 社名に込めた思いとしては、最初は「Node」というネットワークという意味の単語を屋号にして個人事業主として6カ月間やって、株式会社にするときに「Play」を前につけました。これは、楽しみながら仕事をすることを重要視しているからです。

 やはり新規事業は、”しかめっ面”してやるとうまくいかないのを実体験として感じていたので、どうやったら自分のまわりの人たちが成長しながら楽しんでやれるか、いかにまわりの優秀な人間と外部を巻き込んでプロジェクトをまわしていけるか、を考えていこうという自戒の念を込めて「PlayNode Consulting」という社名にしました。

ーご自身がECマーケティングのプロだなと自覚されたきっかけはありますか?

 独立していろんな中小企業をご支援する中で、やはり、地方は東京と知識やネットワークに差があるので、僕らのような専門家の知識や、大企業で管理職をしていた人間のプロジェクトマネジメントスキルが「ハマるな」と自分の体感として分かってきたのがここ1年くらいですね。

 ただ、独立する際、コンサルティングやプロジェクトマネジメントのニーズは、必ず全国の中小企業やスタートアップに対して提供できるのではないか、という強い想いはありましたね。

 経営者のミッション・パッションを具体化させ、いかにして成功させていくか。事業会社の責任者をやっていた経験と知識、ネットワークを提供することで、経営者や現場責任者の右腕となり、新規事業の立ち上げや、既存事業の予実達成を共に成し遂げるためのご支援が提供できるのではないかなと思っていました。

EC進出コストの劇的な変化

ーECのプロである吉野プロに、旧来のECサイト構築と、現在のECサイト構築の違いをお聞きしたいです。

 まず決定的に違うのは、昔と違ってECの導入コストがすごく安くなっています。

 今は、会社や売上の規模感にもよりますが、初期費用が0円に近い形で良い物が出来上がります。日本のいろんなスタートアップが良いシステムを提供しているので。昔なら長い時間とお金を掛けて構築していたのが、一気にジャンプアップして商売を始められるようになりました。

 次に、昨今のコロナで加速していますが、消費者がネットビジネスの便利さを知っている事やSNSなどの普及により、最初のプロモーションコストや認知コストのハードルがグッと下がってきています。

 昔なら代理店任せだったものが、今ならいろんな無料のプラットフォームがあるので、それを使いこなして人を集められる企業の方がクールな時代になっています。
 
 とは言え、EC構築導入コストや認知コストが下がっている分、競争は激しくはなっていると思います。売り場づくり、集客だけを構築するだけでなく、CRM、物流、在庫管理など、その他の戦略が重要になっていますし、それらを高いレベルで運用していく事が求められていると思います。

 かつては中小企業は「まずは楽天」といった形で、モール出店がファーストステップとしてありました。その次に自社サイトの構築という感じです。それが今は初期から自社サイトの構築がトレンドになっています。今後、モールから自社サイトへの経営資源のシフトは加速していくと思っています。ただ、モール運営も止めるのではなく、バックエンドのオペレーションを効率化して販路を広げるのが良いと思っています。

サービスやシステムを組み合わせて使う

 PlayNode Consulting の強みは、事業戦略立案から入らせて頂き「今のお客様の規模やステージからすると、このシステムを選んだ方が全然コストパフォーマンスいいですよ」とお話ができることです。

 システムにも「BtoCに強い」や「BtoCでもアパレルに強い仕組み」「食品に強い仕組み」「定期購買に強い」などさまざまなものがあるので、業種や業態、ビジネスモデルに応じて適宜システムを選んでいくことが最初の肝になります。

 また、通販システムを補完するマーケティングツールが無数にあり、それらをまとめたカオスマップ(業界内のカテゴリ別サービス地図)が毎年発表されているのですが、国内外を含めていろんな領域でツールがあふれているんですよね。どのサービスをパズルのようにどう組み合わせて活用するかという時代に突入しています。

 昔はスクラッチといって「ゼロから要件定義をして、構築して、オープンするまで2年かかります」というのが主流だったんですが(笑)

 今は2年で世の中が変わってしまうので、ステージごとにいかにクイックに立ち上げて、検証して、戦略的に変更していくか。変えていくことを前提に実行していくことが、大切なことだと思っています。

システムよりもクリエイティブにお金を

 むしろお金をかけるべきところは、分析やクリエイティブだと思います。「写真撮影」「採寸」「原稿」の頭文字を取って「ささげ」と言いますが、これらが顧客の購入率を決める大きな要素となります。ベースとなる商品撮影は、理想としては社内スタジオを構築し内製化したい所です。さらにクリエイティブを高める為に、ハウススタジオを借りて外部のクリエイターと連携したコンテンツ作りも大切なので、ここもPlayNode Consulting では支援をしておいます。

 ZOZOという素晴らしいプラットフォームがありますが、一言でいうと彼らにものを送ったら全部やってくれるんです。でも、それだと差別化・ブランディングが出来ない訳です。更にいうと、社内で知識が蓄積されない。自分たちで自力で「やっぱりここは撮影スタジオを構えようか」や「外部のカメラマンに頼むか」と考えていく事になりますが、この経験値こそ重要で、内部に蓄積させる事が長期的な成長につながっていきます。

 そして、分析が出来るチーム体制の構築も重要です。代理店に任せ、レポートをもらうのもありですが(笑)、それではチームの実力は蓄積させてきません。基本はGoogle Analyticsで良いと思いますが、会議ではモニターに投影して自分たちの売り場の状態を数値ベースで会話出来る体制は早期に整えます。この体制がない状態で、マーケティングツールだけを導入しても「宝の持ち腐れ」になります。

「インターネット×○○」はどんな業種でも当てはまる

ー色々な企業が業態転換やECサイトを導入しやすい時代になっていると思うのですが、業態転換を行うときのポイントを教えていただけますか?

 基本的に「インターネット×〇〇」はどんな業種でも基本的に当てはまると思っています。通販に関しても、必ずしも物販だけではないと思っています。例えば情報。いわゆるノウハウや映像配信なども大きな意味で物販だと思うんです。

 僕が1年以上前からご支援しているビジネスに、お墓があります。墓じまいといって、お墓を壊さざるを得ないことがあるんですね。息子さんや娘さんが自分たちのお墓が遠く離れていて守れないことがあるのです。そこで「墓じまい」という文化があって、それをネットでやろうと四日市の会社様とやらせてもらっています。壊したお墓をブレスレットにしたり、プレートにしたり別の形へ変化させるんですよ。

 これまでは「チラシを配って」「一部の商圏内で口コミ」という古くさい営業だったものを、インターネットを使うことによって商圏を広げていくことが可能になっています。

 お墓のホームページを作って、例えばLINEを使って供養に関するコンサルティングをして、そこからお客様と対面でも話をしながら最適な墓じまいを提案させていただくんですね。

 やっぱり最初にビジネスモデルを立ち上げるときに、イオンさんにはない自分たちにできることって何だろうねとなったときに「パッケージ化されていない丁寧なコンサルティングを入れた墓じまいや供養をコンセプトにしましょう」と提案しました。

ECをやる意義

 冒頭にお話した動物病院もそうです。ここはドッグランやトリミング、物販もあってすごくおしゃれなところなんです。ただ、置いてある商品に関してはホームセンターやドンキホーテで手に入る商品も中にはあったりします。

 じゃあ彼らがECをやる意義って何かを考えたときに、それはやはり動物病院の院長先生や看護師の方が予防医学の観点や動物の種類に応じて最適な商品を提供できるというバックボーンだとご提案しました。

 確かにドンキホーテなどの商品よりは高くなってしまうのですが、付加価値を感じてくださるお客様を抱え込むことができれば成功できるんじゃないかと。

 何が言いたいかというと、システムの導入コストは安くなったのですが、そこで勝つための戦略はより難しくなっているかもしれません。いまだに大量生産、大量消費みたいな企業があったりするので、そういう企業はガンガンWebプロモーションを回して大量に売っていくことができます。

 でも、中小企業やこれからECをやろうと思われている企業はそうではない戦い方を求められていますので、よりビジネスモデルの立案やプロジェクトマネジメントなど、作って終わりではない「その先」を求められているのではないでしょうか。



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