日立物流が挑む、イノベーションを生む「繋がる文化」づくり。 新規事業のプロ集団から得たチームの共通言語

 昨今、注目されるオープンイノベーション。今回は、オープンイノベーション施設を新しく開設する 日立物流が取り組んだプロパートナーズ活用について取り上げます。なぜオープンイノベーション施設の立ち上げ前に、麻生要一プロを中心とする新規事業のプロ集団であるアルファドライブ社の事業開発研修を受講することになったのか、施設を通じて創り出したいものとは何なのか、お聞きしました。

 

企業名:ロジスティード株式会社

    (2023年4月1日より社名変更。本文はインタビュー当時の社名にて表記。)

創立年:1950年2月

従業員数:45,681名(連結、2022年3月末現在)

事業内容:主力である3PL(物流業務の一括受託)を中心に、重量機工・移転事業、フォワーディング事業、コンサルティングなどを含む、物流事業全般を幅広く手がける。ビジネスコンセプト「LOGISTEED」を掲げ、機能としての物流強化を中核としながらも、事業・業界を超えたさまざまなパートナー企業と協創領域を拡大していくことで、ロジスティクスの領域を超えた新たなイノベーションを創出し、エコシステムの形成・拡大を図っている。



物流の自動化と事業開発の両立を目指す

―これまでの事業開発、オープンイノベーションの取り組みについてお伺いできますでしょうか?

櫻田様:当社はメーカーではないので、いわゆる要素技術を自社で開発するようなことはしていません。他社と協力して、まさにオープンイノベーションでこれまで取り組んできました。

 2013年にスマートロジスティクス推進部が発足し、最初は事業開発ではなく自分たちの事業を効率化するという観点で、R&Dの取り組みを始めました。

 例えば、今でこそロボットの活用などがよく見られるようになりましたが、当社では他社に先駆けて物流センターの自動化も積極的に進めてきました。そのほかにもIoTを活用したデータ収集、分析、可視化、数理最適化技術やAIを活用した作業指示の最適化なども取り組んできています。今はAIを活用した物量予測の開発を進めています。

 その中で私は物流センターの拠点配置ツールの開発を担当しました。従来はお客さまに対してExcelなどを用いて提案していましたが、数理最適化技術を組み込み、可視性に優れたGUIの画面を備えたツール「スマートロジスティクスコンフィギュレーター」を開発し、高度な提案をできるようにしました。

▲櫻田 崇治 様(株式会社日立物流 ロジスティクステクノロジー部 副部長 兼 スマートロジスティクス推進部員 兼 デジタルビジネス開発部員 ※インタビュー当時)

 3年前からはビジネスとしての色合いを濃くして、より具体的なサービスとして提供していこうという流れになりました。例えば、昨年の秋に稼働を開始した春日部のECプラットフォームセンター「スマートウエアハウス」がその一例です。これまで研究してきた技術を組み込んだ自動化率の高い物流センターを複数顧客でシェアリングし、従量課金で利用できるようにしたサービスです。

 このスマートウエアハウスのサービスと前後する形で、輸送の安全・安心・効率化のためのソリューションであるSSCV(Smart & Safety Connected Vehicle)~スマート安全運行システムを開発し、現在進行形でバージョンアップしながら、ラインナップを広げている最中です。

 「スマートロジスティクスコンフィギュレーター」も現在はサプライチェーン全体の可視化、分析、シミュレーションの機能を統合した、サプライチェーン最適化サービス「SCDOS」を構成する機能としてサービス提供しています。

物流領域の拡張を掲げる「LOGISTEED」

―スマートロジスティクスへの取り組みを強めていく中、日立物流さんが今目指している大きな方向性について教えてください。

櫻田様:当社が掲げているビジネスコンセプトは「LOGISTEED」です。LOGISTEEDという言葉は「LOGISTICS」に「Exceed、Proceed、Succeed、そしてSpeed」という言葉を融合した造語となっています。

 つまり、従来の物流領域を拡張していこうという概念です。今までの物流の枠にとらわれない、サービス価値の提供を目指すということです。その中で、スマートロジスティクスでは、ロジスティクスをより高度にしていくような取り組みを目指しています。

 LOGISTEEDの代表的なサービスとしては前述の「スマートウエアハウス」、「SSCV」、「SCDOS」があります。

―デジタルビジネス開発部についてお伺いできますか。

櫻田様:デジタルビジネス開発部は、2018年4月から稼働しているチームです。LOGISTEEDの具体的なサービスメニューを作っていくための部署として発足しました。その中で私は輸送をデジタル化し業務の効率化や課題解決を目的としたSSCV-Smartの開発を担当していました。

―大谷様と西川様は、どのような役割を担っているのですか?

大谷様:デジタルビジネス開発部に異動してきた当時、すでにSSCV-Smartの開発はプロジェクトとしては始まっていたものの、開発はまだ始まっておらず、どう進めていこうかという検討段階でした。

▲大谷 美代子 様(株式会社日立物流 営業統括本部 デジタルビジネス開発部 ※インタビュー当時)

西川様:私はスマートロジスティクス推進部という部署に所属しており、主に新しいソリューション開発を担当しています。仮説立案から検証を行い、最終的にはサービスとして提供していく立場です。

 新規事業開発研修のお話をお伺いしたときに、新しいひとつのサービスを作るということは新規事業を作ることと同じだなと考え、この研修を受けることになりました。

▲西川 貴裕 様(株式会社日立物流 ロジスティクスソリューション開発本部 スマートロジスティクス推進部 技師)



「オープンイノベーションは手段でしかない」という気づき

―プロパートナーズをご利用になられた背景をお伺いできますか?

櫻田様:日立物流として、LOGISTEEDというコンセプトを具現化するために、自分たちだけの力ではなかなか実現できない部分がたくさんあります。そこで、オープンイノベーションをさらに加速していこうという流れになりました。

 そのために当社の取り組みを理解していただく場として「LOGISTEED CAFÉ」という新しい施設・活動を立ち上げることになったのです。

 ただし、社内では施設の運営経験がありませんでした。よくわからないことを社内で悶々と悩むよりも、経験豊富な方に力を貸してもらったほうがいいだろうという結論に至り、エッセンスの島崎さんにご相談をさせていただきました。

 その際にご紹介いただいたのが麻生要一さん(株式会社アルファドライブ 代表取締役社長 兼 CEO)でした。

 お話を伺って強く感じたのが「オープンイノベーションは手段でしかない」ということです。

西川様:私は麻生さんにお会いする前に、著作(「新規事業の実践論」NewsPicksパブリッシング刊)を読ませていただき、麻生さんは大企業の中で新規事業を作っていくことの辛さを十分に理解されている方だと感じていました。

 イベントで講演を聴講させて頂いた際に、実体験に基づいた、地に足の付いたお話をされる方だなという印象を、あらためて持ちました。知見を押し付けるのではなく、寄り添い、共感してくれる方だという印象も合わせて持ちました。

▲麻生 要一 プロ(株式会社アルファドライブ 代表取締役社長 兼 CEO)



新規事業チーム全体で共通言語を持つ

櫻田様:麻生さんと出会って以降、事業開発の原点の部分に立ち返って考える必要があると改めて考えるようになりました。

 もともと新規事業開発の研修を受講する計画はありましたが、一部の人が社外の研修を受講するのではなく、社内の人間が一斉に受けられるプログラムに切り替えようと考えました。体系的にみんなでおさらいをして、共通言語を持ちたいと思ったからです。

 共通言語を持つにあたって何が重要だろうと考えたときに、頭に浮かんだのが麻生さんでした。そこで、麻生さんが経営されているアルファドライブ社の研修をお願いすることにしました。麻生さんのお話は一貫して、顧客にフォーカスしていることが決め手になりました。

 お客様が何を課題と思っているのか、何を求めているのかを起点にサービスを開発する視点をもっと強く持つべきと感じたことが一番です。



―研修には様々なメニューがある中で、「①新規事業概論&オープンイノベーション研修、②顧客ヒアリング研修、③顧客開発研修、④プロトタイプ研修」の4つを選ばれました。これらを選んだ理由は何でしょうか。

櫻田様:まずは体系的にということで概論を選択しました。また、何のためのオープンイノベーションなのかを明確にするため、麻生さんは、オープンイノベーションは手段だと明示されていたので、ぜひご教示いただいきたいと考えました。

もっと素早く簡単にプロトタイピングを実践するために

櫻田様:麻生さんの著作を読んで、ヒアリングやインタビューの手段は、プロセスを理解すると最初にぶつかる壁だと感じており、身に付けておく内容だと思っていました。そして、なるべく実践的なプログラムをと思い、顧客開発研修を選択しました。

 当社は以前からPoC(Proof of Concept)に取り組んできています。また、そのためのプロトタイプも開発してきました。

 しかし、当社にとってPoCやプロトタイプは、システム開発を伴うような非常に重たいものでありPoC実施やプロトタイプ開発のための予算確保が不可欠でした。

 そこで、自分たちが思っているよりも軽い取り組みとして自分たち自身でお金をかけずに実施できるプロトタイピングを学びたいと、プロトタイプ研修を選択しました。

 麻生さんの表現を借りるならば、MVP(Minimum Viable Product)の6段階です。我々はMVPの6段階のうち最上級のことをやろうことをしていたけれど、実は1番下の段階から順を追ってやっていくというやり方があるということです。

「顧客視点」の本質とは

―研修にはどんなメンバーが参加されたのでしょうか。

櫻田様:デジタルビジネス開発部のメンバーをメインに、一部スマートロジスティクス推進部や他の部署のメンバーも参加しました。

▲麻生プロによる研修の様子(「新規事業概論&オープンイノベーション研修」を担当)

―研修の中で、特に印象に残っているのはどこですか?

大谷様:第一は「顧客視点」です。どうしてもプロダクトアウトになりがちで、マーケットインという考え方を忘れてしまうことがあります。だからこそ、顧客視点が第一という話が印象に残っています。

 さらに、ビジネスに取り組む中で、ステークホルダーはそれぞれ意見が異なっており、重視すべき顧客が分からないということをご相談したところ、BtoB向けであれば管理者の視点が重要だと話していただきました。

 実際に、管理者の視点を重視することで、プロジェクトが進めやすくなったと実感しています。

仮説の分解で顧客のニーズを掘り当てる

西川様:1番印象に残っているのは、事業開発のプロセスを可視化した富士山の絵です。

 当社の中で新規事業開発のプロセスを細かく定義した表現がありませんでした。

 MVPを作って小さく始めて仮説検証からスタートすることや、課題仮説・顧客仮説に分解して考えることのような実践的な手法もそもそも知りませんでした。

 しかし研修で、富士山の絵を見た時に、1年間自分がやってきた取り組みが当てはまるような感触を受けました。

 つまり、自分の中でも非効率ながら同じ方向性で取り組んできていたものが、実はすでに体系化されたものだったというのを、絵を見て改めて感じることができました。

▲「顧客開発研修」を担当した古川 央士 プロ(株式会社アルファドライブ執行役員 / インキュベーション事業部 事業部長)

 もう一点、業務に取り入れているのが、初期仮説を課題仮説や提供価値仮説、ソリューション仮説に分解して、顧客ニーズの強い仮説を探索していくという仮説検証のプロセスです。非常に勉強になりました。

 私たちの思考傾向として、お客さまの課題を解決するために何が必要かまでは考えられるのですが、その中のどこに最も訴求力があるかというところまで、分解する癖がありませんでした。

 ソリューションで提供することに慣れている会社であるがために、そのソリューションの中の提供価値に分解して物事を考えるというのが、抜け落ちていたことに研修で気づけたことが非常に印象深かったです。

▲古川プロによる研修の様子



普段の営業活動でも大事な視点

櫻田様:今回私たちは、新規事業開発に向けたプログラムとして受けましたが、通常の営業活動でも大事な視点だという印象を受けました。

 具体的には、課題仮説や提供仮説があって、そして、ソリューションの仮説があるという部分です。それが新規のサービスでなくても、既にあるソリューションを持ってきて、お客さまの課題が解決できて価値が提供できるのであれば、ここで求められるプロセスは営業も新規事業開発も一緒だと感じます。

 LOGISTEED CAFÉ でも、この視点を軸として持ちたいと思っています。

―研修を受けられた後に、具体的に取り組まれていることはありますか?

大谷様:まずは社内ユーザーの意見を聞くことを重視して、スケジューリングをするようになりました。

 また、これまでは「ソリューションに求めるものは?」という聞き方をしてしまっていましたが、今では課題をまず聞いて、そこから「どういうことに価値を感じますか?」といったヒアリングを意識できるようになりました。

▲「ヒアリング研修」と「プロトタイプ研修」を担当した白杉 大 プロ(株式会社アルファドライブ インキュベーション事業部 シニア・ディレクター)

 課題から聞いていくことで、実際に困っていることは何で、それに対する解決策はいくつかあるよね、みたいな話し方ができます。この流れであれば、根深いものに対してアプローチが取れることに気が付きました。

 私は研修を受けた後に配車業務の改善ツールの開発を担当したのですが、現場の方たちが実際に困っていることは何かという点を気付けるようになりました。

▲白杉プロによる研修の様子


「お客さまとより深い議論ができるようになった」

西川様:研修後に1番始めに取り組んだことは、初期仮説の分解です。

 あるお客さまと、コンセプトを立案するところまでは完了した段階でした。そのコンセプトの有用性を評価するステージに入る中で、コンセプトを機能ごとに分解してみました。研修で教わった方法を使ってリストを作ることも実践しています。

 今までは、「私はこういうことを考えているけどどう思いますか」といった聞き方をしてしまっていたのが、「こうすることでコストが下がります、在庫が減ります」という風に話が展開できるようになって来ました。

 結果として、お客さまとより深い議論ができるようになったと思っています。

 例えば、このソリューションを入れることで在庫とコストが減りますという紹介では「いいですね」という返答に対してどちらにいいと言われているかが分かりません。ここを分解して1個ずつ聞けていくようになったことで、お客さまのリアクションを的確にとらえやすくなったと感じています。

「今回の研修の縮小版を実施していきたい」

―研修後、チームとしての変化やご自身の変化は何かありましたか?

櫻田様:部下や同僚に対して、自分から話を振ることを意識するようになりましたね。

「そのソリューション正しいの?」というような問いかけを部下や同僚に対して向けることができるようになったことは私自身の役に立っています。

「ユーザーの課題は?提供価値は?」と物事を細分化して考えることで、チームとして底上げされたと感じています。

 今後、今回教わったことの縮小版を社内で実施したいと思っています。

 まずは、管理職クラスを対象にやっていきたいです。管理職が観点を学ぶほうがおそらく組織としては上手く回ると考えています。

外部のプロを活用することへの期待

―外部のプロ活用するメリットをお伺いできますか?

櫻田様: 自分たちに足りないことを補おうと思った時に、考えたり悩んだり試行錯誤したりしていることも大事です。しかし、ビジネスという性質上、時間を無駄に浪費するわけにはいきません。

 外からのアドバイスを頂いたり、引っ張っていってもらったりするという意味で、外部の活用がこれから増えていく気がします。

 コンサルティングやアドバイザリー業務の中でも経験や知見に基づいた部分は、会社ではなく個人に紐づいています。そのため、こういう人と一緒に仕事をしたい、こういう人に教わりたいという観点では、プロパートナーズというサービスは非常に魅力的ですね。

豊富な成功失敗の実体験をピンポイントで聞ける

西川様:やはり知見、経験に基づく手段を与えてくださることに尽きるかなと思っています。

 実体験を持たれていて、いい意味での成功失敗をやってきた人に会える、そのなかでピンポイントで聞きたいことだけ聞けるので効率のいいやり方だと感じています。

大谷様:会社単位であれば人そのものについてはどのような方なのかはわかりにくいところがあります。しかし、人材で見るとその方の知見や頼れる部分が分かりやすいので、私たちにない部分を補ってもらいやすいと思っています。

―エッセンスに対してご要望はありますか?

櫻田様:プロ人材によるアドバイスだけではなく、資料作成をはじめとした実務のサポートと合わせたサービスもあるといいですね。

西川様:スマートロジスティクス推進部は、元々倉庫・配送の設計をやっていたり、現場で管理者をやっていた人が集まっている部署です。そういったメンバーが試行錯誤しながら事業を進めています。

 プロパートナーズの方には、メンター・相談役としてプロジェクトに寄り添ってもらえるといいと思います。

大谷様:プロパートナーズの方にせっかく入っていただいても、その方自身の知見を使っているだけで、当社には知見がたまらず、結局誰も育たないということがあります。

 その方が出て行った後に何も残らないととてももったいないので、知見が蓄積されるような入り方をしていただくと、良いだろうなと思っています。

プロジェクト型とミッション型のプロ活用

―今後プロと取り組んでいきたいことはありますか?

西川様:可能性としては2つ考えることができます。

 1つは、プロジェクトベースの活動に寄り添ってもらうような形で、プロジェクトの推進を一緒に進めるような取り組み。

 2つ目は、教育や新しい事業の開発プロセスの整備のような新しく文化を作る取り組みです。経験のあるプロの方と一緒に進められると心強いです。

大谷様:当社に知見が無い部分に関しては、困った時に、提案をして欲しいという気持ちがあります。

 正直なところ、どうしたいか自体がわからない時があるので「こういう場合はこういうアプローチができます」という提示をしていただける方と一緒に歩んでいきたいなと思っています。

LOGISTEED CAFÉ を核に、新しい文化をつくる

櫻田様:今度立ち上がるLOGISTEED CAFÉ の活動を通して、新しい文化を作っていきたいと思っています。

▲2020年12月にオープンするオープンイノベーション施設「LOGISTEED CAFÉ」

 この新しい文化というのは、組織的な縦割り文化ではなく、横のつながりのあるコミュニティ的な文化を想定しています。LOGISTEED CAFÉを核として、社内だけではなく、社外ともつながるようなコミュニティにしていきたいです。

 まずは同じ言語で語れて、同じ問いに対してみんなで考えられる社内コミュニティをしっかりと作りたいですね。その過程で私たちの知見では足りないところがたくさんあると思っていますので、ぜひそこで不足する部分をプロに協力して頂き進めていきたいです。

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