コロナ禍は「働く場所」再考のチャンス?総務はオフィスをプロダクトと捉えよ

 新型コロナウイルスへの全国的な対応によりテレワークをはじめとして働き方変革が大きく進んでいます。この緊急事態を新たな働き方・イノベーティブな職場環境に生まれ変わる好機として捉えられるかが、かねてから課題とされる企業における生産性向上に繋がるかの分かれ目であると言えます。

 今回、元WeWorkのワークプレイスストラテジストの本田優様元アマゾンジャパンのデータサイエンティストの須崎博紀様をお迎えし、「今のこの危機を総務・ワークプレイスの観点でどう乗り越えるか」と「今回をきっかけとして普段の総務の役割として求められる心得」をお伺いしました。

リモート下で問われる会社としての柔軟性

――最初に、このコロナ禍の状況で「経営者、総務が今対応すべき事」を伺えますでしょうか。

本田:国からの要請である外出自粛は、国家としてコロナウィルスを収束させることが企業にも求められていることですので、まずリモートワークをやる・やらないという意志決定が必要です。

「やらない」「できない」と意志決定した時の理由や根拠を、きちんと経営者層や管理職層として理解していく必要もあります。

日本は災害も多いですし「通勤できない」という社会現象が起きたときに、自分の会社では現場で仕事するしかないというビジネスであれば、その状況下におけるビジネスモデルというものをきちんと考えなくてはいけません。

加えて、リモートでもできる柔軟性を持っていくことも視野に入れる、というのが最初のステップだと思います。

例えば、世の中をマクロ的に見た時に、テレビの場合はタレントの方が現場に来て、そこで収録してそれがショーとなって、お金になっていくじゃないですか。

でも今はYoutuberであれば現場に居なくても、リモートの世界の中でコンテンツを作っていけるようなテクノロジーとリテラシーがありますよね。

そういったものが既に整った環境にあるということを理解した上で、例えば今「営業活動が少なくなっている」のも、果たして本当に「会わないといけないのか?」をもう一度認識し直すことが必要です。

「お客さんがやってないから自分達も会えない」ではなくて、お客さんにきちんとリモートというやり方を伝えていくことや、こうしたウェビナーもそうですよね。

「普通現場に行くもの」というものをいかにWebとして開催して価値を出せるものにするかによって、現場では出ない違う価値付けをしていくと、そこに利益や収入を考えていけると思います。

――リモートワークの導入率が現在13%(3月24日時点)らしいのですが、社内に対して「リモートワークをしない」と発信する際に気をつけなければいけないことは何がありますか?

それはもう、しないと意志決定した理由や会社の方針をきちんと説明するしかないと思います。社員にとってはリスクじゃないですか。

オフィスを変えるときにもよくあるのですが、意志決定した時に、方向性を話す管理職や経営層で違うことを言っていたら、現場の混乱を招いてしまいます。「自分はこう思うけど、会社が決めた」と自分の感情を少し話した上で会社の方針を話してしまうと、そこに実は反対している管理職の意志が見えてしまい困惑を招いてしまうのです。

オフィス作りの際によくやるのは、会社として皆さんが共通で持ってる課題や将来像についてきちんと伝えていくことです。混乱を招かないことが重要で、皆さんがきちんと腹落ちするレベルで正直に管理職や経営層で話し合うことが大切なのです。

一方で、会社がリモートワークをすると決めたけど「この部署で俺はそんな働き方は認めてない」って言ってしまうとその部署は終わりなんですよね。

その辺りは、組織を変えていく、組織の方向性を持たせるという意味では、決定に際してお互いをリスペクトしないといけないと思います。

本田 優(Tokyo Creators’ Project / Co-founder)
元WeWork Japan ワークプレイスストラテジスト 大学在学中より、ワークプレイスが経営にもたらす影響について研究。卒業後、国内設計事務所やGenslerにて、国内外大小様々なワークプレイス案件にコンサルタントとして携わる。WeWorkではデザイン・運営・チェンジマネジメント・テクノロジーの4軸から包括的なワークプレイス戦略とソリューションを提案。

自社のメンタルモデルを見直すチャンス

――須崎さんは、いかがですか?「今対応すべきこと」は何があるでしょうか。

須崎:既に色々されているのかなと思いますので、これをやってくださいということは無いんですが、一つ考えたいなと思うのは「リモートワークをする時にそのことで何が変わらないといけないのか」ということです。

アメリカと日本の文化の違いについてよく新聞やメディアで言われますが、アメリカは説得の文化、日本は納得の文化ということです。要は日本では、自分は人を説得しなくてもいい、(自然と)納得していく、という受け身の方の文化です。

そういった文化の中で育ってくると、自分発信で物事を変えていくという経験をしている方はそんなに多くはありません。暗黙の了解になっていることがけっこうあって、そのことを「メンタルモデル」というのですが、(コロナ禍の)今は、この会社はどんななメンタルモデルで成り立っているのかに気付けるタイミングではないかと思います。

例えば、日本では時価総額のトップ50の多くを製造業が占めていますが、そういった会社ですと、1つのメンタルモデルとしては「現地現物」というメンタルモデルがあるかと思います。

現地に必ず行く、現物を必ず見る、という仕事ですね。製造業なので、必ず物作りをする現場で必要になっている考え方なのですが、それがオフィスワーカーの人達にも徹底されることが日本企業ではある意味で「進んできた」と思うんですね。

でもこのリモートワークが必要になっている中、現地現物のやり方を変えることはかなり大変な会社さんが多くあると思います。

例えば面接。その会社が決めたフォーマットのレジュメが必要で、それが、必ず紙で印刷されている必要があり…(一同、笑)。いや、これかなりの一部上場企業でも、そういった企業はかなりあります。

それが、面接をする、という時に、今はオンラインで面接していますが、いちいち会社に来て頂いて行う、ということのメリットがどこまであるのかを見直すタイミングではないかと思います。

そういう意味ではメンタルモデルを見直す、というのが必要になってきてるのかな、と。

それは悪しき文化じゃなくて、自分達があまりに普段やりすぎていて気付かないものなので、そこをもう1回再定義する、というのがある意味チャンスなのかなと思います。

須崎 博紀(Tokyo Creators' Project / Data Scientist)
アマゾンジャパンで14年間オペレーション・サプライチェーン・小売予測・物流不動産戦略策定業務に従事。数多くのデータマイニング経験と機械学習モデル開発経験をオフィス不動産・ワークプレイス業務へ適用中。

自分のメンタルモデルから一歩出てみる

本田:そうですね。二人(須崎氏と本田氏)はWeWork出身なのですが(入社はWeWorkの)黎明期だったんですよね。なので(須崎氏は)私の上司だったんですけど、違う役職だったんです。それぞれ日本に一人しかいない役職だったんです。それぞれ、チームメイトはニューヨークにいるわけですよ。ボスもニューヨーク。

なので、私たちの入社面接は本当に最終面談もリモートで、私のボスは45歳くらいのお父さんだったですけど、普通に(画面越しに)「マイケルだよ~」みたいに子供を紹介されて、私も猫を見せて、みたいな。

でも、それでも打ち解けて別に会話には困らなかったし、どういうことしてきたの?という会話もできたし、じゃあ、ポートフォリオなども画面共有でできるわけですし。

「ああ、それでも全然できるんだな」と言うことを感じられたので、まず1度試してみる、1度やってみる、というのは有りなのではないかと。そういう暗黙のメンタルモデルから1歩出てみることですね。

須崎:そうですね。私のニューヨークにいた上司は、私の面接の時は、明らかに帰りの電車、地下鉄に乗っていて。キンコーンという音が鳴った後に、車に歩いて行くザッザッザッザッという音があって、バターンとなって、ブルルルルと。(笑)「これ、ほんとに面接かな?」と思いましたが、それでも成り立つコミュニケーションがあるということかもしれません。

アフターコロナにおける心得

――続いて、このコロナ禍以降も「基本的に備えておくべき心得と具体的な施策」について伺えますか?

須崎:既に総務の方々とかであれば、備えはやられていると思うんですが、やはり不確実性に上手に抗うということだと思います。その一つとして重要なことは、しっかり計算をするということです。

例えば、オフィス不動産は10年単位で借りる会社がほとんどです。実はオフィスソリューションができたのは1958年ですので、ここ70年くらいなのです。

だから、長くても7回くらいしかタームがないわけです。そんな中、オフィスの形が変わっていく必要があるタイミングだと感じています。情報技術を応用して今後変えていく必要があると思っています。

総務の方はオフィスをプロダクトとして捉えて、そのプロダクトを使う人を従業員と捉えます。従業員の方々に製品を使って頂くためにはどういうプロダクトがいいのかと考える「プロダクト開発者」としての視点を、ずっと頭の中に置いて頂けたらと思うのです。

そうするとベンチャー企業と同じで、製品開発をして、リスクが起こった際にはそこに対応していくことになります。

要は、10年単位でオフィスを借りて何もしないという会社はほとんどないと思うのですが、そういうマインドセットでいるよりも、来年また何をしなくてはいけないかを常に考えていくことが大切ではないかと思います。

エクセルなどでしっかり計算をして、例えば、従業員が毎年坪あたりの使用率がどんどん落ちている場合は、坪を返す、借りている面積を返していく、というシミュレーションができている、などですね。今の状況では、そんなレベルでのコミュニケーションが必要だと思います。

4つの指標でオフィスの働きを測る

――例えば、総務として見ておくべきKPIというのはどんなものがありますか?

本田:私たちがよく話すのは、稼働率、満足度、生産性の3つです。加えて、オフィスに100%収容したときの1人当たりコストと、実稼働のコスト、というのが最もオフィスを客観的に見たときに良い指標なのかなと思っています。

まず稼働率ですが、東京の家賃は高いじゃないですか。このリモートができる時代に、都内にオフィスを構えてその借りてる空間を無駄にしていないか、という稼働率です。

100席置いて、50席しか使われていなかったら、その50席分の坪って何なんだ?という議論はやるべきです。そのために「稼働率」を知っておくべきなのです。

稼働率を高めようと思ったら、デスクをいっぱい詰め込めばいいじゃん、という話になってきます。そうなってくると、ユーザの満足度といったところは(オフィスを)プロダクトとして見た時に落ちてきます。

働く場所から集まる場所にオフィスが変わってきているなかで、オフィスを集まってくれるもの、使ってもらえるもの、家やカフェではできない何かを与えてくれるものにしないといけない、となった時に「ユーザの満足度」は見ていく必要がある指標です。

では、グーグル社みたいにご飯もあって色んなアメニティもあって、とはいえ、従業員は価値を生み出してもらわなくてはいけなくって、彼らにホテルみたいなサービスを用意してどうするんだ?というのも議論としてはあります。

したがって、やはりそれは事業の生産性に貢献するオフィスになっているか?というところで「空間の生産性」も指標として見ていかないといけません。

最後の1人あたりのコストという部分も、シェアオフィスが出てきているなかで、本当に本社を不動産を借りて、工事をして5~10年契約して作るのが良いのか、それよりシェアオフィスを使った方がいいのか、というコスト比較ができる必要があります。

これら4つの指標をいつもウォッチしていると意志決定しやすいのかな、と思っています。

須崎:前職のWeWorkで色んな会社のワークプレイスコンサルティングを手がけた際に色々な契約書を見させて頂いて、その席数などを見てはじいたものだと、一坪月3万円くらいのオフィスを借りられていて席当たり坪が2坪近くの会社さんですと、おそらく1席あたり18~19万円くらいかかってらっしゃることが多いのではと思います。

そうすると、実は最近だとコワーキングオフィスの値段と比べても、コワーキングオフィスの方が低かったりするんですね。そういうものとさっさと組み合わせる、というオプションが財務的にも出てきます。

お客様がオフィスに来る時代へ

――なるほど。それを比較すること自体で、自分達のオフィスってどうあるべきか考えるきっかけになりますね。

本田:この15年をかけて、営業職の人数が減少の推移をたどっています。逆に少し増えてきているのが、営業事務職と言われるインサイドセールスの人達なんですよね。

インサイドセールスの人達は今までの営業の方々と違って、社内にいてセールスをする人達です。日本はまだ営業職が結構多いと思うんですよね。開発の方は勿論いらっしゃいますけど、営業が多い。

最近、新しいデジタル系、外資系の会社さんがやっているのは、インサイドセールスの拠点を作ることです。クライアントを訪問するのではなくて、オフィスに来てくれる形にする。

そして、そこに来れば自分達のテクノロジーを見れる状態にセットしておく。そこにインサイドセールスの人を置いて、ツアーをして、そこでお客さんの課題を聞いて「じゃ、こういうテクノロジーできますよ」という舞台を用意しておく。

議論が進んでいったら、そこのバックに控えている開発者やエンジニアを引っ張ってきて「こういう課題があるそうなんだけど、解消できない?」とその場でディスカッションをして、1日の終わりには何かしらのモックアップをお渡しできてる、とか。

そうなると今まで営業の人達が外で拡散的に行っていた活動も、オフィスの中でインサイドセールスとして効率化できるようになります。

オフィスづくりというものを、「単なる作業する場所、会議する場所」以外の何か自分達のビジネスモデルに合わせた施設づくりを考えていくことも、事業の成長につながると思っています。

――非常に面白いですね。クライアントをコンシューマーと捉えて魅力的なオフィス作りをすることで、オフィス目当てで来てくれて、結果として商品にも興味を持ってもらえることが増えていきそうですね。

本田:店舗づくりも、そうですよね。小売店も店舗で買い物をするのではなくて、そこで商品を知ってもらってWebで買うとか、あとは在庫をその場所で持たないようにして、そこで注文できるんですが、明日中にお届けしますとか。

そういったものができてくると、店舗の面積も減るし在庫を抱える必要もなくなる。近郊の工場や倉庫から配送できるといった、テクノロジーが進化したからこそできることがありますね。

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