コロナ禍後の働き方や総務の役割について寄稿を続けてくださっている総務プロの金英範プロ。前回の記事、在宅ワークにおける体調管理のポイントの記事には、多くのご反響を頂きました。
今回は続編として、引き続きテレワークで成果をあげるために必要なポイントをご紹介いただきます。
テレワークが新日常化(ニューノーマル)となりつつありますが、今回の新型コロナが来る随分前からテレワークの達人達はすでに多くの方々がそれぞれ独自の生活習慣にあったテレワーク方法を実践されています。
一方で、今回新型コロナの影響で待ったなしのテレワーク(主に在宅業務)をいきなり遂行されている方々は、自分の業務に合ったテレワークのやり方を試行錯誤で探されていると思われます。
その意味で比較的テレワーク初心者の方々向けに簡単にそのコツを整理しております。これに限らず、私個人の経験と周辺にいるテレワーカー達人達の働き方から学んだものを一例・参考としてまとめていますので、その一部でも皆様のお役に立てることを祈ります!
前回の記事では体調管理についてお伝えしましたが、在宅&テレワークには4つのポイントがあります。
▼在宅&テレワークの4つのポイント
①体調管理(前回の記事はこちらから)
②ツール
③ルール
④変化の受容
①体調管理に関しては前回詳しく紹介しましたので、今回は②のツールについて紹介いたします。
ひと昔前までは、テレワークと言っても、それは電話会議とメール&個人作業というオフィス業務の「延長線」でしかなく、あくまでリアルを補完するもので、その生産性はあまり高くありませんでした。
あえていうなら「移動時間が省けた」という程度のことでしょうか。その場合は生産性向上の効果は限定的で、やはり移動時間(国内、会議出張も含めて)をかけてでも、Face-to-Faceで会ってしまったほうが、成果が出る場合も多くテレワークはそれほど浸透しませんでした。
一方で、ここ数年のテクノロジー&ツールの進化でテレワークはまったく違うものとなってきています。テレワークが通常のオフィスワーク(いわゆる朝起きて会社へ行き、そこで仕事をして帰ってくる)を生産性の観点で上回って来ているのをテレワーカー達は実感してきました。(私もその一人です)そのあたりは後述しますが、それぞれの目的に応じたツールの開発と競争環境ある発展により次元の違うパフォーマンスが出せるようになっています。
その流れの中で今回の新型コロナがやって来たのです。多くの不の側面もあるのはもちろんですが、個人的にはギリギリ間に合ったという感じで、現代のテレワークの生産性はこれで多くの人に再認識されたと思っています。
この新型コロナが3年前に来ていたら、このテクノロジー進化はまだ途上だったでしょうから、今回の自粛生活はまったく違った苦悩と経済生産性への打撃があったことでしょう。(あくまで個人的な観測です)
さて、では具体的にここ数年でどんなツールが変わったのでしょうか?
皆似たようなツールばかりで、何が違うの? そのあたりを理解し、まずは自分の腹にストンと落とし込む必要があります。そのためには、一旦戻りますがここ20年間くらいの流れを簡単に見てみる必要あります。
オフィスワークは戦後の対面&電話の時代から、1990年代後半に登場した「Eメール」の登場(これは革命的でした)で、ホワイトワーカーの業務生産性は格段に向上したのは、その世代の方々には記憶に新しいことでしょう。
つまりOne-to-Oneで終わっていたベタな会話を、「CC」機能で多くの方々へ一瞬で「共有」できるなど、コミュニケーション伝達力は大きく増しました(CCの乱用でのメール1日150件!なんて弊害もでました。ほぼスルーで意味なし、なども)。その流れが現代まで続いています(図1)。
この変革は素晴らしかった反面、あくまで「非同時性」のコミュニケーションの活性化、という範疇内ということを忘れてはなりません。つまり、皆が同じ時間を「共有」しなくとも時間をずらしてコトが進んでいく。相手が今何やっていても気にならない、こちらの都合でメールを送っておけば大丈夫、あとは返事を待とう、という具合です。
皆(会社)が常に同じ方向を向いて同じプロダクトで勝負している限りはこのやり方で多少の時差を生みながら同時進行する流れでも、その生産性は確保できましたが、現在のように多様な市場ニーズに即した急激な変化への即応やビジネスの方向転換には「Eメールコミュニケーションだけでは対応できなくなってきた」ことも、多くの方々が感じている通りです。
前述のとおり、テレワーク=オフィスワークを在宅ですること(延長線上)となり生産性は上がらずむしろマイナスとなり、テレワークは浸透しません。やはり会社へ行って皆で集まって集団で生産性を上げたほうが得策です。
そんな中で、昨今の有効な「ツールたち」の登場です。これは私の個人的な好みもありますが、その代表例が以下(図2)です。
Teams、Slackなどの「プロジェクト型ワーク」を可能とする業務プラットフォーム(とにかく集まれ仲間たち!)的なツールを起点とし、そこからZoom, Hangout、Meet、Wherebyなどのテレビ会議システムや、Dropbox、 BOX、One-Driveなどのファイル管理ツール、購買管理ツール(受発注)、契約管理ツール(電子ハンコ)、またGoogleカレンダーやOutlookカレンダーなどへの自動連携、チャットボットを活用したAI コミュニケーションまで幅広く「働く場」が広がりました。
ここでいう「働く場」は物理的(リアル)な場所の意味でなく、バーチャルでの働く場を指します。そのバーチャルとなった働く空間の中に自分が準備できたら「入り込んでいって」、あたかもそこに自分のアバターがいるがごとく「半リアルタイム」にコミュニケーションしながら仕事を進めていくイメージです。
「半リアルタイム」という言葉は私が勝手に使っていますが、つまりEメール(非同時性)と電話(同時性)の中間くらいでしょうか。
わかりやすく言うとLINEでの友人たちとの会話くらいの意味です。ちょっとだけ時間をずらしながら、会話によって物事が決まっていくイメージです。(ほぼほぼ同時性)後から追いつく必要があっても(未読が30件!)、LINEなら一瞬で会話に追いつくことができますよね。(半リアルタイム)。添付されている写真や説明、ファイルも一瞬でひらけます。これはメールではできないLINEの「簡単」かつ「時短」の特性であることは皆さん日常でも感じていらっしゃる通りです。
テレワークに慣れてきた方々は、朝起きたら「会社へ出社する」ではなく、朝起きたらまずは「Teams/Slack空間へ出社する」という感じでしょうか。その「場」に集まっている情報や依頼事項などをベースに、その周辺のツールたちへアクセスしていきます。もうこうなってしまってはEメールは必要なくなり、1日のメールの数は激減するわけです。
テレワークに必須の生産性が上げるツールたち(私の個人的な好みですが)
① 業務プラットフォーム:Slack, Teams, Notionなど(まずはここからスタート)
② ネット会議:Zoom, Hangout, Meetなど
③ ファイル管理(シェア):One-Drive, Google Drive, Dropbox, BOXなど
④ スケジュール管理:Googleカレンダー
⑤ パッケージツール系:電子ハンコや電子契約、ロボット経理
⑥ 購買プラットフォーム:KOBUYなど(在宅に必要な業務用消耗品などが注文できる)
⑦ ユーザーインターフェース:スマホアプリ、AIヘルプデスクなど
テレワーク達人達からみたら一目瞭然かと思いますが、上記のツールたちはGoogle系とMicrosoft系、その他が混在しています(これが悩みでもあるのですが)。コンサルタントという私の職務的に仕方ない面がありますが、相手の企業(または公共団体)のシステムに合わせる必要がどうしても出るので、いわゆる「何でもツール屋さん」になるしかない、という事情だからです。
これは一つの企業内に限定した利用であれば、例えば大企業なら①Teams一本で大体のことは問題ないでしょう。ただしB-to-Bの業務、外部とのコラボ業務となった瞬間に、これまたいろんなツールたちとのお付き合いが必要となります。
上記の大半を網羅する「Notion」というスーパーアプリも登場してきています(こちらはまだ私は修行中の身です)
他には、テレワークの際の「労務管理」「業務管理」系のツールですが、私はそれは法的な必要性を除いては、特にオススメしません。上司や顧客が進捗を逐一管理するやり方自体、テレワークには向かない働き方(管理の仕方)なので、そのカルチャー要素が大きい場合は、Face-to-Faceへ戻したほうが良いかもしれません。このあたりの話はこのテレワーク関連シリーズの最終回「④変化の受容」で触れます。
では、前述の多岐にわたるツールたちを、自分自身はどのように使いこなせば良いのか?
よく言われる「業務内容によって選別する」というのはちょっと違う気がしています。それはそのツールたちが「業務内容」を意識してデザインされているわけではないからです。
これは私の持論ですが、あえて言うなら自分の仕事の「付加価値の出し方」で、「業務」というよりは「職務」によって選定するほうが良いとアドバイスします。ちなみに「業務」とは部署や会社などの単位で成果を出す仕事のことであり、「職務」は個人としてのミッションやジョブのことです。
ざっくりですが、わかりやすくするためにテレワークが可能となる職務(ジョブ)でその付加価値の出し方を3タイプに分類してみました。統計はないのであくまで感覚的、経験的ですが、割合的には例えば10%、70%、20%で分けてみましょう。
職務① アウトプット型の高付加価値提供(10%)
職務② インプット&アウトプットの連鎖(バトンタッチ)で付加価値を提供(70%)
職務③ 定型の枠内で集中して付加価値を提供(20%)
職務①の例としてはデザイナーや個人の作家、音楽家、または講師という職務(ジョブ)をイメージしていますが、それに限りません。その付加価値の出し方は、自分の内面にあるものをいかに引き出すか、または学術論文など独自の調査や独学の勉強をベースに、世の人々へその「成果」を届けるか、などがあります。
昨年はQueenの大ブームでしたが、映画の途中でフレディマーキュリーがブライアンメイやロジャーなどと一緒に田舎の農家へ引きこもり、チームで時間をかけて切磋琢磨で作詞作曲しあの名作「ボヘミアンラプソディ」を産んだ過程が描かれていましたが、まさにあのシーンが職務①型の高付加価値提供の業務という感じです。
外部との遮断も効果的となります。このタイプの職務(ジョブ)がテレワークになった場合でもあまりツール(道具)は必要ないと思われますが、あえて言うならZoomなどリモート会議ツールで、相手の顔を見ながらインスピレーションをもらい・与えながら、その独創性をOutputの付加価値へとつなげる、という感じでしょうか。業務プラットフォームやファイル管理、コミュニケーションツールは不要で、伝達や会話などはLINEでも十分です。
職務②の例としては大半のバックオフィス(総務、人事、経理、法務…)機能や、マーケティング、営業、マネジメント、その他の調整やすり合わせなどが必要な職務です。
このタイプの職務(ジョブ)の生命線は、調整力やタイミング、スピード、伝達力、調和、協調、推進力...など数えたらキリがないくらいの能力(職能)が必要とされます。
その職能に加えて、それぞれのジョブの経験を磨くというイメージですね。そのタイプの方が必要なテレワークのツール(道具)としては前述の「すべて」と言うことになりますでしょうか。ありとあらゆる道具(武器)を使いこなして初めてその成果が出る、という感じです。
職務①の領域(10%の才能や教養が武器のグループ)になりたいですが、現実は私も多分こちら②でしょうか(笑)
当然すべての道具をつかい、あの手この手で、テレワークの成果を出していくしかないでしょう。ただそれができるようになったら、もう以前の働き方へは二度と戻れない(戻りたくない)境地に入りますので、これは不可逆性の進化だと感じます。
仕事を以前と同様(給料一緒)またはそれ以上にしていける感覚を持てる上に、さらにライフ(LIFE)のほうもびっくりするほどの時間が取れる(家族や趣味、スポーツに割く時間が増える)。それこそがテレワークの本当のご褒美、ニューノーマルなのではないでしょうか。
職務③の例としては入力作業や請求書処理、文章体裁のチェック、定型範囲内で対応する受付窓口的な職務などがありますが、こちらは品質が一定という前提とすると働く時間=成果という側面もありますので、ツール(武器)としては上記の職務②で必要なほどは要りません。
自分の能力(=単位時間あたりにどれほどの量をこなせるか)が勝負となりますので、その能力を磨くことで競争優位に立つことができるでしょう。ただこの分野はAI市場が随時進化浸透してきていますので、そのあたりの動向を見ながら新たに出てくるツールと上手くお付き合いすることも必要でしょうか。
とにかくかけた時間が勝負なので、テレワークのご褒美(前述のLIFE時間)も得づらいのも特徴です。働く職務は個人の自由なのでもちろんニーズもあり尊重すべきものですが、継続的なテレワークを目指すなら、どこかのタイミングで②へのキャリアシフトも必要になってくるのでしょう。
いずれの職務(ジョブ)においても、テレワークツールをまずは試してみて自分なりの(会社なりの)ベストな組み合わせを探していくのが良いのではないでしょうか。
これはよくある話ですが、大手企業などでの職能管理・業務管理型の働き方や、個人の職務(ジョブ)が明確でない場合は当然ですがテレワークは厳しいです。前提としてジョブがはっきりしている場合にテレワークは生産性が上がり、その成果に対する信頼と一定のルールのもとにツールたちも効果を発揮します。
(このあたりの話は次回③ルールにて詳しく紹介します)
皆様の当面のテレワークと在宅ワークが慣れてくることを応援しています!