総務プロとして活躍されている金英範プロにオフィスでの「新型コロナウイルス対策(テレワークを円滑に進めるためのルール)」についてインタビューしました。
オフィス設計事務所での勤務経験を経て、米大学院へFM修士留学。帰国後、外資系証券会社を中心にいくつかの企業の総務、FMをインハウスで20年以上実践。またコンサルティング、アウトソーシング事業などサプライヤーとしての経験も豊富。
2012年メリルリンチ日本証券総務部長、2016年日産自動車コーポレートサービス統括部部長を経て、現職Workwell Technologies, Inc.の日本支社長。兼業のHite & Co.にて戦略総務、オフィス移転や自分達らしいワークプレース造り、ファシリティマネジメントの社内側アドバイザリー活動を活発に行っている。
まず初めに、ルールといっても必ずしも「厳守!」とする必要はなく(余計にストレスがかかりますので)、ゆるい決め事、くらいで思ってください。
テレワークを円滑に進めるために、以下3つの視点で整理します。
会社のテレワークのルールだけに注目しがちですが、これから始まる長期戦を乗り切るには自分のルール、家族のルールが明確でないと周りのみんながストレスを抱えることになってしまいますので、これらも考える必要があります。
3つのルールの中で一番大変なのが自分のルールを決めることかもしれません。今まで在宅ワークを行なっておらず単純に慣れていないという理由からです。
テレワークを円滑に進める自分のルールの考え方は、会社での働き方とテレワーク時の働き方は変えること、です。
テレワークが始まってから会社と同じようにこんな働き方をしていませんか?
上記進め方だと、Web会議も今までの延長線で1時間刻みなので、会議と会議の時間が無く、またWeb会議にて慣れない接続作業にも戸惑ってしまいます。
つまり上記の働き方は会社の働き方をそのまま在宅へコピーしただけということです。場所が会社なのか家なのかの違いだけ。これでは会社にいた方がよっぽど効率が良いと思います。
会社であれば、会議と会議の間のちょっとしたトークで事が済んだり、移動時間もあり多少頭の整理ができたり、水飲んで気分転換や、ばったり会った人と少し話が出来たり。
多少会議に遅れても場の雰囲気で何とかなったり、ホワイドボードに書き出している内容など周囲からのインプットが多く、状況把握キャッチアップもしやすいです。
このような会社にいるときの何気ないストレスを低減している利点のようなものは、テレワークでは難しいため会社の働き方をコピーしたような働き方はストレスが溜まります。
▲(図1)自宅での勤務で効率が上がったか
図1はパーソル総合研究所が最近行ったウェビナーからの抜粋ですが、日本生産性本部の調査結果では、在宅ワークで仕事効率が上がった・やや上がった(計33.8%)という意見に対しやや下がった・下がった(計65%以上)が多くなっています。その原因の一部は「会社の働き方を在宅でやろうとしているから」にあるかと私は推測します。
以下は私のルール(テレワークの働き方)です。
ここまでの業務で約30分ですが、すでに相当のキャッチアップ&仕事が進んでいます。私の場合、ざっくりですが同時進行の8つのProjectの状況、問題点や解決策のイメージ、次のアクション、誰が進めているかなどが明確になる感じです。たった30分でここまで出来ます。
必要に応じて急ぎで連絡したいときにたまたまオンラインになっている人がいたらその場でWeb会議ボタンを推してクイックで5分会議を行い、資料の共有やすり合わせなど、決定することは決定します。その会議の録音をSlackに貼っておいて後で皆がいつでも決定事項を確認できるようにする、など工夫しています。
なんとなくお気づきの方もいらっしゃると思いますが、このスピード感は会社のリアル空間ではできません。まったく違った「アバターの自分」がバーチャル仕事空間へ出社し、その中で他のアバター達と仕事をリアルと半リアルの時間を行ったり来たりしながら進める、というイメージです。
▲(図2)テレワーク継続意向
図2のデータでもありますとおり、80%以上の人がテレワークへの継続意思を持っています。テレワークを継続する時は、繰り返しになりますが、まずは自分のルールを決めることが必要です。
以下は私のルール(時間の管理)です。
個人集中ワーク時間もガッツリ3時間、会議などでコミュニケーションも1日平均して20~30人程、家族との時間も確保でき、自分の時間も余裕あり。
私もこれら自分のルールで仕事できるまでに1年以上かかりましたが、慣れてしまえば大したことはありません。むしろ自分の時間を確保できるタイミングも多く、間に妻の買い物を手伝ったり、娘の宿題をさくっとみてあげたりすることも十分可能です。(家族平和は地球平和。笑)
次に家族のルールです。我が家のルールを例にします。
私の妻は多少の仕事はありますが、80%は専業主婦という立場ですので、会社にいる時より明らかに長い時間一緒にいることが増えました。アメリカの郊外にあるような大きな家であればこれも気にならないでしょうが、そこそこの狭い空間で長い時間一緒にいるということは、どんなに平和な家族でもストレスは感じるのは仕方ないことです。
例えば私の場合は、
など簡単なルールをつくって妻と同意しています。妻の負荷、ストレスを取り除いてあげることが家族のルールを作るうえで重要なことです。
我が家の場合の妻の一番の負荷は昼ご飯です(朝と夜ごはんは直行直帰の夫であれば、通勤でも在宅でもそれほど大差はないかと思います)。この負荷をまずは取り除きます。これだけでも主婦の方のストレスは半減するでしょう。男女に関係なく、「上げ膳据え膳」をされるのは気持ちいいことです。昼ご飯くらいしてあげることで、少しだけでも気持ちが和らぎます。
こちらが忙しくてどうしても難しい場合は、Uber-Eatsなどで出前を頼んであげて、一緒に食べて後片付けをやってあげるとかでも良いです。
要するに私が昼ごはんの「Food Manager(FM)」になれば良いのです。これにプラスして子どものケアをすることで、テレワークでも家族平和は保たれています。このようにテレワーク時にはパートナーに配慮してあげることが重要です。
最後に会社のルールです。大半の会社がリモートワークを前提にした人事制度や評価制度が整っていないので、そこが一番の難題です。
最初に私が思う会社がルールとして設定すべきは下記だと提言します。
これを念頭に置き読み進めてください。
まずはテレワークの成果が出ない悪例マネジメントを紹介します。
テレワークで実際に成果を出している会社(個人)の方なら、上記のこのやり方がまったくもって生産性が上がらない、ということは簡単に理解できますね。なぜならこれは、オフィスでの働き方をリモートにしただけだからです。
働き方は何も変わってないのです。それならオフィスへ行ってしまったほうが、Face-to-Faceや偶発的な業務遂行やイノベーションも期待できるのでそのぶん有利となります。上記のようなリモート業務をしている企業はコロナ収束後には元の姿に戻るでしょう。
またチーム状況や勤怠を把握する=成果が出る、ではないことを理解し、プロセス管理をせずに短期的でもいいので信頼を置いて、ある一定期間(例えば1週間の成果報告など)での進捗管理を行うくらいにすることをお勧めします。
テレワークは何よりも信頼関係、安心感をいかにつくれるか、これが成果を出す一番の鍵です。
テレワークで生産性を上げるもう一つの鍵は、プロジェクト推進型の業務遂行ができるかどうかです。ジョブ型業務、つまり各自のミッションが明確かどうかで、テレワークの成果は大きく変わります。
ジョブ型の職務や、JD(Job Description)型の採用になっている場合は、その職務の遂行と成果を定期的に評価すれば良いので、仕事の途中のプロセスは逐一見る必要はないですし、上司と部下の関係がリモートワークであっても円滑な距離感で行うことが出来ます。
テレワークによる中長期の成果(オフィスのコスト削減、働く選択肢の多様化、社員エンゲージメント向上など)を目指したい企業は、まずはこの際検討すべきはジョブ型への布石として、各メンバーのポジションごとのJDをいったんつくってみることを推奨します。
JD(「あっ私の仕事と責務はそれなのね」という認識)を明確にすることにより、社員のモチベーションを上げその明確さによりテレワーク中の不安もなくなり、プロセス管理をしなくとも結果的に成果が出るようになるからです。
また社員はそのミッションに自分が追いつかない(大抵そうです)と感じた際には、その足りないものは自分で学ぶというアクションを自然に取り始めます。
これが会社の継続的な成長の源泉となり、競争力がつきます。最初の一歩は大変ですが、まずは各メンバーの今年のミッションJDを作成し、それを1on1にて同意しながらプロセス管理ではなく、ミッション管理していくことをルール化してみることをお勧めします。
セキュリティ上の管理も難しくなりますが、ツールを使ったコミュニケーションだからNGという風には私は思わないです。Face-to-Faceの夜な夜なの密会のほうが、よっぽど情報漏えいなどセキュリティ上の問題があるのでは?と思うからです。これはシステムの問題ではなく、最後は個人のプロ意識の問題なのでセキュリティの話はここでは避けておきます。
以上、まずは試してみて自分なりのベストな組み合わせを探していくのが良いのではないでしょうか。皆様のテレワークと在宅ワークが上手くいくことを応援しています!