アフターコロナのオフィス戦略はハードからソフトへ

リモートワークの拡大により、オフィスの目的や存在意義が問われています。この度、総務プロとして活躍されている金英範プロに、今後オフィスについてどう考えていくのがよいかお伺いしました。

  • 金英範 氏のプロフィール
  • アフターコロナのオフィス戦略はハードからソフトへ
  • ハードの削減とソフトの充実
  • 総務としてハード削減は目的ではなく、あくまで手段
  • 経営者と総務に必要なパラダイムシフト
  • オフィス&福利厚生変革の方法

金英範 氏のプロフィール

オフィス設計事務所での勤務経験を経て、米大学院へFM修士留学。帰国後、外資系証券会社を中心にいくつかの企業の総務、FMをインハウスで20年以上実践。またコンサルティング、アウトソーシング事業などサプライヤーとしての経験も豊富。

2012年メリルリンチ日本証券総務部長、2016年日産自動車コーポレートサービス統括部部長を経て、現職Workwell Technologies, Inc.の日本支社長。兼業のHite & Co.にて戦略総務、オフィス移転や自分達らしいワークプレース造り、ファシリティマネジメントの社内側アドバイザリー活動を活発に行っている。

アフターコロナのオフィス戦略はハードからソフトへ

新型コロナウイルスの影響により、多くの企業が在宅中心のリモートワークを余儀なくされています。

リモートワーク自体が初めての試みで、運用方法に戸惑い、なかなか成果が出せずにいる企業も見られますが、実際にリモートワークを実施してみて移動時間がなく仕事に集中できる、時間の調整がしやすくなった、などポジティブな側面があることも明らかになってきました。

業種によっては、オフィススペースの削減を内部に指示されている企業も増えています。これは日本に限らずグローバル企業でも同じ傾向です。

コロナ収束後のオフィスのあり方について、「ハードからソフトへのさらなるシフト」が考えられます。

その具体的な施策例として、今回はオフィススペース(ハード)から福利厚生(ソフト)をテーマに、「オフィス新時代」を私なりの経験知とグローバル、国内企業の動きを見ながら解説していきます。

ハードの削減とソフトの充実

前述の通り、ここでいうハードとはオフィススペース、ソフトとは福利厚生を指します。

まずハードについて考えるべきことは、リモートワークの浸透と個々の働き方の変化を受けて、まずは本社オフィスのリアルスペースについて再考することです。これはグローバル企業ではやや先行して議論になっており、実際にオフィスの方針を表明している企業も出てきているので、傾向や正攻法を参考にするとよいです。

日本のある大企業は「スペース50%削減」をベースに、オフィスの位置付けや機能、デザイン、社員への働き方推奨とそのトレーニング方法などの大幅な改革と同時にソフトの充実、つまり福利厚生やサポート体制の構築に向けた計画・整備を開始しています。

コロナ禍ではハードとソフト両方の改革の動きが早い企業と遅い企業では大きなビジネスの差が出てくることが予想されます。

――コロナ前もオフィス削減の動きはありましたが、コロナの前と後で何か変わったことはありますか?

コロナ騒動が起こりより重要度が増したものは、ハードを削減することで出てきた固定費の中から、1人20万円相当の正しい投資を実行するということです。

ハードの削減、つまりリアルスペースの削減とレイアウト変更、そして働き方改革を同時に実現することにより、コスト換算で社員1人あたり20万円〜50万円の固定費削減が可能となります。これは以前からも正攻法として色々な企業が実行してきました。

アフターコロナではこれに加えてソフトの充実、

  • 福利厚生関連サービスの充実
  • ワークプレースデザインの変更
  • ITツールの充実

社員に対してこれらの投資が重要となってきます。これらを抱き合わせた総合戦略とプロジェクト立ち上げによって、社員のモチベーションUPと快適なワークライフが実現可能となるのです。

財務的な観点でみると、バランスシートとP/L、CFの観点でコントロールすることで結果的にROAが向上する土台ができます。

総務としてハード削減は目的ではなく、あくまで手段

総務の観点では、スペースおよびコストの削減は目的ではなく、あくまで手段であることを忘れてはいけません。

ただの削減だけではコロナ生活で疲弊してオフィスに戻ってきた社員のモチベーションがさらに下がってしまいますし、そもそも会社への信頼感など持てなくなってしまいます。退職する人も増えかねません。

新型コロナによる被害は大きいものの、その一方で諸々の働き方の変化や人々の考え方のパラダイムシフトによって、結果的にこの「新しい、ポジティブな目標設定」ができるチャンスを与えられたのも事実です。真の目的である、社員のエンゲージメントとパフォーマンスの向上に向けて、まさにチャレンジすべき好機だと考えます。

経営者と総務に必要なパラダイムシフト

今回のオフィス&福利厚生変革は従来ありがちな、総務単独、人事部単独からの提案を受けるだけでは絶対に実行不可能です。

各部署の予算内または追加予算で提案するしかないため、実行が停滞してしまい致命的なタイムラグを生んでしまいます。またユーザーの声を丁寧に聞くだけでも答えは出ないでしょう。むしろ間違った方向へ行ってしまい、対応がかえって遅くなるリスクさえあります。

そこで経営者の考え方もパラダイムシフトが必要になってきます。変革プロジェクトを立ち上げるにも、予算は無いではなく、予算はベースライン内でつくるのです。その予算の源泉は固定費(ベースライン)であるスペースコストから捻出できます。

新型コロナの前には実現が難しかった「スペース削減+働き方変革」の抱き合わせプロジェクトが今なら実現可能となったのです。

オフィス&福利厚生変革の方法

具体的には、変革プロジェクトを社内決定したあとに、総務と人事の成果目標をセットし、総務予算から人事予算へ予算振替を戦略的に行います。それをPLへ影響しないベースラインバジェット内で実行するのです。

総務+人事部の提案に対する最終判断こそが経営者の仕事です。外資系企業ではCOO(チーフ・オペレーティング・オフィサー)という職務が明確にあり、その権限内で人事予算と総務予算のさじ加減をコントロールできるため、上記のような判断は定期的に行われています。

実態として縦割り予算管理型の日本大企業には少しハードルが高い作業ですが、今その決断を経営者が出来ないと未来はないと思います。その決断をするメリットと、しない被害(何も変わらない、そしてジリ貧へ)は計り知れないほどのビジネス格差を生むと思われます。

一方で、COO的なポジションがある可能性が高い中小企業にはスムーズに進むプロジェクトとなることでしょう。

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