新たな人材開発手段である越境学習で
人はどう変わる?

人材開発でこんな課題を抱えていませんか?

 昨今、技術の発展によりビジネス環境がめまぐるしく変化しています。

 それに伴い、人材開発に必要とされることや、人材開発における課題に変化が生じています。あなたは今、人材開発においてこのような課題を抱えていませんか?

 ・人材開発に携わる指導者がいない
 ・人材開発にかける時間がない
 ・人材開発技術や知識がない
 ・人材がなかなか育たない
 ・人材がすぐに離職してしまう
 ・次世代のリーダーがいない
 ・人材のモチベーションや意識が低い

 その課題、「越境学習」を紹介するこのコラムを読めば解決できるかもしれません。

注目を集める越境学習

 近年、新たな人材開発の手法として注目を浴びる越境学習。

 「聞いたことはあるけどよくわからない…」
 「導入するとどんなメリットがあるの?」
 「実際にどんな企業が導入しているの?導入方法は?」

 と興味を持っている方も多いのではないでしょうか。

 そこで、今回はメリットや導入事例を交えながら、注目の「越境学習」についてご紹介します。

 まず越境学習とは、“所属する組織や企業の枠組みを、ビジネスパーソンが自発的に「越境」し、異なる環境での活動を通じて「学習」すること”を指します。

 ビジネスパーソンが越境学習に取り組む最大の目的は、自分の慣れ親しんだ環境から離れ、異なる企業文化や価値観に触れることだといえます。普段関わることのないビジネスパーソンと共に働くことで、多様な視点や気づきを得られることが期待できるからです。

越境学習が注目される背景

 それでは、なぜ越境学習は新たな人材開発手法として注目を浴びているのでしょうか?

VUCA時代の中で企業・個人が成長を続ける必要性

 私達は今、VUCAの時代を生きています。「VUCA」とは、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)が急激に高まった状況を表す言葉です。

 様々な環境変化が訪れる現代では、自ら課題を発見し、事業や組織を創造することができる従業員が求められます。

 越境学習では、自組織を離れることで意図的にVUCAな環境に身を置くことになるため、時代変化を疑似体験することに繋がります。

社員のキャリア自律の推奨

 終身雇用や年功序列制度が崩壊しつつあり、昨今では60歳を超えても、働くことが珍しくなくなってきています。そのため、企業ではなく個人が自発的に、自身のキャリアの創造を行うことが求められています。

 越境学習では、普段とは異なる環境で異なる業務を行うため、自主的に学ぶことが求められます。その結果、自発的に自分自身の可能性を切り開き、キャリアを創造する力を身に着けることができます。

社員・組織の活性化

 企業が目標を達成するには、組織を構成するメンバーそれぞれが主体的に、高い意識を持ち活動することが非常に重要です。リモートワークの普及など、働き方の多様化に伴い、社員や組織の活性化とモチベーションの維持は企業の重要な課題です。

 越境学習は、社員の生活に刺激と変化を与えます。その結果、社員や組織の活性化、そしてモチベーションの維持に繋がります。

優秀な人材による離職の深刻化

 優秀な人材が離職することに多くの企業が悩まされています。この課題を解決するには、人材が抱く組織への帰属意識を高めることが必要とされています。
 越境学習は、離職せずに外部組織の業務を経験できる機会です。日々の業務の形式化に、不満を感じている優秀な人材の離職を防ぐことができます。  

越境学習のメリット

 ここまでは、越境学習の意味と必要とされている時代背景についてお伝えしました。ここからは、実際に越境学習を導入したときの企業と社員のメリットについて見ていきます。

越境学習が与える企業へのメリット

①組織の活性化に繋がる

 従来、人材育成の手法として主流であったOJTとOff-JTはいずれも、基本的に同じ組織に所属する社員同士で行うものでした。しかし、常に同じ環境で同じ人と接しているのでは、新たな気づきや革新的な着想を得ることへの限界があります。

 越境学習では、異なる環境で活動することにより、所属組織内では触れることのできない価値観や視点、ノウハウなど、新たな気づきを得ることができます。

 また、外部環境で意識が向上した社員が、社内のロールモデルになり、他の社員に影響を与えることもあるでしょう。これにより、社員のモチベーションの向上と組織の活性化が期待できます。

②イノベーションが生まれやすくなる

 VUCA時代を生きる企業が存続し繁栄するには、市場の変化に柔軟に対応し、イノベーションを生んでいく必要があります。しかし、このイノベーションを同じ環境で生み出し続けることは非常に困難です。

 越境学習で学びや気づきを得た社員が、外部の多様な価値観やアイディアを基に、課題克服・業務の効率化を図ることが期待できます。

 また、異なる環境で活動することで、自社で日々当たり前に行っていたことが、当たり前ではないことに気が付くかもしれません。この気づきこそが、斬新なサービスを生み出すためのイノベーションの原点であり、業務改善のきっかけになるともいえます。

③次世代リーダー、若手世代の育成・活性化に繋がる

 日々様々な対応に追われており、次世代のリーダーの育成が思うように進まないことも多いのではないでしょうか。越境学習は、企業の中核を担うリーダーであるミドル・シニア世代の下で、なかなか活躍の機会に恵まれない若手世代を参加させることもできます。

 例えば、ベンチャー企業での越境学習では、普段は携わることのない新規事業の立ち上げを通じて、ベンチャーならではのスピード感を体感できるでしょう。さらに、社内のみでなく、競合を含む外部環境や、市場を常に意識することの重要性に気が付くかもしれません。

④ミドル世代・シニア世代の育成・活性化に繋がる

 越境学習は、終身雇用・年功序列時代に入社し、組織で長期間同じ仕事を担っている、ミドル世代・シニア世代の社員を活性化させることができます。
 外部組織で、自身が長年培ってきたスキルが通用すると、自分に自信がつき、また新たなことに挑戦しようという向上心とモチベーションが生まれます。

 また、自分よりも若い世代と交流することで、若者の価値観を知ることができます。これにより、新しいことに対してオープンマインドになり、多様な考え方を受け入れやすくなるでしょう。

 さらに、過去に社内で成功した手法ばかりを頼るのではなく、変化する環境と共に、新たな手法を生み出すことの重要性を知る機会ともいえます。

⑤社員の帰属意識を高め、人材の離職防止に繋がる

 越境学習は、「他社に魅力を感じた社員がそのまま離職してしまうのではないか?」と思われがちです。しかし、実際はその逆で、社員の帰属意識を高めることが期待できます。

 なぜなら、企業が研修制度の一環として越境学習を導入することで、転職せずとも新しい環境を社員に与えることができるからです。外部環境で得た成果を「自社に戻った際にはこんな挑戦や改革、提案をしよう」と所属組織へ還元するとも考えられます。

 したがって、マンネリ化を感じ、新たな環境へと転職してしまう優秀な人材を、組織内に留める効果があるといえます。

越境学習が与える従業員へのメリット

①自己理解が深まる

 越境学習は、自身も知らない意外な一面や、強み・弱みを知る機会であり、参加した社員の自己理解を深めることができます。

 ここで認識できた強みは今後のキャリアの軸に、弱みは今後に獲得すべき経験やスキルとして位置付けることができ、目標設定も行いやすくなります。

②社員のキャリア自律の実現

 外部環境での経験は、仕事や働き方について考える機会でもあります。社外で通用する能力・しない能力を見極めることができ、現段階での自分の市場価値や適性を知ることにも繋がります。

 さらに、様々なビジネスパーソンとの関わりを通じて、自分自身への価値観や課題設定の内省が促進されます。越境学習で、自分自身の軸を明確にするとともに、社会への新たな貢献方法を発見することができます。

③人的ネットワークが広がる

 越境学習では、普段所属する組織では接することができないビジネスパーソンとの関わりがあります。新たなビジネスパーソンとの出会いは、さらにまた別のビジネスパーソンと出会う機会を得る可能性もあり、今後のキャリア実現において貴重な資産であるといえます。

越境学習の方法

 では、越境学習にはどのような方法があるのでしょうか?
 今回は6種類の方法を簡単にご紹介します。

社会貢献活動(プロボノ)

 自らの能力を活用し、無償又は定額により行う公共的活動のこと。CSR(企業の社会的責任)の達成と、企業価値を高めることにも繋がります。

異業種交流会

 多種多様な業界のビジネスパーソンが集い、ワークショップや意見交換を行うこと。今後のキャリア実現において重要な人脈を築けることが特徴です。

副業・兼業

 プライベートの時間に、本業以外の仕事に取り組むこと。本業とは異なる分野のスキルを培うことができ、収入の増加が見込めます。

ワーケーション

リゾートや観光地で普段の仕事をリモートで行う働き方。普段はできない体験や出会いから気づきや学びが得られることが魅力です。

出向

 勤務する企業の関連企業への異動のこと。他の組織独自の業務プロセスを知り、様々な人と接することができる魅力があります。

留学

 海外留学も越境学習方法の1つです。留学を経験した社員は語学力やビジネススキルを伸ばすだけでなく、グローバルな考え方の理解が期待できます。

実際に取り組んでいる企業の例

 ここからは、越境学習に実際に取り組んでいる企業をご紹介します。

NECマネジメントパートナー株式会社

 同社では、社会課題の現場に実際に赴き、体感する機会を伴うリーダーシップ開発プログラムである「社会課題体感型人材開発プログラム(SENSE)」を導入し、社員自ら挑戦・成長しようとする人材を支援するプログラムの展開を行っています。2020年度は40人が参加したとのことです。

参考:人材開発・育成:社会│NEC
https://jpn.nec.com/csr/ja/society/labour_training.html

花王グループカスタマーマーケティング株式会社

 同社は、VUCA時代における新たな変革型リーダー人材の育成に、越境学習を2020年に導入しました。
 未知なる領域で自ら課題に取り組む、アウトプットを重視した体験型プログラムを行っており、導入には「学び」よりも「気づき」を得てほしいという想いがあります。

参考:教育プログラム(kao.co.jp)
https://www.kao.co.jp/employment/kcmk/sales/support/program/

参考:経済産業省「越境学習によるVUCA時代の企業人材育成 経済産業省『未来の教室』事業社会課題の現場への越境プログラム」
https://www.learning-innovation.go.jp/recurrent/

越境学習を提供している会社

 続いて、企業に対して越境学習を研修として提供している企業や団体を紹介します。

NPO法人クロスフィールズ

留職
 社会課題解決に向けて活動をするNPOや社会的企業に、社員を半投資以上に渡り派遣するプログラム。
社会課題体感フィールドスタディ
 社会課題の現場を「体感」するとともに、困難な課題に立ち向かい刺激を受ける数日間の管理職・役職者向けのプログラム。

社会課題解決ワークショップ
 社会課題の現場に精通するNPOのリーダーと共に、現地の社会課題を解決する事業アイディアの創出に取り組むプログラム。

オンラインプロボノ
 新興国のNGO等が抱える課題の解決に、日本からオンラインで挑戦するプログラム。

参考:https://crossfields.jp/

NPO法人2枚目の名刺

2枚目の名刺プロジェクト
 様々な業種・職種の社会人がチームを組み、新たな社会を創ることを目指している団体(NPOなど)とともに、団体の事業推進に取り組む有期のプロジェクト。

参考:https://nimaime.or.jp/

エッセンス株式会社

プロボノプログラムitteki
 複数の大企業社員による異業種混成チームをつくり、NPOやスタートアップ企業の課題解決に挑むプログラム。
 スキルの棚卸しやキャリア自律、事業の立ち上げ経験の獲得に繋がる。

他社留学
 次世代リーダーの育成を目的に、大企業の幹部候補社員に自社の枠を超え、スタートアップに留学してもらう機会を提供。未知の会社やメンバーと共に、課題発見や課題解決を活きたテーマで実践的に学ぶ越境研修型プログラム。
 スタートアップ特有の文化や事業スピードに触れることにより、大企業に還ってからも事業や組織の変革を牽引できる人材の育成を目指す。

まとめ

 人材開発の新たな手法として注目の「越境学習」は、企業と従業員の双方に多様なメリットをもたらすことが期待できます。このメリットを最大限享受するには、事前にどのような人材を育成したいのかを考え、育成目的に適した越境学習を選択することが重要です。

 越境学習はまだまだメジャーな方法でないだけに、導入には多少の勇気が必要だと思われるかもしれません。しかし、慣れ親しんだ環境に居続けることもまたリスクであると言えます。

 会社を離れることなく、新たな自分を探したり、試したりできる越境学習は、実は気軽にはじめやすいものです。自分自身や自社の社員の可能性を広げるため、ぜひ新たな一歩を踏み出してみましょう。

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