事例紹介

宇宙航空研究開発機構(JAXA) × IDEO TOKYOの導入事例

「クリエイティビティと多様性あふれる環境に越境し、ポジティブで建設的な文化の心地よさと価値を学んだ」 (職種:研究開発、留学頻度:週5日、留学時:新卒入社12年目)
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目的
クリエイティブな企業の文化・方法論を理解し、自社のクリエイティビティ向上に資するため
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背景
JAXAが「技術で地球の未来のために何ができるか?」を問い続け、真に価値あるミッションを創出する役割を担うにあたり、ゼロからイチを生み出すスキル・人材が不足していると感じていた
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効果
「デザイン思考」という方法論/多様性あふれる人々との協働/クリエイティビティをサポートする環境・文化を学ぶ
他社留学を終えて元の職場に戻った「卒業生」にインタビュー。留学中、留学後の想い、そして「留学後に何が変わったか」について、体験談を語っていただきます。
今回お話を伺ったのは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の長福 紳太郎さんです。JAXAの人材育成制度の一つである「宇宙ビジネス共創・越境プログラム」の一環として、他社留学を活用いただきました。越境先は、デザインとクリエイティビティを通じて、日本のさまざまな組織の新規事業創出や組織変革をサポートする会社、IDEO TOKYO。越境中は、宇宙旅行者の体験をデザインするプロジェクトに携わりました。
所属 宇宙航空研究開発機構
留学先 IDEO TOKYO
他社留学期間 週5日/1か月間(2021年9月~2021年10月)
留学した人 研究開発部門 第四研究ユニット 長福 紳太郎さん(留学時:新卒入社12年目)
――今回、JAXAの宇宙ビジネス共創・越境プログラムを通して越境することになった経緯と越境先企業を選定した経緯を教えてください。
長福さん(以下、長福) はい、応募した理由は、「デザイン思考」を現場で学びたいと思ったためです。以前から、デザイン思考という方法論はJAXAにおける新事業企画やプロジェクトのフロントローディング能力向上に資すると考え、独学で学んできました。しかしそれを実際に使えるスキルにまで高めるためにはOJT(On-the-Job Training)が必要と考え、越境の機会を使わせて頂こうと考えました。越境先については、どうせならぜひ、デザイン思考の総本山的企業である「IDEO TOKYO」にと考え、ダメ元で先方と調整させて頂いたところ、過去のJAXAとの協同で良好な関係が築けていたこともあって、受け入れて頂けることとなりました。本越境の実現のために多大なる協力を頂いたIDEOさんには、心から感謝しています。またこのご縁は、過去のJAXA-IDEO協同プロジェクトで培われた素晴らしい関係性があったおかげですので、JAXAの先人のみなさんにもとても感謝しています。
――越境中は、宇宙旅行者の体験デザインを行うプロジェクトに携わられたと聞きましたが、具体的にどんなことをされていたのですか?
長福 私が今回の越境で携わったのが「Project MUJU」です。これは、私とIDEOのシニアビジネスデザイナーである森智也さん(通称「チーニ」さん)から構成されるチームが、宇宙とデザインの交点を模索する目的で立ち上げたプロジェクトです。昨今ますます現実味を帯びてきた宇宙旅行を、旅行者の体験を中心に据えて考えてみることで、これまでの宇宙開発では見えてこなかった課題やデザイン領域が見えてくるのではないか。そんな期待をもって、本プロジェクトはスタートしました。このプロジェクトの中で、「宇宙旅行」というテーマを現実的なひとつの旅行体験として捉えた結果、高額なコスト以外にもまだまだハードルがたくさんあると感じるに至りました。本活動の中で私はリサーチやコンセプト創出、ストーリーテリング、プロトタイピング等、基本的なデザインプロセスを自らの手を動かして実行し、成果をウェブサイトの形にまとめました。短期集中の越境だったおかげで、集中的に一気通貫で実施できたのは非常に効果的でした。
(写真中央が長福さん、左右はProject MUJU で協働したシニア・ビジネス・デザイナーの森智也さんと、シニア・ビジュアル・コミュニケーション・デザイナーの横田未緒さん)
――越境期間を振り返っていかがですか?
長福 当初、自分としては期待が膨れ上がっていた状態で始まったため、中だるみしないだろうかとか、同時にIDEOからの期待も感じていたのでそれに応えられるかどうか、などの不安もありましたが、結果的に最後まで楽しく元気に完走できました。
リサーチやコンセプト創出の場面では、IDEO内外にいる多様な人々とのコラボレーションもあり、非日常的で充実した時間が過ごせました。普段と違う筋肉を使って走り続けたためか、越境終了後はしばらく燃え尽き感がありました。まさに宇宙旅行から帰ってきて地上の重力をどっと感じた感覚です。知りませんが。
――多様性あふれる人々と協働作業を経験した、とお話されていましたが、いかがでしたか?
長福 実際越境してみると、JAXAで現在私が身を置いているような、ある程度狭い領域の技術者がたくさんいる環境とは大きく異なっていて、様々な専門性やキャリア・前職を持つ方々がいらっしゃいました。また、半分くらいが外国籍で、公用語は英語でした。このような多様性のある環境だからこそ、初っ端から「JAXAでロケットやっている人?最高に面白い!」と楽しんで頂けるウエルカムな雰囲気を感じました。全社員が集まった場で私の自己紹介のために20分もの時間をいただいたり、それとは別に私の公私に渡るスキルをシェアする場を1時間設けて頂いたりして、私としては仲間になれた実感を強く持つことができてすごく安心感を得ましたし、同時にIDEOメンバーの「なんでもどん欲に吸収しようとする、学ぼうとする姿勢」に感銘を受けました。
また彼らは「問いかける」ことで会話のベースを構築していくのが得意で、そのようなポジティブな人たちと共に問いを積み上げて、建設的な会話をしていくという感覚は貴重で心地よく、私の性格にフィットしているなという風に感じました。
――プロジェクトメンバーとは、どのようにコミュニケーションを図っていきましたか?
長福 プロジェクトの開始時と途中、終了後で、プロジェクトメンバー同士で今の気持ちや懸念・不満などをシェアする場を設けて頂きました。これはIDEOにおける基本動作のようで、そのような場を通して、気兼ねなく主張や意見を話すことができるようになり、おかげで良い信頼関係が築けたと思います。個人的な工夫としては、当初、チーニさんのJAXAに対するリスペクトが少し強すぎると感じたため、それを壊す作業を意識的に行いました。というのも、期待されすぎてもプレッシャーですし、変に壁が出来たら嫌だと思ったので、正しく期待値を調整しました。これによりお互いに敬語も取り払って気兼ねなく会話できるほどの関係を築くことができ、ハイスピードなプロジェクト実行に貢献できたのではないかと思います。
こういったコミュニケーションの方法は、JAXAでの仕事でも意識して行っていることです。JAXAで仕事していると関係企業との関係も契約的になりがちで、それでは良い仕事ができないので、へりくだるわけではなくフラットな関係にするところから始めるようにしており、今回の越境でも活かすことができたと思います。
(写真左上:長福さん)
-―プロジェクトを通して、手ごたえのようなものは感じることができましたか?
長福 JAXAで担当している私の業務では、決められたタスクを計画通りに進めて着実に完遂することが求められる場面が比較的多いのですが、私は実はアイディアを生んでいくような仕事の方が向いていると思っていました。社内だとそのような仕事に関わることがあまりなかったので、今回は腕試しできる良い機会だと捉えた部分もあります。越境中、IDEOの方が私の活動についても評価してくださったので、自分の能力を活かせていると感じましたし、手ごたえを感じました。
今回、宇宙旅行に関わるリサーチをするにあたって、アスリートや元ディズニー社員、おもちゃデザイナーや人事の専門家など、宇宙旅行とは全く関係のない違う分野の方々をリサーチしました。例えば、トレイルランナーの方であれば、準備を念入りにしすぎると本番のレースを楽しめないこともある、というような話が聞けて、そういった内容から宇宙旅行をするにも準備しすぎてはいけないのではないか、というヒントになることがわかりました。以前から、このように全然違う分野のことでも学んで他に転用していく、応用していくことが得意だと思っていましたが、それを実感する経験をすることができました。
――全く異なる事業のプロジェクトでも長福さんの能力を活かすことができたのですね。 何か工夫などはされましたか?
長福 今回デザイナーが在籍するコンサルティング会社に越境しましたが、私自身はデザイナーではないので、デザインについては本を読んで学んでいる程度でした。参加したプロジェクトは、これまでのエンジニアとしてのバックグラウンドを直接活かすようなものではなかったので、私自身がIDEOに貢献できるものは何かを最初に言語化するようにしました。プロジェクトが始まったときに、私の強みは宇宙開発に関わる技術や知見、専門家との繋がりだということを越境先とシェアしたのですが、その時点で私ができることとIDEOが私に求めるものに齟齬がなく明確化できたので、良いスタートを切ることができました。ただ、今思うと、もっとできることがあったと思います。プロジェクトを通してもっと自分の新しい価値を発見してそれを言語化できていたらさらに良かったのですが、なかなか難しいことでした。
――もっとできることがあったとのことですが、越境先で成果を出すための姿勢が素晴らしかったという評価を受けたと聞きました。
長福 短期間で成果を出す姿勢を評価してもらえたのは嬉しいですし、私としても前のめりな姿勢が自分の強みだと思っています。今回越境したのは、自分へのインパクト、JAXAへのインパクトを与えることが目的だったので、目的に見合う成果を出すために貪欲で居続けられたと思います。もちろん越境期間を楽しめましたが、せっかく良い機会をいただけたのだから、という焦りもありました。私の姿勢を評価していただいたことは有り難かったのですが、チーニさんの熱量やパフォーマンスが自分以上に素晴らしかったこともあり、私もまだまだだと気づく機会になりました。今回のプロジェクトは今後ビジネスになるのかもわからないプロジェクトなのに、IDEOは会社として次に繋がる何かを信じる強い気持ち、パッションを持って進めていました。またアイディアを発散させるだけでなくそれを収束させてストーリーとしてまとめていき、さらにモノ(今回の場合はウェブサイト)として形作っていくときの手際・センスの良さには感動すら覚えました。本当に素晴らしく、私もああなりたいと思いました。
(写真:長福さん)
――プロジェクトは止まることなく、順調に進んでいったのですか?
長福 今回は一ヶ月という短期間での越境で、プロジェクトに集中できる環境だったので止まることはできませんでした。成果に繋げるために、常に考えながら走らざるをえませんでした。新しい環境ということもあって途中で不安になり「これでいいんだっけ?」と立ち止まって考えたこともありましたが、私としてはやりたいことに対してこれでいいのか、行きたい方向・あるべき姿を確認するために止まったとも言えるので、ネガティブな感じではなかったです。JAXAでの仕事とはスピード感も大きく違いましたのでギャップを感じました。また短期集中でひとつのプロジェクトに没頭できたため、成果も学びも最大化されたのではないかと思います。
多くのJAXA職員が同じだと思うのですが、JAXAではマルチタスクが基本です。走りながら進めるというよりは、周りに注意を払いつつ色々なことを考えながら段階を経ていく仕事の方が多いです。IDEOでは、やったことがない、どうなるかわからない中で自分の足を使って走りながら進めていく感じだったので、大きな違いだったと思います。
――プロジェクトの進め方が大きく異なっていたために、違いを体感することができたのですね。
長福 そうですね。考えながら走って動くと違うものが見えたので、新たな体験・視座を獲得することができたと思います。リサーチがまさにそのプロセスでした。リサーチを重ねてインタビューしていくと、違う視座、違う景色が見えてきて、じゃああっちに行こう、というように柔軟に進めていったのが面白い体験でした。スピード感は違いますが、JAXAの技術的な仕事でもよくあることです。事前準備をして、試験してやっと結果が出て、というプロセスは同じですが、その後は「じゃあどうする?」ということはなく、あらかじめ想定した結果に基づいた計画を事前に準備していることが多いです。そういう意味で、良い体験ができましたし、適材適所で使っていける選択肢が増やせたように思います。
――プロジェクトを進めるにあたって、周りの人とどのように連携して進めていったのですか?
長福 プロジェクトメンバーと協力して進めていったのはもちろんですが、JAXA内の元々構築できているネットワークを駆使して、知見を持っている人にアクセスしながら進めていくことも行いました。一方で、IDEOのプロジェクトメンバー以外の人に対して、プロジェクト業務として私から積極的にアプローチするということは残念ながらできなかったです。その部分はチーニさんに任せたというのもありますので分担といえばそれまでなのですが、社内のコミュニケーションが英語ということもあり、それがネックだったのもあります。英語が話せたらもっとアプローチできたと思います。
――プロジェクト中に失敗したことはありましたか?
長福 越境中に失敗、失策した経験はありませんでした。そもそもIDEOは文化的に、失敗、失策という認識をせず、すべてをポジティブに捉えるという考え方が根付いていました。イマイチなアイディアが出てきても、もっといいものにするためにリソースを割きます。また、大前提として行き先がわからない中で動いていましたので、壁にぶつかって計画通りにいかないのは当たり前のことでした。そのため、常に⾜踏みしながら修正し続けたとも言えますし、修正というより何もないところから作っていったという方が相応しい表現かもしれません。(チーニさんは「修正祭り」と表現されていて、それはそれで言い得て妙と思いました)
――越境中に何か苦労したことはありましたか?
長福 苦労はなかったですね。強いて言えば、英語に苦労したことでしょうか。その点については、覚悟の上で臨んだので、思ったよりはできた気がします。これもIDEOのみなさんが好意的でいてくれたおかげです。プロジェクト自体は日本語で進めてもらえたため大きな影響はありませんでしたが、英語が使えた方がさらに良い仕事ができたと思うので、継続して勉強していきたいと思います。
――今回の越境を通して、どんなことを学びましたか?
長福 IDEOの面白い文化で、「ポジティブに捉える」ことを吸収できました。越境先では、「No, but」は使わず、「Yes, and」で会話していました。本当に「No」を言わない徹底ぶりで、驚くほどでした。JAXAでは文化が異なります。「それって違うんじゃない?」と言うことで、どんな小さな間違いも無くし、リスクを最小限にしていくというのが業務の性質上文化として刷り込まれています。IDEOは新しい価値を見つける・生み出す仕事をしているので、間違いではなく良い所を探して発展させていく文化が根付いたのだと思います。
今回そのような文化に入って気づいたのは、JAXAにもそのような文化が求められているのではないかということです。難しいシステムを確実に仕上げることと、航空宇宙分野で世の中にない価値や国民生活を豊かにすることを検討する側面が両方必要になってきています。今まで根付いている文化を大切にしながら、新しい文化をどう両立させていくか、工夫しなければなりません。今回の越境での経験を新文化やルールの導入にうまく使いたいです。
――他にも学んだことはありましたか?
長福 あとは、先ほどの話とつながりますが、デザイン思考ですね。元々デザイン思考を学んで所属企業に持ち返りたいという想いがあって越境していますので、それを手に入れることができたと思います。JAXAでは何かを作るときに「こういう技術で何ができるだろう」と考えることが多い一方で、IDEOでは逆のアプローチをします。技術ではなく、「誰がどうしたいのか」という「人」に注目するアプローチをします。今回のプロジェクト内容である宇宙旅行の話で言えば、「旅行者」がいてそしてそこに「体験」があるので、その人の体験にフォーカスするところから始めたので、どういった内容にすればいいかはおのずと見えてきました。技術中心であれば、ロケットや宇宙船であればこういう機能・性能がいるよね、というのがこれまでの流れですが、人を中心に考えると今まで思いつかなかったアイディアや機能要求までもが浮かんで、問いを挟むことでさらに新たな着眼点やアイディアが膨らんで、という体験をすることができました。
(写真右:長福さん)
――デザイン思考をJAXAでも活用していくことはできそうですか?
長福 これまでJAXAにあまり取り入れられていなかったアプローチですが、価値は十分感じることできたので、取り入れたいと思いました。特に問いかけの技術に関してはすぐにでも使いたいと思います。IDEOでは良質(actionable)な問いかけが、人の行動を促すということを学びました。JAXAの私がいるロケットの分野でもオープンイノベーションのアプローチにチャレンジしています。ここで良質な問いかけを挟むことで、より多様なプレイヤーとの協同が可能ではないかと考えています。
しかし、デザイン思考全体をJAXAに取り込むときには難しさもあります。JAXAは宇宙航空の研究開発を行っていますので、人を中心に考えるのは比較的遠い分野だと思っています。航空は近いかもしれませんが、宇宙となるとイメージするための経験値が少ない分、人との距離がある分野です。人にアプローチをして始めることで新しい何かが見えてきて、価値が最大化されやすいことはわかりましたが、JAXAにどう取り入れるかを考えていく必要があると思います。
また、JAXA内でどう広めていくか、ということも検討する必要があります。このアプローチには技術が必要と思っていますが、越境中に色々な人にヒアリングしてどうやってその技術を手に入れたのかを伺ったところ、IDEOでは座学含む教育プログラムを通じて学び続ける文化と仕組みがあるとのことで、とりわけOJTでの実践トレーニングを積めることが最も有効だと聞きました。しかしながらJAXAにはデザイン思考の専門家はいませんし、教育プログラム等も現時点でありませんので、どうやって広げていくか、導入していくか、考える必要があります。さらにその技術獲得への投資判断をするために、デザイン思考の価値を経営層に評価してもらう必要がありますが、これもすごく難しいことだと感じています。この「デザイン思考の価値を、実際に経験したことのない人に感じてもらうにはどうすればよいか?」は、IDEOでも同様にチャレンジしていることのようですので、協同できればと思っています。
――デザイン思考を取り入れる難しさを感じつつも、取り入れたいというお気持ちは強いようですね。今後に向けて考えていることはありますか?
長福 JAXA内でデザイン思考の価値ややり方を広めていきたいと思っています。また、今回学んだ文化、「Yes, and」を徹底して、JAXAでも「当たり前」になるようにしたいです。短期間の越境を通して全く違う文化からきた私が、「いいね」しか言わない環境にいることで変わることができたので、新しい文化を根差していくことはできると思います。JAXAでも、これまで通り疑いながら進めるやり方を続ける仕事がある一方で、創造的な活動するときはその批判的なやり方を持ち込まず、使い分けができるようにしたいですね。その必要性をJAXA内で問題提起し、見える形で整理してシェアしたいです。
今回のプロジェクトでは最終的にアウトプットとしてウェブサイトを作ったのですが、宇宙旅行についてデザイン思考で考えてみると、こんな結果が生まれる、これからもっといい動きになりそうじゃない?という雰囲気をサイトで見せることにしました。デザイン思考を広めていくには、こういったモノなどを使って具体例を示して、価値を感じてもらうというアプローチがひとつ有効だと思います。変革のためにはリスクを取る必要がありますが、その先に価値を感じない場面でリスクは取らないですよね。また、広めていくときには「どうすれば私たちはできるのだろうか?」という問いで発信していこうと思っています。今回のウェブサイトを社内で公開して、みなさんにデザインの力を感じてもらい、さらに「デザイン思考といえば長福」と言われるような存在になれれば嬉しく思います。
また、IDEOでもデザイン思考を広げるためにワークショップを実施するなど地道に続けているそうですが、私もJAXA内でワークショップを行ったり、デザイン思考を使ってアプローチしてみようと声掛けをしたり、草根活動をやり続けたいと思っています。まずは半径5mの人を変えていけるようにモノを使って具体例を示しながら、ボトムアップ的に仲間を増やしていき、最終的に気づけばみんなその文化にいる、というのが目指すところです。今回ご縁をいただいたIDEOと共にJAXA内にデザイン思考を広めていく活動も引き続き行っていく予定です。宇宙開発とデザインの橋渡しをする人材として活躍していきたいですね。
(写真左:長福さん)
――熱い想いを持って活動を続けていく予定なのですね。では、もしもう一度越境できるとしたら、どんなことをしてみたいですか?
長福 そうですね、モノづくり、ハードウエアを作れる場所、ですかね。アートというよりは、家具などの実用品業界のメーカーがいいですね。分かりやすいユーザーがいて、その人が真に求めるコトをデザインして必要なモノを作る、という業界が面白いと思います。IDEOで学んだアプローチを活用して、必要なモノを見定めたあとに高速サイクルで回しながらモノづくりをしていくような会社へ越境するのもいいなと考えます。
越境中にIDEOの人たちはどういうパッションで仕事しているか聞いてみたんです。彼らのビジョンはとても大きくて、日本をより良くしたいという非常に強い想いを持っていました。そのための手段として、パワフルなデザイン思考とクリエイティビティを駆使し、そのアプローチを日本に根付かせるために大企業から徐々に浸透させていくような事業をされています。そういったことがIDEOのポジションだとできるので、ぜひ応援したいと思いました。一方で、技術に自信を持っていて、さらに実際のモノづくりの現場でデザイン思考を使って製品開発、サービス開発を行っている会社があれば、また違った学びがあるのではないかなと思います。プロトタイピングのその先、実際に市場に出すサービスやモノにいかに繋げるか、次はここまで学べると良いと思いました。
――最後に、どんな人が越境するといいと思いますか?また、越境にあたってどんなことを意識するのがいいのか、先輩としてアドバイスをお願いします。
長福 「とにかく外に出たい、越境という体験をしてみたい人」より、今社内にいる中で、こういうところに問題があるからもっとこうしたらいいのに、というある程度「具体的な課題意識とその解決策の案がある人」が良いのではないかなと思います。その課題を解決するようなソリューションに繋がりそうな企業に行くと、個人のみならず組織にとっても学びが多くあっていいのではないでしょうか。アイディアはあるのにただ悶々としているだけでは苦しいですし、うっぷんが溜まっている状態は体にも組織にも毒だと思います。越境制度は、そんな仮説検証に一役買う実験場でもあると思うので、そんな方にうってつけの機会だと思います。
<越境先からのコメント> ~IDEO Tokyo 野々村様、森様より~
今回、初めて越境先として受け入れを行いましたが、長福さんという優秀な人材が来てくれたことで、期待以上のプログラムができました。本当に素晴らしく活躍していただきました。
まず人物が素晴らしく、不透明なプロセスを楽しんでやっていける方で当社と非常にフィットしていたように感じました。また、プロジェクトの成果も素晴らしく、「宇宙×人」をデザインの観点でやっていくものでしたが、結果として未来につながる良いものが出来上がり、非常に持続性のある企画となりました。
時期的な問題でリモートワークメインとなってしまったのが残念ではありますが、長福さん自身も成長に手ごたえを感じられる機会になったのではないかと思います。ありがとうございました。
(写真:長福さん)
会社名 国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構
業種  日本の航空宇宙開発政策を担う研究・開発機関
URL https://www.jaxa.jp/