社労士のなり方は?仕事内容やキャリアステップ、待遇を解説

ワーク・ライフ・バランスや働き方改革などの時流に合わせ、社員の働き方について見直しを行う企業が多くみられます。そのような中で注目されているのが、労務管理の専門家である「社会保険労務士(社労士)」です。

本記事では、社労士になるための手順や実際の仕事内容、資格を取得した場合のキャリアについて、順を追って解説します。

社労士(社会保険労務士)とは

社労士(社会保険労務士)は、経営に必要な四要素である「ヒト・モノ・カネ・情報」のうち、「ヒト」に関する専門家です。

主に労働関係・社会保険関係の法律に精通しており、社員の労働関係や年金書類の手続き、就業規則の整備、賃金計算業務などに関して、専門知識を活かしながら企業の労務管理を代行します。

さらに労使間のトラブルが発生した際の仲介や、労務管理上のコンサルティング業務など、幅広い範囲で企業の「人」にまつわる業務に携わりサポートを行います。

具体的な仕事内容

社労士の仕事は、内容ごとに主に3つに分けられ、それぞれ「1号業務」「2号業務」「3号業務」と呼ばれています。

1号業務

1号業務は、労働保険や社会保険に関する書類の作成や、提出を代行する業務です。

労働保険とは、業務・通勤災害に遭った労働者を補償する「労災保険」と失業時に補償を受けられる「雇用保険」を指します。社会保険とは、労働者向けの医療保険となる「健康保険」や「介護保険」、被用者向けの公的年金制度である「厚生年金保険」をいいます。
また、雇用関係の助成金申請業務も1号業務に含まれます。

2号業務

2号業務は、労働保険・社会保険に関する法律に関する帳簿の作成業務です。

帳簿とは、労働者を雇う際に作成が義務づけられている労働者名簿、出勤簿、賃金台帳のいわゆる「法定三帳簿」や、10名以上の従業員を雇う際に作成が義務づけられている「就業規則」などを指します。

3号業務

3号業務は、企業向けのコンサルティング業務です。

採用業務や人材配置、社員教育、賃金設計や人事考課制度の確立など、労働者の環境や待遇に関する経営者の相談に乗ったり、専門知識を活かしたアドバイスを行ったりします。

上記のうち1号業務・2号業務は社労士の「独占業務」とされており、社労士の資格を持つ者のみが行うことのできる業務です。一方、3号業務については独占業務ではないため、社労士の資格を持たない者でも行うことができます。

必要な資格や研修とは

社労士になるためには、毎年夏に行われる社労士試験にチャレンジし、国家資格を取得する必要があります。

社労士試験の受験資格は、大学や専門学校の経歴から判断される「学歴」、労務関係の業務歴から判断される「実務経験」、資格の保有歴から判断される「試験合格」、過去の社労士試験受験歴から判断される「過去受験」など、16の資格コードのうち、1つに該当すると証明できれば得ることができます。

社労士試験を受験し合格した後は、連合会(全国社会保険労務士会連合会)が作成する社会保険労務士名簿に登録することで、社労士になれます。名簿に登録するためには、2年以上の実務経験か、事務指定講習を受け、修了する必要があります。なお、この2年以上の実務経験時期は、社労士試験の受験前後を問いません。

資格試験の内容は

社労士試験は、労働基準法や労働安全衛生法、労災法、雇用保険法などからなる「労働保険」と、健康保険法や厚生年金保険法、国民年金法などからなる「社会保険」の2分野における複数の法律を網羅した内容で、完全マークシート形式で出題されます。

令和3年度に実施された試験の場合、選択式の試験が午前中に80分、択一式の試験が午後に210分体制という、気力・体力がともに必要となる内容でした。選択式・択一式それぞれの得点に合格基準点が設けられ、双方ともに合格基準点を突破した者のみが合格となります。

具体的な合格率は例年ばらつきがあるものの、毎年ほぼ1桁であり、難関試験といえるでしょう。

ほかの士業との違い

他の国家資格である士業との仕事内容、業務権限の違いなどを解説します。

行政書士

行政書士は、個人・企業を問わずさまざまな権利や義務が発生した際に、官公署へ提出する必要がある書類の作成や提出を代行する専門家です。行政書士の業務範囲は幅広く、その種類は万を超えるといわれています。

例えば、店舗の営業許可や会計業務のサポート、権利義務に関する書類などが挙げられ、昨今では成年後見への関わりも注目されています。状況に応じて他の専門家と連携して対応をすることも可能な、柔軟性の高い専門家であることも知られています。

司法書士

司法書士は、登記分野の専門家といわれています。具体的には、土地や建物の売買契約時に所有者が変更になった際の「不動産登記」や、法人を立ち上げる際に求められる「商業登記」の代行業務に携わる専門家で、これらの登記業務は司法書士の独占業務です。

また、成年後見制度における後見人として対応することも可能で、「簡裁訴訟代理等能力認定考査(認定考査)」の認定を受ければ、弁護士同様に代理人として参加できます。

税理士

税理士は、「ヒト・モノ・カネ・情報」のうち、「カネ」に関する専門家です。

確定申告や税務調査の立ち合い、さまざまな税務書類の作成業務、個人・企業向けの税務相談などの税務に関する業務や会計業務、税務訴訟における補佐人としての役割も担います。

 

社労士のキャリアステップは

実際に社労士の資格を取得した際、どのようなキャリアステップが考えられるか、また、資格取得後に必要となる知識や経験などについて、解説します。

企業の人事総務部門の場合

一般的な企業における人事総務部門では、労務に関する専門家である社労士の資格保持者を歓迎するケースが多くみられます。募集方法としては、一般企業の求人募集となることから、ハローワークや一般企業向けの人材サイトでの求人募集が多く、中には派遣社員として募集するケースもみられます。

社労士の有資格者向けの仕事の内容としては、採用活動や人材配置、人事考課などの「社員」に関する業務や、就業規則や賃金規程、退職金規程などの会社のルール付けに関する業務、また賃金計算や有給休暇の管理などの経理業務が含まれます。

これらの業務に取り組む際は、社労士有資格者としての労働・社会保険に関する知識に加え、自社の企業体制を深く理解することが求められます。

企業には、それぞれ伝統的な風土や慣習があり、その上で、今後どのような企業として発展していきたいかというビジョンが加わります。まずは企業の仕組みやルールを深く理解し、専門家としてどのような立場でサポートをしていくかを考えながら業務を進めていく必要があります。

社労士事務所に所属する場合

社労士の資格を取ったからには、実際に社労士事務所で働きたいと検討する者も多いことでしょう。しかし、一言で社労士事務所といっても、規模や賃金、必要とされる人材の内容はさまざまです。

例えば、実務経験がほぼない状況で社労士の資格を取得した者が、経験を積むために社労士事務所への就職を検討する場合、まずポイントとなるのは未経験者の募集を行っているか否かを確認することです。

求人募集欄に「未経験者可」という文字を見つけたとしても、実際の業務内容は経験がなくともできる内容かどうか、そして教育体制はどの程度整っているのかを、求人募集の内容やホームページ、面接などで確認する必要があります。

特に規模の小さい社労士事務所の場合、求人欄へ記載されていない業務を任される可能性もあるので、確認が必要です。

ある程度の実務経験のある有資格者の場合は、社労士事務所でどのような内容をきわめていきたいかを想定した上で就職活動を行う必要があります。

社労士事務所での業務には、顧客である企業の保険関係の手続きや賃金計算、就業規則の整備などのサポート業務に加え、資格を活かしたセミナー講師として活動するケースや、助成金申請書の作成・届け出業務も含まれます。

また、営業活動よりも事務作業を好む場合は、内勤業務の求人募集を検討するとよいでしょう。

ほかの士業の法律事務所に所属する場合

社労士を必要とする士業には、主に税理士事務所や会計事務所が挙げられます。
理由としては、例えば顧問先の確定申告を実施する際に必要となる社員情報など、社労士業務で必要とする情報とリンクする場合が多いためです。

顧問先企業の中には、税理士・社労士それぞれに同じ書類を渡すことを手間に考える者も多いことから、顧問税理士や顧問会計士が社労士業務を兼ねている場合があり、このようなケースに税理士事務所・会計事務所が社労士を募集することがあります。

また、事務所内に社労士がいることで、労務相談の窓口を設けられるなど、幅広いコンサルティングを行えるメリットも考えられます。

このような理由で、社労士が他士業の事務所で雇用されるケースが多くみられますが、実際にこれらの事務所への就職を考える場合は、実際に受け持つことになる顧客数や業務内容を事前に把握しておく必要があります。

特に、複数の顧問先の賃金計算を社労士が1人で受け持つケースでは、締日や支払日が集中する月末に相当な繁忙期を迎えると予想されます。自身で対応することが可能かどうか、あらかじめシミュレーションしたほうがよいでしょう。

独立開業する場合

社労士を志す以上、独立開業することが一度は頭によぎると思われます。しかし、実際に独立開業をする時期は人によって千差万別で、正解といえるものはありません。例えば、試験合格後すぐに開業することを想定して受験勉強をする者もいれば、数年間の修行後にタイミングを見て独立する者もいます。極端な話、企業退職後に資格を取得し、独立開業するシニア層もみられます。

独立開業にあたり考えることとしては、自身の事務所でどのような仕事をしていきたいかを明らかにすることです。自身の性格や特技、理想を洗い出し、そのためにはいつ、どのような形で開業をすべきか入念に検討しましょう。

ひょっとしたら、「開業をせずに企業や行政、他士業事務所で活躍する方が良い」という結論や、資金・経験不足が露呈したため「しばらく修行を積んでから開業すべき」という結論になるかもしれません。どのような道を歩むことになるにしろ、その過程で得られる経験はすべて自身の力になると信じて進むことが重要です。

まとめ

一人前の社労士になるためには、幅広い範囲の試験突破や知識、経験が必要になりますが、最も重要なのは、企業とそこで働く労働者のために何ができるのかを考えることです。今回の記事を参考に、どのような社労士を目指していくのか、あらためて問い返してみてはいかがでしょうか。

執筆者プロフィール:
加藤 知美(社会保険労務士)
愛知県社会保険労務士会所属。総合商社、会計事務所、社労士事務所の勤務経験を経て、2014年に「エスプリーメ社労士事務所」を設立。
総合商社時では秘書・経理・総務が一体化した管理部署で指揮を執り、人事部と連携した数々の社員面接にも同席。会計事務所、社労士事務所勤務では顧問先の労務管理に加えセミナー講師としても活動。

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