営業戦略を立てる必要に迫られたとき、手元にあるさまざまなデータをどのように処理すればいいのか要領を得ず、時間がかかってしまうという人は少なくありません。
本記事では、営業戦略の意味や手順、および便利に使える10のフレームワークを紹介します。
営業戦略とは、企業が持続的に成長するために策定する経営戦略に基づいた、営業が取るべき方針やそのシナリオのことを指します。
すなわち、「どのようなマーケットで、どの顧客に、どの商品やサービスを中心に買っていただくか」の設計図を描くことです。マーケット(市場)やビジネススタイル(BtoB・BtoC)、商品やサービスによって内容が変わります。
また、「営業戦術」と混同されがちですが、営業戦術とは「実際にどのように買っていただくか」という具体的な手法のことです。
「経営戦略」は会社を持続的に成長に向けるための方向性を設定することで、より概念的な言葉を使ったものになります。経営戦略は、会社の持続的な成長に向けての目標やゴールを定め、その目標を達成するための戦略=設計図やシナリオを考えることです。
一方で営業戦略は、経営戦略で定められたゴールに到達するための、営業部門の具体的な方針やシナリオを決めることです。
組織上「経営視点」が「営業視点」より上位概念になりますので、経営戦略に基づいた形で営業戦略を策定します。
営業戦略とマーケティング戦略とは、「戦略を立案する目的」と「アプローチする対象」に違いがあります。営業戦略の目的は、顧客に商品やサービスを購入してもらうことです。
一方で、マーケティング戦略の目的は、顧客に商品やサービスを効果的に売る仕組みを作ることにあります。
また、営業戦略のアプローチ対象は「顧客」ですが、マーケティング戦略のアプローチ対象は「マーケット(顧客も含めた市場)」となります。
本章では、営業戦略を立案する手順を6つのステップに分けて解説します。なお立案の手順は、企業規模や成長段階、業種などの条件によっても変わりますので、一例として参考にしてください。
営業戦略を立てるための第一歩は「目標=ゴール」を決めることです。営業戦略は営業目標を達成するための設計図やシナリオです。
そのため、目標が定まらない状況では、戦略を立てようにも立てることができません。まずは、中長期的な目標を数値とともに設定する必要があります。
次に、マーケットの現状分析を行います。具体的には、外部環境分析・顧客分析・競合分析・自社分析を進めます。
外部環境分析では、政治や法規制関係、景気や経済情勢、人口動向や消費者意識、技術革新や新技術の普及といった、ビジネスを取り巻く外部要因について洗い出しをします。
自社分析では、自社が保有する経営資源の洗い出しを行い、強み・弱みの見極めを行います。
顧客分析や競合企業の動向分析も欠かせません。昨今は顧客ニーズの変化スピードが速くなっており、タイムリーに方針を打ち出せなければビジネスチャンスを逃しかねないためです。
「顧客ニーズ」とは、顧客が抱えている欲求や需要のことです。顧客のニーズには、「顕在ニーズ」と「潜在ニーズ」の2種類が存在します。
顕在ニーズとは顧客が自身のニーズを「自覚している状態」のことで、潜在ニーズとは「自覚していない状態」のことを指します。
顕在ニーズだけをベースに商品やサービスを営業しても顧客の需要にこたえられない場合もあります。顧客が抱えている欲求や需要にこたえるためには、顧客自身も自覚していない「潜在ニーズ」を探る必要があります。潜在ニーズは、顧客との何気ない会話や過去に購入した商品などを手掛かりにしながら分析します。
現状分析を行った上で、営業戦略の立案に着手します。マーケットの現状分析と顧客のニーズ分析ができれば、対応すべき課題や進むべき方向性が見えてきます。「どんなターゲットに、どの商品やサービスを、どのような方法で」提案するべきなのかを考慮して、営業戦略を立てることができます。
目標達成のための日々の活動における具体的な行動指標も決めておくことで、営業戦略の評価や修正がしやすくなります。
業務を進めていく上で「何をもって進捗とするのか」の観点から目標の達成度を表す指標のことを、KPI(key performance indicator=重要業績評価指標)と呼びます。営業戦略上のKPIとして、市場占有率・アプローチ件数・キーマン接触率・見積提出数・成約数などといった指標がよく使われます。
営業戦略は、戦略立案後に関係者全体で共有する必要があるため、シンプルでわかりやすいものにしておくほうが伝わりやすく、効果的です。実践では個々の営業担当によって受け取り方が違うことがあるので、営業担当が納得できるまでしっかり共有することが大切です。
営業戦略を決定した後は、戦略をブレイクダウンし、目標達成のために具体的な営業戦術を策定します。
従来は、直接訪問やテレフォン・アポイント、チラシ配布やDM・FAX送付、展示会などで顧客へのアプローチを行っていました。昨今では、オンライン商談やインサイド・セールス、インバウンド・マーケティングなど、ICT技術を活用した営業戦術の必要性が高まっています。
営業戦略を策定し、具体的な戦術を決めたあとは、実行計画を細かく設定して進捗確認を行います。そして、KPIを使って営業戦術の成果を可視化し、分析・評価を実施して新たな課題を見つけます。
営業戦略や営業戦術は一度立てただけでうまくいくことはなかなかありません。そのため、常に修正・改善する意識をもって次の打ち手に反映する取り組みが重要です。PDCAサイクルを回し、営業戦術をブラッシュアップします。
一方で、生産性を高めながら業績を上げるためには、営業活動の効率化もあわせて検討しておく必要があります。特に営業活動が属人化しないためにも、営業プロセスの可視化や営業チームでの情報共有を進めましょう。
フレームワークを理解しておくことで、情報整理が簡単になるだけでなく、取り組むべき課題も見つけやすくなります。
本章では、営業戦略立案に使えるフレームワークを紹介します。
パレートの法則とは、経済において、全体の数値の大部分は全体を構成するうちの一部の要素が生み出しているという、イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートが発見したとされる法則で、「80対20の法則」とも言われます。
具体的には、
・売上の80%は、上位営業担当の20%によるものである。
・売上の80%は、全商品の20%によるものである。
といった事例に例えられる法則のことです。
商品・顧客別の売上分析を行なうときや、営業活動をどの顧客に注力すべきかを決める際に、この法則は参考になります。
3C分析は、現状分析のステップで活用できるフレームワークです。ミクロな経営環境を構成している「顧客、競合、自社」の3つの視点から成功要因を見つけ出し、自社の営業戦略に活用できます。自社が置かれている環境の洗い出しや問題点の明確化が図れるだけでなく、組織間の意識共有も容易になります。
3C分析は主にBtoCのマーケティングで利用されるフレームワークです。BtoBでは顧客の顧客(エンドユーザー)についての分析を追加することがあります。
最近では、チャネル(Channel)、協力者(Co-operator)などを含めて「5C」で分析することもあります。
SWOT分析は、目標達成のために意思決定が必要な企業や個人に対して、内部環境のStrength(強み)・Weakness(弱み)・外部環境のOpportunity(機会)・Threat(脅威)の4つの要因を軸に、事業評価や目標達成のための戦略を練るためのフレームワークです。
ビジネスにおいて戦略を立てるためには、内部環境だけでなく外部環境を含めて正しく把握、分析することが必要です。
SWOT分析で書き出した要素を複数の要素で掛け合わせることで、戦略の方向性を導こうとする「クロスSWOT」という分析手法もあります。
例えば、Opportunity(機会)とStrength(強み)に着目して戦略の方向性を検討してみるだけでも、競合との差別化を図り、かつ自社の強みを活かした戦略を立てることが可能になるでしょう。
AIDMAモデルとは消費者の購買活動における心理プロセスのモデルです。人間が「認知」「感情」「行動」と段階を経て商品を購入すると考え、モデル化されました。
認知段階:Attention(商品を知る)
感情段階:Interest(興味を持つ)→Desire(買いたい欲求が起きる)→Memory(商品を記憶する)
行動段階:Action(購入する)
商品を知ってから購入に至るまでは一定の心理プロセスや時間を経る必要があることを示す法則で、営業プロセスを検討する際の顧客の購買モデルとして活用できます。
AISASモデルはAIDMAモデルをベースにし、SNSなどによる情報拡散を考慮に入れたフレームワークとして作られた新しい購買モデルです。
AISASモデルでは、ネットマーケティングやEコマースにおける消費行動は以下のプロセスに分解されると考えました。
Attention(認知)→Interest(興味)→Search(検索)→Action(行動)→Share(共有)
AIDMAモデルの「Desire(欲求)」「Memory(記憶)」に代わって、「Search(検索)」「Share(共有)」のプロセスが追加されています。
DECAXモデルは、SNSを活用したコンテンツ・マーケティング時代における消費者の購買プロセスのモデルです。
Discovery(発見)→Engage(関係構築)→Check(確認)→Action(行動)→eXperience(体験と共有)
従来の心理プロセスでは、企業が消費者に知らせる「Attention(認知)」が起点となっていました。
DECAXモデルでは、「消費者に自ら動き、発見してもらう」という点が大きな変化だといえます。
昨今の新しい営業戦術でもあるオンライン商談やインサイド・セールス、インバウンド・マーケティングなどでも応用が利く理論モデルだといえるでしょう。
集中戦略とは、マイケル・ポーター教授の著書「競争優位の戦略」において示された3つの基本戦略のうち、特定の「買い手」「商品・サービス」「地域」などといったセグメントに集中して経営資源を投入する戦略のことです。
営業戦略を策定する際に、なぜ我々の商品・サービスを購入していただいているのかを考え抜き、その「強み(コア・コンピタンス)」の部分に経営資源を集中させることも必要に応じて検討しなければなりません。
4P分析は、企業が商品やサービスを販売する際に使用することの多いマーケティング要素です。売れる仕組みを作るための実行プロセスとして、よく用いられます。
4つのPは、
「Product(製品:品質、デザイン、商品名、パッケージなど)」
「Price(価格:小売価格、卸価格、割引率、契約期間など)」
「Place(流通:販売チャネル、物流、在庫、流通エリアなど)」
「Promotion(プロモーション:広報、パブリシティ、口コミ、広告、販売促進など)」
です。この4つの要因を競合他社と比較することにより、自社の強みと弱みなどが分析できます。具体的な強み・弱みが分かることで、ターゲット層に訴えかけられるような施策を生み出せるでしょう。
プロダクト・ライフサイクル理論とは、商品やサービスの導入から衰退までの流れにサイクルがあり、それぞれ段階に応じた戦術を立案する必要があるとする考えのことです。大きく以下の4つの時期に分けて考えることができます。
・導入期・・・ブランドが確立されておらず、マーケティングコストに対して売上げが低いため、なかなか利益を生み出せていません。
・成長期・・・マーケットへの浸透が始まる時期で、需要が増えていくものの、競合の参入もどんどん増えます。
・成熟期・・・他社との差別化が重要となる時期で、広告によるイメージチェンジなども必要です。
・衰退期・・・売上げが急速に減少し、マーケットからの撤退やイノベーションによる新しい価値の創造が迫られます。
なお、この4つの段階は、すべての商品に当てはまるわけではありません。また、消費者ニーズの移り変わりの早さからか、商品のライフサイクルも短くなっている傾向があります。
ランチェスター戦略とは、戦争における戦闘員の減少度合いを数理モデルに基づいて記述したものをベースに、企業活動にも応用できるようにした考え方です。競合との営業活動に勝つための理論と実務の体系で、広く利用されている戦略の一つです。
ランチェスター戦略には2つの基本法則が存在します。ひとつは「一騎打ちの法則」で、兵力に限りがあるとされる「弱者の戦略」と呼ばれます。
もうひとつは「確率戦闘の法則」で、これは兵力に余裕のある「強者の戦略」と呼ばれます。
弱者の戦略とは、限られた兵力(経営資源)をどれだけうまく活用して強者(競合)に打ち勝つのかということです。競争の少ない市場や地域、顧客セグメントを絞り込んで、集中的に攻撃(営業活動)を行えば、シェアを獲得できます。
ランチェスター戦略は、強者の戦略を用いれば、業界1位の企業が更なる市場シェアを拡大していく際にも活用可能です。とはいえ一般的には、下位の企業が上位の企業とのシェアを競い合うときに用いられることが多い考え方です。
営業戦略を立てるためには、マーケットや顧客の変化を敏感に察知し、戦略に反映する意識が必要です。営業戦略を効率的に立案するためにも、今回ご紹介したフレームワークを参考にするとよいでしょう。
また、営業戦略を立てた上での営業戦術については、実行してもすぐ結果が出るわけではありません。PDCAサイクルを回しながら、うまくいったことやうまくいかなかったことを振り返りながら改善を重ね、より効果的な戦術を実践していくことを意識したいものです。