社外取締役とは? 役割や報酬、ふさわしい人材の要件や任命までの流れを解説

変化する消費者ニーズへの対応や健全経営のための管理体制構築などを目的に、会社とは利害関係のない人間を社外取締役として迎え入れ、経営に客観性を保とうとする企業の数が近年増加しています。

本記事では、社外取締役の役割や要件などを解説します。

社外取締役とは

社外取締役とは、企業が社外から招いた「経営を監督する役割」を担う人材のことです。

社外からの目を光らせることで、企業が規律のある経営を続けることができ、経営陣による暴走やコンプライアンス違反などの発生を防ぐことを目的としています。

社内取締役との違いは

社内取締役は会社内に常駐した上で、特定の部門の事業遂行を統括する役割を担っています。

一方、社外取締役は一般的には非常勤であり、特定の部門の事業遂行を統括することもありません。

顧問との違いは

社外取締役は経営を監督する立場にあるため、会社の意思決定の場に参加します。

一方、顧問は、経営陣に対して専門的な能力やノウハウなどを活用してアドバイスをする人間であり、通常、会社としての意思決定の場には参加しません。

社外取締役の持つ義務は

社外取締役は社内の人間ではありませんが取締役という役割を担っているため、自社が健全な経営を続けられるよう尽力し、株主や取引先などの利益が害されないように注意を払わなければなりません。

それに関して社外取締役は「守秘義務」と「競業避止義務」を負っています。

守秘義務とは

「守秘義務を負っている」とは、社外取締役としての活動を通じて知ることのできた会社の重要な情報や機密事項などを外部に漏らすことで、自社に対して損害を与えるようなことをしてはならないということです。

競業避止義務とは

「競業避止義務を負っている」とは、自社と競合関係にある企業との取引に関与したり、自らが競合する事業を立ち上げたりすることなどにより、自社に対して損害を与えるようなことをしてはならないということです。  

社外取締役に期待される業務内容や役割とは

社外取締役に期待される最も重要な役割は、その会社がコーポレートガバナンス(Corporate Governance)を順守した経営を行うことができるように監督することです。

さらに、経営陣が客観的な経営判断を下すことができるように社外取締役が助言や指摘を行う役割も期待されています。

コーポレートガバナンスの遵守

コーポレートガバナンスとは、経営陣が自分たちにとって都合の良い経営を行うことで株主や取引先などの利益を害することのないように、社内取締役などが外部から経営を監視する仕組みのことです。日本語では「企業統治」といいます。

会社としての経営方針を決定する取締役会において、序列が上位の取締役に対して他の取締役が意見を言いづらくなることで、トップの意向でコンプライアンス違反や暴走が発生してしまうことがあります。

このような事態が生じるのを防ぐため、会社が下そうとしている経営判断がコンプライアンスや株主、取引先などの利益に反していることを指摘し、軌道修正するように促すのが社外取締役の役割です。

社内取締役への助言

社内取締役だけで判断を行おうとすると、しがらみなどによって視野が狭くなり、最適な判断が下せなくなるリスクが存在します。

社外取締役の役割には、そのようなしがらみや過去の体験などに捉われず、客観的な視点で助言を行うことも含まれます。

この役割を履行するために、社外取締役は定期的に取締役会に参加します。出社の頻度は、毎月一回程度という例が多く見られます。

社外取締役にふさわしい人材とは

経営の仕組みを充分に理解し、かつ経営に役立つ知見を有した人間が社外取締役としてふさわしい人材だと言えるでしょう。

 

必要な要件

社外取締役は、経営という枠組みの中で現役の社内取締役に対してさまざまな助言や指摘を行う役割を担っています。そのため、経営に関する実績やノウハウを有し、経営に精通していることが要件として必要です。

その結果、社外取締役へのオファーは、大企業の現役の経営者や元経営者によく出されます。

さらに、法律や会計、税務など、経営に必要不可欠な分野の専門知識に精通している方は実務面でのリスクを防止できるため、そのような人材も社外取締役にふさわしいといえるでしょう。

その観点から、弁護士や公認会計士などの専門家が社外取締役の役割を担うこともあります。

任期

社外取締役の任期は会社によってさまざまですが、1年もしくは2年ごとに契約を更新している例が多く見られます。

特定の人間が長期間社外取締役を務め続けると、馴れ合いが生じてしまうリスクがあります。

客観的な立場で自社の経営を監督してもらうことが社外取締役の大きな役割であるため、馴れ合いを防ぐために、短期間での契約を結ぶ運用が多いのです。

社外取締役の報酬は

社外取締役の報酬も会社によってさまざまですが、東証1部(現:東証プライム)に上場している大企業約2,000社を対象に実施した調査では、社外取締役の年間報酬の平均額は663万円だったという結果が存在します。

非上場の企業に関しては、月間の報酬額が数十万円程度という事例が多いものと推測されます。

社外取締役の選任プロセス

社外取締役も、通常の取締役と同様に、適切な手順のもとで選任する必要があります。

条件策定〜内定

社外取締役を選任する目的は、前述のとおり「コーポレートガバナンスへの対応」と「客観的な経営判断を下すための助言を得る」ことですが、求める要件に関しては企業によってさまざまであり、自社に必要な要件に合致した人材を社外取締役として迎え入れる必要があります。

そのために、以下のことを、取締役会の中で明らかにする必要があります。

1.自社は、今後どのような経営の在り方を目指していくべきなのか
2.現在の自社の経営上のウィークポイントは何なのか
3.社外取締役にどのようなこと(役割)を期待すべきなのか
4.どのような要件を兼ね備えた人材を社外取締役として迎え入れるべきなのか

その上で、4に合致した人材をリサーチし、面談を重ねた上で、ふさわしい人材に対して依頼を決定します。

なお、上場会社の場合は、社外取締役として選任したい人材が東京証券取引所の作成したガイドライン の以下のような内容に即していることを確認する必要があります。

・原則、自社で業務執行を行わないこと
・自社の主要取引先の業務執行にも関わっていないこと
・過去10年間、自社や子会社における業務執行を行う取締役でなかったこと
・自社から多額の報酬をもらっている専門家ではないこと
・前記に該当する人の近親者ではないこと など

株主総会での選任決議

内定した候補者を社外取締役に選任する場合は、株主総会を開催して「普通決議」にて可決する必要があります。普通決議とは、発行済株式総数の過半数の株式を保有する株主が出席した株主総会にて、出席株主の過半数が賛成した決議のことです。

株主総会による決議を経た後は、会社と社外取締役に選任する人材との間で委任契約を締結します。

役員変更の登記申請

委任契約を締結した後は、株主総会での決議を行った日の翌日から2週間以内に、法人登記簿謄本への登記を行います。

指名委員会や監査等委員会を設置した会社などに関しては、登記の際に、該当者が社外取締役として就任したことを明示する必要があります。

まとめ

社内だけの目線だと気づきにくいことが数多くある中、自社の経営に対して客観的な立場で助言や指摘をしてくれる人材は、企業にとってたいへん貴重な存在です。

さらに、経済の多様化やグローバル化が進展し続ける中で、経営の健全性を保ち続けることは、企業が生き残るための重要な要素となっています。

企業が生き残り、成長を続けていくために必要な経営体制の一環として、社外取締役を活用することが有効な手段となり得るでしょう。

執筆者プロフィール:
大庭真一郎(中小企業診断士、社会保険労務士)
大庭経営労務相談所 代表 東京都出身。東京理科大学卒業後、民間企業勤務を経て、1995年4月大庭経営労務相談所を設立。「支援企業のペースで共に行動を」をモットーに、関西地区を中心として、企業に対する経営支援業務を展開。支援実績多数。

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