近年、人材の獲得競争が激しくなる中で、新たな採用手法の一つである「ダイレクトリクルーティング」が注目されています。
しかし、言葉として耳にしたことがあっても、内容や活用方法がわからないという人も多いのではないでしょうか。
この記事では、ダイレクトリクルーティングの概要、メリットとデメリット、実施にあたっての具体的な方法などを解説します。
ダイレクトリクルーティングは、企業が求職者に直接アプローチして採用につなげる手法です。海外では「ダイレクトソーシング」と呼ばれ、すでに一般的な採用方法とされています。
従来の採用方法は、社外のサービスを介し応募や紹介を待つことが中心でしたが、ダイレクトリクルーティングでは第三者を介さず、自社が自ら人材を探し出し、直接連絡を取って採用を進める点が大きな違いです。
従来の採用活動は、「求人媒体へ広告掲載」「人材紹介サービスの利用」など、社外の事業者や公的機関が提供する求人サービスを使って実施することがほとんどでした。
どのくらいの人数の応募があるかは過去の経験などから判断するしかなく、どんな人材が応募してくるかも事前にはわかりません。基本的には「応募者を待つ」という受け身の姿勢にならざるを得ない採用方法です。
これに対して、ダイレクトリクルーティングは、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)やイベント、関係者からの紹介などによって、候補となる人材とのコネクションを作り、その人材に企業が直接コンタクトするのが特徴です。
そのため、自社が求める人材に向け主体的なアクションを取れます。
また、候補者に合わせたきめ細かな対応ができることで、志望度や採用確率の向上につなげることもできます。
景気動向による多少の変動はあっても、少子高齢化が進んで労働人口が減少していく中では、受動的に応募者を待つことが中心のこれまでの手法を使って自社が必要とする人材を確保することは難しくなっていくでしょう。
そのような状況の中、SNSをはじめとしたITツールの進歩によって、企業と個人が容易に直接コミュニケーションを取れるようになりました。
ダイレクトリクルーティングはITツールなどを活用した新しい採用手法であり、応募者を待つだけでなく、企業が求める人材に主体的にアプローチできることで注目されるようになりました。
株式会社マイナビの調査によると、2019年卒の新卒採用を行った企業のうち、約3.0%がダイレクトリクルーティングによる採用手法を取り入れています。
ここにSNS活用やリファラル採用(社員からの紹介による採用)などを合わせると、ダイレクトリクルーティングを実践する企業は18.1%に達します。
ダイレクトリクルーティングを導入する企業は今後も増加が見込まれ、市場規模は拡大傾向が予想されます。
参照:2019年卒マイナビ企業新卒採用予定調査|株式会社マイナビ
https://saponet.mynavi.jp/news/news_file/file/column-583_001.pdf
ダイレクトリクルーティングの主な手法としては、以下のものが挙げられます。
SNSを活用した採用活動では、まず企業がSNSで情報を発信することで、フォロワーや閲覧者を集めます。
その中で自社が求める要件に合致しそうな人材に、直接メッセージを送るなどでアプローチします。
最近はビジネスに関する情報収集や交流、企業からのスカウトを目的としたSNSも登場しており、効果的な採用活動が期待できるでしょう。
必ずしも採用を目的としていない自社および他社開催の勉強会やセミナーなどのイベントも、ダイレクトリクルーティングを進める上で有効活用できます。
参加者は必ずしも自社に興味を持って参加するとは限りませんが、イベントでの出会いをきっかけに交流を重ね、自社に興味を持ってもらえれば、長期的な視点で採用につながる可能性があります。
多くの人と接点を持てるイベントは、企業が人材にアプローチする入り口として重要であると考えておきましょう。
リファラル採用とは、社員をはじめとした企業の関係者が、自身の人脈の中から自社に合う人材を推薦し、紹介する採用手法です。
人材との間にすでに関係が構築されており自社の魅力や社風を伝えやすい上、人材の性格やスキルも把握しやすく、企業風土や求める職能とマッチする人材を採用しやすいことが特徴です。
人材紹介企業などに登録されているデータベースから、自社の求める要件に合う人材を検索し、メッセージ送信などで直接アプローチします。
対象者の選定やメールの作成・送信、それ以降の対応は基本的に企業側で行いますが、原則としてデータベース利用に費用がかかるのが特徴です。
ダイレクトリクルーティングに多くのメリットがある一方、デメリットも存在します。それぞれの内容を解説します。
メリットには以下のようなものがあります。
従来の採用手法では待ちの姿勢が中心になるため、必ずしも自社が求める人材からの応募ばかりではなく、求める要件との間にミスマッチが生じることも少なくありません。
一方、ダイレクトリクルーティングでは、SNSでのフォロワーやデータベースの登録者などから、求めている要件の人材を選んでアプローチできます。より自社にマッチした人材を探せるのは、大きなメリットです。
従来の手法では、求人情報を見て応募する、人材紹介企業に登録するなど、具体的な転職活動を行う転職希望者でなければ接点を持てません。
ダイレクトリクルーティングでは、「良い企業があれば」「チャンスがあれば」など、まだ転職市場には出ていない潜在的な転職希望者にもアプローチできます。
採用候補者の幅を広げられるのは、メリットの一つといえるでしょう。
求人広告の掲載や人材紹介の利用を行った場合、掲載料や入社時の成功報酬という形でコストが発生します。
ダイレクトリクルーティングでは、無料または比較的低価格のSNSプラットフォームを利用して候補者にアプローチするため、従来の採用手法に比べて採用コストを抑えられます。
媒体やデータベースを使用する費用が発生しても、広告作成や仲介の手間が少ないため、総合的には採用コストの削減につながります。
ダイレクトリクルーティングは、対象とする人材の選定やアプローチする方法をはじめ、採用活動の全プロセスを自社で行うため、知識やノウハウを社内に蓄積できます。
他社に依存せず、自社で質の高い採用活動を実施できるようになることは、企業にとって大きなメリットとなるでしょう。
一方、デメリットしては以下のようなものがあります。
ダイレクトリクルーティングでは、採用活動のほとんどの部分を自社で完結させます。
個別の候補者への細やかな対応が必要であるほか、継続的な情報発信を行う必要もあるなど、採用担当者への業務負荷が増加する傾向にあります。
実施する際は、人的および時間的なリソースの確保や、運用可能な体制作りに十分な配慮が必要です。
ダイレクトリクルーティングで重要なことの一つは、転職目的とは限らない人との関係構築です。
そのため、短期的な成果に必ずしもつながるわけではありません。
また、自社なりのノウハウを確立するためには、ある程度の時間や試行錯誤が必要です。すぐに人材を採用できるとは限らないことを認識し、日々のコツコツとした積み重ねが成果につながることを覚えておきましょう。
ダイレクトリクルーティングでは、候補者一人ひとりに直接アプローチし、それぞれの候補者に合わせ細かく対応しながら採用活動を進めるため、一度に多くの人材を採用するには不向きです。
求める人材の要件や人数にあわせ、従来の手法との併用が求められるでしょう。
ダイレクトリクルーティングを導入する際のプロセスを解説します。
使用する媒体、サービスを確定したら、対象となる候補者を検索してリストアップします。さまざまな検索条件で調査し、ターゲットの候補者を確認しましょう。
リストアップした候補者にメールやメッセージを送信します。
自社に興味を持ってもらって返信してもらう確率を高めるには、コピー&ペーストを使わず、その人に合わせてメール文面を作成しましょう。
それぞれの候補者の経歴やスキルをよく確認し、それに応じた文面を個別に作成することで、「自社に来てほしい」という思いの強さをアピールすることが望ましいです。
候補者から返信をもらえた場合は、できる限り早く返信し、面接の日程調整を行います。
候補者は他社からのアプローチを並行して受けている可能性もあるので、できるだけ早く面接までつなげることが重要です。
ダイレクトリクルーティングを成功に導く進行上のポイントを解説します。
これまでの採用活動における自社の課題を明確にし、ダイレクトリクルーティングの実施が適切なのかを確認しましょう。たとえば、課題が「採用人数を増やしたい」という場合は、別の採用方法を検討したほうが適切かもしれません。
また、ダイレクトリクルーティングではまだ転職意識が高くない候補者の意識を高める段階もあります。その際には、候補者に「この会社で働いてみたい」と思わせるような自社の魅力が必要です。自社の魅力を向上させ、うまく発信するには、経営者をはじめ、すべての社員に主体的にかかわってもらうような取り組みが必要です。メディア取材への対応、従業員インタビュー、日頃の業務の様子を撮影しSNSで発信するなど、全社を巻き込んだ施策を行えるように準備しておきましょう。
ダイレクトリクルーティングは、一般的には採用までに時間を要する上、長期的な取り組みが多くなるため、業務負荷が高くなります。ほかの業務との兼任するのではなく、専任の担当者を決めておくことが望ましいでしょう。
また、活動の効率化やそれぞれの候補者の状況を細かく管理するためには、関連する情報をまとめて一元管理する必要があります。情報の効率的な管理には、クラウドツールや専用のシステムの活用が便利なので、検討してみましょう。
ダイレクトリクルーティングは、それぞれの応募者に合わせた細やかな対応が行えるのが特徴です。
前章でも述べた通り、メールやメッセージは定型化したものを使い回すのではなく、その人ごとの内容で送りましょう。
また、相手が自社に興味を持ってくれている間にすばやく返信することで、相手からの興味も冷めにくく、面接にスムーズにつなげられるでしょう。
転職潜在層も含めた候補者にアプローチをして、自社への興味を持ってもらうには、従来の採用手法以上に「この企業で働いてみたい」と思ってもらえるような魅力が必要です。
そのためには、企業全体として魅力を高める取り組みを行い、それを発信することが重要です。
職場環境の改善や、社内の人間関係構築のためのイベント実施など、さまざまな角度から魅力向上の取り組みを進め、SNSやメディアなどでの発信を行いましょう。
ダイレクトリクルーティングでは、相手との関係作りから始めるため、採用までには一定の時間が必要です。
また、採用活動のノウハウを蓄積するまでにも、同様に時間を要します。PDCAを回しながら状況を検証し、都度改善を進めていかなければなりません。
一定の期間ごとに定期的な振り返り、見直しを行い、長期的な視点で取り組みを継続していきましょう。
企業が求職者に直接アプローチして密なコミュニケーションができるダイレクトリクルーティングは、従来の手法では得られない成果が期待できます。
一方で、短期的成果につながりづらいことや業務負荷の増大などのデメリットもあります。
実施にあたっては、これらの特性を理解した上で、自社に合った形で取り入れることを検討し、実践することが重要です。
実際の取り組みの中でノウハウを蓄積し、自社にとって効果的なダイレクトリクルーティングの使い方を考えながら、優秀な人材の採用につなげましょう。
執筆者プロフィール:
小笠原 隆夫(人事コンサルタント)
IT企業でエンジニア職、人事部門長として関連業務に携わる。2007年より「ユニティ・サポート」代表として人事・組織コンサルティングに従事。著書に『リーダーは空気を作れ!』(アルファポリス)。ほかウェブのコラム執筆多数。