一定規模以上の企業には複数人の取締役が在籍し、全取締役の合議で経営の方針などに関する意思決定が行われています。
その合議体制を円滑に運用するためには、合議体制を統括し最終的な責任を負う立場である「CEO」が必要です。本記事では、CEOの法的立ち位置やキャリアパスについて解説します。
CEOは「Chief Executive Officer」の略で、日本語に訳すると「最高経営責任者」です。CEOは経営に関する全責任を負い、最終的な経営判断を行う役割を担っています。
日本国内の法律においては、CEOという役職の権限や責任などに関する根拠は存在しません。あくまでも、社内の組織における呼称に過ぎないのです。
CEOと社長の違いは、役割定義が明確であるかどうかにあります。CEOは、「経営に関する全責任を負い、最終的な経営判断を行う」役割を担う立場のことを指します。
一方社長は、一般的には「会社のトップ」というイメージがありますが、日本の法律上、社長の役割に関する規定は存在しません。社長という言葉は職位に関する呼称のひとつであり、経営責任や経営判断などの役割を担うとは限らないのです。
CEOと代表取締役とは根拠となる法律に違いがあります。
代表取締役は、全取締役の合議体である取締役会において代表権を持った人、すなわち会社の代表者としての地位を持つ人のことを指します。
また、日本の法律で、代表取締役は「経営に関する全責任を負い、最終的な経営判断を行う役割を担う」と示されています。
一方でCEOは、アメリカの法律で同様の根拠が示されています。
それぞれ示された役割は似ていますが、CEOはあくまでもアメリカの法律で役割が定義されている役職ということです。
CEOとCOO(Chief Operating Officerの略、最高執行責任者の意味)の違いは、立場としての上下関係です。
COOは、CEOが決定した経営の方針や計画に基づいて社内の業務を執行する役割、つまり業務を遂行した上で結果を出すための管理を行います。
つまり、CEOは業務の執行を指示し、COOはCEOの指示に基づいて業務を執行するという関係性があります。
CEOは、会社の事業の進むべき方向性を明確にした上で、事業を的確に推進し、会社を成長させるための仕事をしています。
社内には複数の事業部門があり、それぞれの部門における事業の執行をマネジメントする執行役員などの役職が存在します。
CEOには、そのときどきにおいて最適な事業部門を設定し、部門ごとに事業の執行をマネジメントするポジションを配置し、メンバーが会社の進むべき方向性を理解した上で事業を執り行えるよう統率する役割があります。
事業を執行することで会社が求める結果(収益)を実現させるためには、的確な道筋を描く必要があります。
例えば、事業を取り巻く環境にあわせて、どのような事業に対して投資や人の配置を行うか、どのような方法で事業を推進していくのかという内容です。
CEOは、このような道筋、つまり事業戦略を明らかにした上で、事業部門内のそれぞれの現場が何をするべきなのかということを明らかにする役割があります。
会社の事業は、短期的な結果を追い求めるだけではなく、中長期的な視点でどのような結果を追い求めるのかという構想も併せ持つ必要があります。
会社は成長しながらも継続することが使命であり、短期的な結果を追い求め続けていくだけでは、場当たり的な経営になってしまうからです。
CEOは、中長期的な視点で会社が成長していくイメージを持ち、その実現のためにはどのようなタイミング・順序で投資や人員配置を行うか、どのような考え方で事業を成長させていくのかを経営戦略として策定する役割があります。
人、つまり従業員が育たないと事業は成長しません。「モノ、カネ、情報」の経営資源を効果的に活用できるかどうかは、従業員の能力が結果を左右する上、CEOが策定した事業戦略を実践するのは従業員だからです。
CEOは、経験や教育を通じた人材育成を計画的に行い、その人材の能力を的確に評価して活用できる仕組みを構築する役割があります。
事業を成長させていくためには、育った人材を社内に定着させる必要もあります。教育コストをかけて育てた人材が社外に流出してしまうと、その分が会社の損失となってしまうからです。
CEOは、従業員の能力や強みを生かせるよう適切な配置を考えたり、仕事の成果を的確に評価する仕組みを構築したりする役割があります。
CEOのポジションに就くためには、一般的に「社内で昇進する」「転職して就任する」「起業して就任する」という3つの方法があります。
会社に入社した後にキャリアや実績を積み上げ、それを株主から評価されることでCEOのポジションに就く方法があります。
キャリアや実績が認められた上でCEOになるため、周囲からの信頼が得られ就任後の業務がスムーズになりやすい利点がありますが、その分経験を積むための一定の時間が必要です。
これまでのキャリアや実績を社外にアピールすることで、ほかの会社からCEOとして迎え入れてもらう方法もあります。人材紹介会社などを通じてのヘッドハンティングがよく見られます。
他社からCEOを迎えることは珍しくなく、実績を買われた上での対応であるため、高い待遇が約束されることが一般的です。
自ら会社を立ち上げ、CEOに就任するという方法もあります。自身で立ち上げた会社をどのように成長させたいのか、事業をどのように推進していくのかなどを明確にした上で、投資や人の配置、その他事業の執行を統括していきます。
経営の仕組みを充分に理解し、かつ経営に役立つ知見を有した人間が社外取締役としてふさわしい人材だと言えるでしょう。
社外取締役は、経営という枠組みの中で現役の社内取締役に対してさまざまな助言や指摘を行う役割を担っています。
そのため、経営に関する実績やノウハウを有し、経営に精通していることが要件として必要です。
その結果、社外取締役へのオファーは、大企業の現役の経営者や元経営者によく出されます。
さらに、法律や会計、税務など、経営に必要不可欠な分野の専門知識に精通している方は実務面でのリスクを防止できるため、そのような人材も社外取締役にふさわしいといえるでしょう。
その観点から、弁護士や公認会計士などの専門家が社外取締役の役割を担うこともあります。
社外取締役の任期は会社によってさまざまですが、1年もしくは2年ごとに契約を更新している例が多く見られます。
特定の人間が長期間社外取締役を務め続けると、馴れ合いが生じてしまうリスクがあります。
客観的な立場で自社の経営を監督してもらうことが社外取締役の大きな役割であるため、馴れ合いを防ぐために、短期間での契約を結ぶ運用が多いのです。
社外取締役の報酬も会社によってさまざまですが、東証1部(現:東証プライム)に上場している大企業約2,000社を対象に実施した調査では、社外取締役の年間報酬の平均額は663万円だったという結果が存在します。
非上場の企業に関しては、月間の報酬額が数十万円程度という事例が多いものと推測されます。
CEOとしての職務を遂行するために必要とされる共通的なスキルとして、「経営視点で物事を考えられる能力」と「組織を強くするためのマネジメント能力」があります。
経営視点で物事を考えられる能力とは、常に「会社を成長させつつ最適な結果(収益)を実現させるために、目の前の事象をどう判断するか」という考え方で意思決定を行うことです。
組織を強くしていくためのマネジメント能力とは、組織に所属する従業員たちの士気を高めながら、メンバーそれぞれの能力を上手に活用し、組織を成長させるための対応を行うということです。
CEOの年収は事業規模が大きくなるほど高くなる傾向にあります。民間企業における役員報酬の実態調査は人事院が行っており、CEOの職務を遂行する役員を社長と仮定した場合の年収例が確認できます。
その調査では、従業員数が500~999人の企業の社長の役員報酬の平均額が3,963万円、1,000~2,999人の企業の場合は4,554万円、3,000人以上の企業の場合は7,372万円であるということが確認できます。
出典:民間企業における役員報酬(給与)調査|人事院
https://www.jinji.go.jp/toukei/0321_yakuinhousyu/0321_yakuinhousyu_ichiran.html
CEOは責任も大きい反面、やりがいも大きなポジションです。幅広い知識や能力に加えて、豊富な経験も必要とされます。CEOを目指すのであれば、そのためのキャリアプランを自ら設計した上で、計画的に知識や能力を習得し、経験を積んでいく働き方が求められます。
執筆者プロフィール:
大庭真一郎(中小企業診断士、社会保険労務士)
大庭経営労務相談所 代表 東京都出身。東京理科大学卒業後、民間企業勤務を経て、1995年4月大庭経営労務相談所を設立。「支援企業のペースで共に行動を」をモットーに、関西地区を中心として、企業に対する経営支援業務を展開。支援実績多数。