事業戦略とは?言葉の意味から策定方法までの基本のいろはまとめ

ビジネスを行う上では戦略が大事とよく言われます。

しかし、戦略という言葉の意味などについて、わかっているようで自ら説明するのは少し難しく感じる方も多いのではないでしょうか。

本記事では、ビジネスを成功に導くための事業戦略について、言葉の意味から策定方法まで、基本的な内容をわかりやすく解説します。

事業戦略とは

企業の経営資源には限りがあります。作れば売れた高度成長期と違い、現代では、消費者の多様な価値観にこたえる商品・サービスの提供が求められています。企業の規模に限らず、事業の選択と集中が不可欠であり、事業戦略の重要性が見直されています。

最初に、事業戦略という言葉の意味から解説します。よく似た言葉で「戦術」と「戦略」の言葉の違いから解説しましょう。下図をご覧ください。

例えば、いくつかの事業アイディアがあるとします。それを山に例えたとき、どの山を選ぶかは、後述の「経営理念」で解説します。経営者の判断で、ある山の頂上を目指すことを決めたとき、その山の頂上を目指す方法を決めることが「経営戦略」です。山の例えでいうと、「どのルートを選ぶのか」「車で行くのか、歩いて行くのか」などを決めることが経理戦略にあたります。車で最短距離のルートで行くことが一番早い方法だとしても、歩いて行くことを選ぶ会社もあります。

具体的に事業に関する例えを出すと、新規事業を始めるにあたって、M&Aでノウハウや顧客を持つ事業ごと買って始めることは、「車で最短距離のルートで行く」というイメージに近いでしょう。
それに対して、「歩いて行く」というのは、社員に新規事業について学ばせたり経験を積ませたりしながらじっくり事業を構築していく戦略にあたります。

一方で、決めた戦略の中でより良い成果を早く確実に出すための方法が「戦術」です。
例としては、社員をじっくり育てて新事業を始めると決めた場合に、社員をどう育成して事業を始めるかを考えることが戦術を考えるということです。新規事業と同分野の経験を持つ中堅社員を採用してOJTで学ばせる、海外留学させる、オンラインの講座で知識を得させるなど、さまざまな戦術が考えられます。

戦術と戦略の違いを区別しておかないと、戦略を考えるべきなのに、つい「何をするか」という戦術を考えてしまいます。新規事業を計画するにあたっても、「なぜそれを行うのか」「何を目指しているのか」という戦略を決めずに、「何をするか」の戦術を考えてしまうと、方向性が決まらず施策や方針がバラバラになってしまいます。

このように、事業戦略とは、新規事業や既存の事業の事業目的を達成するために作る、基本的な方針や計画のことを指します。

事業戦略と経営戦略との違い

「事業戦略」と似た言葉に「経営戦略」という言葉があります。「経営戦略」は、全社戦略や組織戦略とも呼ばれ、会社全体の目的を達成するための基本方針です。

企業のあるべき姿を実現するため、社内の組織や管理体制の基本的な構成を定め、自社の経営資源をどのように有効に活用するかの基本方針を決めることを指します。

「事業戦略」は、この経営戦略をベースにして策定します。事業戦略は競争戦略とも呼ばれ、自社の強みを生かして、どの市場でどのような顧客に対してどのような商品・サービスを提供していくかの事業モデルを決めることを指します。

事業戦略と経営理念の違い

「経営理念」は、事業戦略や経営戦略の上の概念です。上記の「戦略イメージ図」と、前述した山の例えでは、「どの山を選ぶか」というのが経営理念にあたります。山の例えでいうと、何を目的にその山を選んだのか、その山を登ることで何を実現したいのか、山に登った先にはどのような風景が見えるのかなどということを示すのが経営理念と言えるでしょう。

つまり、企業の存在する目的や価値、企業が果たすべきミッションを示すのが経営理念です。

「経営理念」で掲げた目的を達成するために「経営戦略」が策定され、その経営戦略の中で事業単位に作られるのが「事業戦略」と説明できます。

事業戦略と事業システムの違い

「事業システム」は、事業戦略を実行するために作る具体的な仕組みを指します。

「戦略イメージ図2」の機能戦略に示すように、事業システムとは、事業に必要な機能をどのように組み立てて運営をしていくかという事業の仕組みを指します。

商品やサービスは真似されやすいですが、事業の仕組みは外部からはわかりにくく、すぐに似たようなビジネス展開をすることは難しいため、競争優位が続きやすくなります。

事業戦略はなぜ重要なのか

企業は、経営理念やビジョンをもとに経営戦略を策定します。複数の事業を持つ企業では、経営戦略とは別に事業戦略を策定する必要があります。
本章では、事業戦略の重要性について解説します。

全社視点で事業価値を考える機会が生まれる

事業戦略を策定するときは、最初に経営理念、経営戦略という「全社視点」から事業性を検討します。事業の採算性や持続性のみを検討するだけでなく、事業が全社にどのような価値をもたらすのかを、短期的・長期的に検討できます。
これにより、既存事業との相乗効果や、弱みの補完など、全社視点での事業価値を考えることができます。

事業遂行の計画・目標ができる

事業戦略とは、企業の事業目的を達成するために作られた基本的な方針や計画です。

事業の目的とその先のビジョンを共有し、事業遂行の計画・目標を立てることで、事業部内の社員だけでなく、全社からも協力を得られやすくなります。

事業戦略に基づき、事業システムを構築することで、関係者のアクションプランが明確になります。また、目標達成に向けてPDCAを回す管理能力も向上するでしょう。

自社の経営資源を有効活用できる

事業戦略を策定する中で、自社を取り巻く環境変化について内部環境・外部環境の分析を行います。

そこで自社の強みと弱みを再確認し、外部環境の変化にどのように対応していくかを全社視点で検討します。事業戦略があることで、事業に全社の経営資源を効果的に配分できます。

事業戦略の要素とは

事業戦略を考えるときには、事業を遂行するために必要な4つの要素を書き出します。

ビジョンと事業目的

全社戦略の中でその事業を行う目的を明確にし、達成後のビジョンを具体的に示します。

事業領域

自社の強みを生かし、どこで競争優位性を発揮するのかという事業領域を設定します。どの市場、どの顧客に、どのような商品・サービスを提供するのかをそれぞれ決めます。

市場・顧客/商品・サービス戦略

設定した事業領域において、顧客満足度を高め、競争優位性を発揮するための「市場・顧客戦略」を設定します。

また、「商品・サービス戦略」とは、市場・顧客に対し、どのような価値を提供すれば差別化できるかを示したものです。

事業システムの構築

設定した市場・顧客や商品・サービス戦略を具体的に実現できる組織・運営の仕組みを策定し、収益性と実現可能性を考慮した、持続可能な事業システムを構築することを指します。

事業戦略の基本的な立て方

効果的かつ実現可能性の高い事業戦略を策定するには、一定のルールがあります。基本的な戦略の立て方を解説します。

事業全体の目標設定

まず、該当の事業を行う目的を明確にし、達成後のビジョンを具体的に描き、事業の方向性や目的を共有します。

これにより、事業部内で行動計画や目標設定が立てやすくなります。目標を設定する際は、目標設定に必要な5つの要素を示した、下記の「SMARTゴール」と呼ばれるフレームワークの活用をおすすめします。

・Specific(具体的に明確で具体的な表現や言葉で書き表す)
・Measurable(達成度合いが測定できる定量化した数字で示す)
・Achievable(現実的に達成可能な目標であることを考える)
・Related(全社経営目標に関連した目標であることを考える)
・Time-bound(いつまでに目標達成するか期限を設ける)

現状分析を行う

次は、現状分析を行います。現状分析には、自社を取り巻く「外部環境分析」と、自社の経営資源や知的資産を見直す「内部環境分析」があります。最初に行うのは外部環境分析です。

自社の強みを活かした新事業を検討していても、自社を取り巻く外部環境の変化を正しく把握できていなければ、市場のニーズや競合の競争力の判断も見誤ってしまいます。

外部環境分析には、世界全体や市場全体の変化を見るマクロ環境分析の「PEST分析」や、業界の競争力や収益性の変化を見る「5フォース分析」を使います。
戦略を立案する前に、長期的な視点で自社を取り巻く環境変化を把握し、自社への影響を予測することが大事です。

続いて、内部環境分析を行います。自社の強みや弱みは何かを把握し、競争力の源泉となっている経営資源は何か、それは今後も持続するものなのかなどを、客観的な視点で分析します。

経営資源には、ヒト・モノ・カネ・情報などの目に見える資源だけでなく、ブランド力や事業の仕組み、組織、人脈、ネットワークなど、目に見えない「知的資産」も含まれます。内部環境分析には、次章で解説する「SWOT分析」や「3C分析」がよく使われます。

方向性の策定

外部環境の分析から、自社が強みを生かして活用できそうな機会を探り、事業戦略を複数検討します。この段階では、戦略は1つに絞らず、できる限りさまざまな可能性を検討します。

そして、「外部環境が変化することで自社に追い風になりそうなことは何か」「そこに自社の強みをどのように活用すれば競争力を強化できるか」などという「強化戦略」をいくつか検討します。

さらに、業界にとっては向かい風の環境変化でも自社の強みを生かしてうまく事業化できないかという「逆転戦略」も検討します。

実現可能性の評価

複数の事業戦略の候補を出した後は、実現可能性を評価します。事業戦略それぞれに対して、コストや組織能力、メリット・デメリット、リスクなども踏まえて、事業単体としての評価を総合的・客観的に評価します。

総合的によい評価でも時間とコストがかかる戦略や、ベストとはいえない戦略でも短期間にコストをかけずに達成できる戦略、事業単体ではメリットは少ないものの自社のほかの事業への相乗効果が高い戦略など、総合的な評価を行い、実行可能性を元に優先順位をつけます。ここでは、具体的なコストや組織づくり、運営方法などのシミュレーションをしっかり行います。

施策の実行

最終的に、実現可能性において最も高い評価を得た事業戦略を実行に移します。ここでは事業戦略として作られた大まかな方針・計画を、具体的に実行レベルの事業システムへ落とし込みます。事業戦略をもとに、現場からのフィードバックや組織づくり、オペレーションを、具体的に作り実行します。

事業戦略の策定に使えるフレームワーク

実際の事業戦略の策定に活用できる主なフレームワークを紹介します。

ポーターの3つの基本戦略

ハーバード大学ビジネススクールのポーター教授が提唱した「3つの基本戦略」は、2つの軸で勝てる戦略を考えるフレームワークです。

1つの軸は強みの発揮の理由で、「低コスト」または「差別化」、もう一つの軸は顧客の範囲の集中度合いを示すもので「広いか、狭いか」を考えるものです。

低コストかつ顧客の範囲が広い「低コスト戦略」は、「同じ商品なら、安く提供するほうが勝つ」という戦略です。他より圧倒的な安い商品・サービスを提供する「コストリーダーシップ戦略」の代表例として、ユニクロやマクドナルドが挙げられます。

差別化していて顧客の範囲が広い「差別化戦略」は、「価格は高くても価値に見合ったものなら勝てる」という考え方です。カフェのチェーン店の分野でいえば、スターバックスがこの戦略を取っているといえます。それに対し、安価なドトールは「コストリーダーシップ戦略」を取っています。

低コストかつ顧客を絞った「コスト集中」戦略は、顧客をある特定の範囲に絞り、低価格帯で市場での優位を取ります。
自動車メーカーの例では軽自動車に特化したスズキ、ファッションでは20〜50代主婦に絞ったしまむらがこの戦略を取っています。
カレーチェーン店のインディアンは、出店地域を北海道の帯広に絞り、地域食材を活用することで大手カレーチェーンにもかなわない低コストを実現しています。

差別化していて顧客を絞った「差別化集中」の代表例は、自動車制御機器に特化して高い収益性を上げているキーエンスです。経営資源の制約の多い中小企業にも向いている戦略といえるでしょう。

SWOT分析

SWOT分析は、市場の変化を捉えて、自社の強みを生かし、弱みを克服して勝てるところはどこかを探す方法です。

自社を取り巻く内部環境分析として、自社の「強み(Strengths)」「弱み(Weaknesses)」を書き出し、外部環境分析として、自社に追い風になりそうな変化を「機会(Opportunities)」、向かい風になる変化を「脅威(Threats)」ととらえて書き出します。これらの4つの要素の頭文字を取って、SWOT分析と呼ばれています。

最初に、機会と脅威を書き出し、マクロ環境や業界・市場環境の変化を分析します。その変化に対して自社の強みを活用できないか、もしくは弱みを克服して対応できないかを考えます。ここで大事なことは、書き出した4つの項目を俯瞰した上で、どうやったら勝てるか、KSF(キーサクセスファクター:主要成功要因)を検討することです。

3C分析

3C分析も、外部環境の市場と競合の分析から、勝てるポイントであるKSFを見つけ出すフレームワークです。3Cは、「市場(Customer)」「競合(Competitor)」「自社(Company)」の頭文字から名付けられました。

「市場(Customer)」では、自社の商品・サービスの顧客や潜在顧客がいそうな市場の規模や今後の成長性、ニーズ、消費行動の変化などを検討します。

「競合(Competitor)」では、自社の競合相手について分析します。地域の同業他社や他地域・他業界で自社のサービスの代替になるものはないか、競合が環境変化に対してどのように対策しているのか、経営資源・組織・仕組み・売上・顧客数などを分析します。

「自社(Company)」では、自社の経営資源や実績を定性的・定量的に把握します。売上高・市場シェア・収益性・技術力・組織・人的資源などを書き出し、強みの源泉は何か、お客様が評価する付加価値は何かを分析します。

まとめ

事業戦略を策定することやフレームワークを使うことは、事業の目的を達成するための手段です。本来の目的はなんだったのか、それを実現して何を達成したいのか、もし迷ったら3つの視点で振り返ることをおすすめします。その視点とは、「鳥の目」「虫の目」「魚の目」です。

「鳥の目」とは高いところから事業全体を俯瞰的に見ることで、全体像や事業の立ち位置を把握できます。

「虫の目」は目の前の現状、特に現場をしっかり把握する視点です。

最後に「魚の目」で、目に見えない水の流れ、つまり環境変化を把握します。

事業はダイナミックな外部環境の変化から影響を受け続けます。事業戦略をしっかり立てることは、事業規模・業界に限らず成功への近道になるでしょう。

執筆者プロフィール:
奥野美代子(中小企業診断士/医業経営コンサルタント)
外資系ブランド27年のPRの経験を生かした「魅力発信」と「知的資産経営」「コーチング」で中小企業のビジョン実現とスタッフ育成を行い、集客に悩むことなく地域から選ばれる企業の「魅力発信ブランディング」を支援。

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