コロナに苦しむ旅行業にプロボノはどんな風を送り込んだのか!? 旅行代理店ヴァケーションの取り組みに迫る

昨今、新たな社会貢献の手段として注目を浴び始めている「プロボノ」。コロナの影響もあり、新たな打開策やアイデアが欲しいという受け入れ企業も増えています。「プロボノ」はボランティアの一種でありながら、自らがこれまで培ったスキルや人脈を活かして企業やNPOを支援することで、スキルの棚卸しや社外での腕試しに繋がり、キャリア形成の側面でも効果があると注目されている取り組みです。

今回、エッセンス株式会社が提供するプロボノプログラムを受け入れていただいた石川県金沢市の旅行代理店、株式会社ヴァケーションの多々見取締役にお話を伺いました。(聞き手:エッセンス株式会社 島崎 由真)

多々見 としや(たたみ としや)
株式会社ヴァケーション 取締役

日本の大学を卒業後、カナダの大学に5年半通う。日本に帰国し27歳で地元である金沢の旅行代理店に就職。3年後、会社メンバーと一緒に独立、ヴァケーションを立ち上げる。


メンバーは全員旅行が大好き!



-会社とサービスの概要の紹介をお願いします。

当社は株式会社ヴァケーションと言いまして、石川県金沢市に本社がある旅行代理店です。国内・海外問わず、お客様の旅行の手配・あっせん、団体のお客様の手配・添乗もさせていただいています。

強みとしては、お客様に提出するコースに関してはヒアリングをしてご希望に沿ったコース作りをするのはもちろんですが、それに加えて地元でしか体験できないこと・召し上がれないものなどを調べて、自分自身が行きたいコースを作成しています。

これは、メンバーが全員旅行が大好きだからこそできることであり、お客様からご好評をいただいています。

また、5年前に立ち上げたハネムーンに特化したオーダーメイド事業部があります。

従来のハネムーンは、ハネムーン向けの募集型と言われる分厚いパンフレットのツアーに参加するのがメインでした。ただ、それではツアー構成の中に興味がないものが入っていることもありました。

そうではなく、一生に一度のハネムーンなので、オーダーメイド化してお客様一人一人にカスタマイズしたハネムーンに行っていただこうというのが、モデルケースとして売れています。

大手も最近それに追随する形でオーダーメイドを始めているので、その先駆け的な存在です。


-多々見さんご自身の自己紹介もお願いします。

多々見としやといいます。日本の大学を卒業して、何をするのか決めていませんでした。

英語に元々興味があったので、英語圏に行きたいということでカナダに行き、大学に5年半通いました。27歳で日本に戻ってきてそろそろ働かないといけないということで、地元の新聞広告を見て地元の旅行代理店の面接を受け、明日から来てほしいということで採用されました。

2000年にお世話になった会社メンバーと一緒に新しい旅行代理店を起こそうと独立して今のヴァケーションを立ち上げ、今に至ります。


検索して辿り着いたプロボノプログラム



-プロボノに興味を持ったきっかけは何でしたか?

セミナーに参加した時に、民泊を手掛けていらっしゃる金沢の会社の社長さんが、コロナでインバウンドの外国人が入らず経営自体が危機的になっていて何かやらないといけないということで、プロボノを使って1ヶ月で新たにEコマースのプラットホームを立ち上げたというお話をされていました。

その時に、プロボノという言葉を初めて聞きました。

それからプロボノについて調べてみると、元々アメリカニューヨークの法相界ではじまったものであること、そしてボランティアで受け入れ先は無料で他業種からきた方のアイデアや意見を聞けるということがわかりました。

そこから検索してエッセンスさんにたどり着きました。調べた中でも御社以外にもプログラムを提供している企業はあったと思いますが、その中でエッセンスさんを選んだのは、私のセンスですね(笑)。


決め手は「自社だけでは冒険できない」から



-説明を聞いた中で、受け入れを決めた理由はなんですか?

当社のような旅行代理店は、2020年に緊急事態宣言が出されてから、売るものが何もなくなってしまい業績が低迷しています。これをなんとか打開しないといけないということで、8月頃から役員会の中で新事業・スタートアップをやらないといけないということを話していました。

ただ、役員会の中なので年齢も高く新しいアイデアが出てこない・あまり冒険もできないという保守的な意見が多かったです。

それならプロボノに参加をして、いろんな他業種から見た今後の旅行会社のあり方・アイデアをいただきたかったというのが受け入れを決めた理由です。

プロボノで会社の方向性を決めることは難しいかもしれませんが、色んな方のアイデアをいただきながら模索していこうという感じですね。




進むべき方向性が見えてきた



-実際にどのようなテーマで受け入れをしていただいたのでしょうか?

コロナがおさまった後は、ポストコロナで旅行の需要は高まるだろうというのは簡単に推測ができるのですが、今後またこのようなパンデミック・東日本大震災のような有事の際に、我々の産業はすごく左右されやすいです。

余暇があって初めて「旅行に行こう」ということになりますので、10年おきに何かやってくるとすると、旅行だけでなくもう一つ何か柱を持っていた方がいいのではないかということで、旅行とはかけ離れたスタートアップを考えていました。

プロボノでも結果的に旅行からはかけ離れられなかったのですが、新しいマッチングなどのアイデアも出していただき、面白いなと思いました。

最終的には、人口減少・地域創生に役立つ、旅行や宿泊を通じて最終的には定住してもらえるようなモデルケースを作っていこうということで、まだ小さな光ですが進むべき方向性が見えてきたかなという感じです。


-プロボノの結果、旅行になったというのは良かったですか?

良かったと言えば良かったです。

やはり旅行に結びついているので、社内の説得はしやすかったですね。旅行と全く関係のないものをこれから始めるとなると、どうしても怖気づいてしまい一歩前に足を踏み出せないという面もあったと思います。

そのため、旅行には関係していますが、旅行を売るのではなく、軸足をずらしたアイデアをいただけたと思います。


-プロボノ参加者との初顔合わせの際に受けた印象はありますか?

第一印象としては、全員男性だったので花がないなという感じでしたね(笑)

当社は6割5分くらいが女性なので、そこがまず印象的でしたね。

旅行がテーマだと女性も入ってこられるかと思ったのですが、見事に男性だけでした。結果的には、メンズトークがあったので、それはそれで楽しかったです。


社外の方との対話による気付き



-受け入れてよかった点・得られた成果は何が挙げられますか?

受け入れてよかった点は3つあります。

1つ目は、まだ曖昧ではありますが、こういう風にスタートアップとして進めていこうという会社の方向性の道筋が見えた点です。これは会社としてとても大きな成果だったと思います。

2つ目は、若手に参加させた方がためになるなという想いが生まれた事です。これは会社としての今後の課題になってくると思います。

当然、若手はまだ決定権や裁量は持っていないのですが、アイデアは持っていると思います。そのようなアイデアを持つ若手がプロボノメンバーのような意識の高い方と一緒に活動することで、相乗効果が生まれるのではないかと思います。

「こんなのじゃまだまだだな」という自分たちを見直す気付きにもしてもらいたいなと思います。

3つ目は、社外の方と話をする中で私自身も気付きがありました。皆さん意識が高くて、40日間という短い期間でしたが、その中で自分なりに成長できたと思います。


-逆に、苦労した点を教えてください。

当社の次からの課題にもなりますが、事前にゴールが明確に定まっていなかった点が反省点です。

40日間のプロボノの中で5回のミーティングをさせていただきましたが、「こういうことを求めています」というのをはじめに提示できませんでした。

1回目・2回目は、金沢の魅力、当社の強みや弱み、旅行業とはそもそもどういうことをしているのかなど、参加された方からの質問にお答えするのが中心でした。

貴重な5回の中の2回をそのような感じで無駄にしてしまいました。ミーティングの時間は限られているので、事前に資料をお渡しするなどの対策をとればよかったなと思います。




次は初めから効率的に、成果が得られるプロボノをしたいですね



-今後もプロボノを受け入れたいと思われますか?

そうですね。今後もぜひ機会を持たせていただきたいと思います。

今回初めてで右も左もわからなかったこともあり、遠慮しがちでどこまで頼んでいいのかもわかりませんでした。次回参加させていただけるのであれば、ある程度わかった状態から始められるので、もっと効率的に、ずばずばとお願いもできるかなと思っています。

また、今回のプロボノを通して今までなかったビジョンも明確になってきたので、そこからさらに磨きをかけたビジョンを提案していただきたいです。


多くの方がプロボノを知れば、飛躍的に拡がる



-プロボノへの可能性はどう感じられていますか?

今はまだプロボノという言葉自体知らない方が大半だと思います。

多くの方がこのシステムを知れば、飛躍的に伸びてくるのではないかと思います。そうなってくると、マッチングされる方が今後大変になってくると思います。

需要と供給のバランスをどうやって取るかが難しいのではないかと思います。プロボノというシステムがあることを全国の困っている事業者の方が知ると、もし今のまま無料ということであれば、皆さま「ぜひ参加したい」となってくると思います。

そうなってくると送り出す側の人手が足りなくなるのではないかという気がします。今後、プロボノが広がる可能性は大きいと思います。