大企業から4人がプロボノ参加。ソーシャル系スタートアップの経営者は何を感じた?

 昨今、新たな社会貢献の手段として注目を浴び始めている「プロボノ」。ボランティアの一種でありながら、自らがこれまで培ったスキルや人脈を活かして企業をNPOを支援することで、スキルの棚卸しや社外での腕試しに繋がるとキャリア形成の側面でも効果があると言われています。

 今回、エッセンス株式会社が提供するプロボノプログラムを通じて、4名の大企業社員をプロボノとして受け入れた株式会社マモルの隈(くま)社長にお話を聞きました。(聞き手:エッセンス株式会社 島崎 由真)

隈 有子(くま ゆうこ)
株式会社マモル CEO
青山学院大学を卒業後、大手音響機器メーカー、クラリオン株式会社にてコンテンツ企画、マーケティングを行う。 2007年勤務の傍ら、東京大学大学院情報学環コンテンツ創造科学産学連携教育プログラム4期生に所属。 その後、株式会社ディー・エヌ・エーにてモバイルコンテンツ企画、プロモーションなどに従事。 ITベンチャー企業執行役員を経て、 2013年事業開発ディレクターとして独立。中高生向けサービス、 ワーキングマザー向けメディア立ち上げ等に関わりながら、多くの保護者や子どもと接点を持つ中で、以前から問題意識のあった 「いじめ」を少しでもなくしたいという思いから2018年株式会社マモルを設立。 自身の強みであるWebマーケティングのノウハウを活かし、 いじめや組織のハラスメントを未然に防ぐシステム「マモレポ」を開発する傍ら、学校コンサルティング、いじめ・ハラスメント関連のセミナーの登壇、執筆学等を行う。

異世界からの応援者

ーまずは隈(くま)様のキャリアについてお伺いできますか。

 会社員をして、フリーランスをやって、起業しました。

 副業は、新卒で入社した会社にいた時にやっていました。エネルギーがありあまっていたというのが本音の部分です。

 副業の内容は「お笑い芸人の舞台の企画・プロデュース」です。要はそっちの世界へ行きたかったのですが、「転職するまでもなあ」というのもありました。元々、マスコミに行きたかったというのもあります。

 なのでパラレルワークの考え方はすごい好きなんです。今は当たり前になってきていますが、結構昔から私は好きでやっていました。

 今回、プロボノワーカーに参加していただいて、応援や興味を持ってくれる人はありがたいなと強く感じました。私はいじめの検知システムという割とセンシティブな領域の事業をやっているので、特に興味のある方とない方がすごく分かれてしまいますので。

 みなさんが興味があると言って下さったのがすごく嬉しかったです。あと、全然関係のない分野の人が来てくれたので、とても面白いと感じました。

 それがプロボノやインターンの醍醐味だと思いますね。なので、受け入れは本当にウエルカムです。元々育休インターンや学生インターンの受け入れは好きでやってきていました。

 今も育休の方、大学生の方が関わってくれています。

「何ができるんでしょうね」

 一方で、今回少し難しかったところは、皆さんある程度ベテランの方々だったことですね。若い方であれば仕事をボンボン振っていくのですが、皆さんある程度経験をされてて、会社である程度の地位に就いていらっしゃる方ばかりでしたので、依頼する内容は困りました。

 皆さんに「何ができますか?」と聞いても、答えられなかったんです。「何ができるでしょうね」という感じでした。

 だからあえて丸投げをしました。皆さん多分「え?」と思われたと思います。「何するんですか、この会社で?」と。

 逆にそれが良くて、すごく焦って考えてくれたみたいでした。「何かやんなきゃ」「何か手を出さなきゃ」と。

 結果としてはとても良かったです。

▲プロボノプログラムの初回セミナー時の会社紹介スピーチの様子

ー戸惑いながらも、皆さん徐々に慣れていかれたんですかね?

 参加されていた放送会社の支局の方もはっきりメールに書かれていましたよ。「やっぱり。最初自分は何ができるか分かんなくて、かなり出遅れたと思っていました」と。

 確かにそう感じられましたし、申し訳なく思っていたのですが、その時は「何ができますか」と聞いても「うーん」と言われてしまいました。

「実は僕、今こういう事やっていて」

 でもそこで思ったのは、やはり40~50代は「何ができますか?」に対して、「パワポできます」とかではないなと。学生であれば「パワポ作れます」で良いと思うのですが。年齢を重ねると段取りだとか、なかなか言葉では言い表せないことがスキルになってきまよね。知識とか。皆さん、それを上手くうちの事業に合わせてくれました。

 例えば人脈を使うこともあると思います。先ほどの放送会社の方は、自分の知り合いにサービスを紹介してくれました。その人は、10年ぶりに連絡した人もいたらしくて彼にとってはとても楽しかったみたいでした。「元気ですか?実は僕、今こういう事やっていて」みたいな話をしたら、みんなから「ああ、久しぶり」と結構繋がったみたいです。

ーそれはソーシャルベンチャーならではですよね。マモルさんがやっている事が公共性もあるし、社会的に意義のある事だからこそ、コミュニケーションが取りやすいところはありますよね。

 そうですね、だから言いやすかったのかもしれませんね。何か売っていますとかだったら営業メールっぽくなってしまいますもんね。私も「売り込まなくていいですよ」とは言っていました。「自分は今こういう事をやっています」という近況報告でいいですよと。

 私たちからすると、それだけでも知ってもらえるわけですし、すごくありがたいです。先ほどの方は結構いろんな人に久しぶりに連絡ができたみたいで、「自信がついた」とメールには書いてくださってました。

「スタートアップに生きる」とは

 一方で、別の参加者の中には自分の知り合いに絶対連絡しない、という方もいらっしゃいました。「自分の会社の人脈を使わずにやる事が今回のプロボノなのに、自社の資産を使ってやっていて、それは違うんじゃないか」とおっしゃって。

 でも私は、その人の資産ですし使うほうが正しいのではないかと思っています。別のところで活躍することというのは、そういう事だと思うからです。転職も全部そうですよね。

 長年会ってない人に「久しぶり」って言えるのはスキルだと思うんですよね。年に1回も連絡しない人ってたくさんいると思うんですが、何かのきっかけでまた出会って、また仲良くなるわけですし。それはすごくソーシャルな考え方ですし、これからの時代ってそうだと思うんですよね。

ープロボノの意義がどこにあるか、ということですかね。

 その方の立場もあったのだと思いますし、でも、理解していただきたいのは「スタートアップってこんなもんだから」ということですね。「やって、改良、やって、改良」の繰り返しだからごめんね、という。

 おそらく、その方からすると製品もきちんと決まってないし、というのにモヤモヤされたんだと思います。いろんなリスクを感じられたのかと、ただ、100%できてやるというのではないですし、やはりスタートアップは50%作って、テストして80%にしていくという世界なので。

 そこの理解は難しかったのかもしれませんし、私も伝え方が上手くなかったなと反省しています。ただ、その方もお知り合いの教育関連の方を紹介してくださりました。非常に有難かったです。

人事担当者といじめについて激論

ー今回4人がプロボノで御社に参加されたかと思うのですが人脈の紹介以外にはどんなことをされたんですか?

 化学メーカーの方がいらっしゃたのですが、優秀な方でした。人事部の方だったのですが、研修をずっとされていましたし、人というものをすごく研究されていた方だったので、いじめについての議論をかなりさせて頂きました。

 いじめが大きくなっていく集団心理だとか、うちはセクハラやパワハラの検知システムもやっているので、セクハラやパワハラについても議論しました。感心させられたのは、話している中で私がぽろっとある事件の話をしたのですが、次回のミーティングまでに調べていらっしゃったことです。次のミーティングの時に「いや、私もあの事件もう1回読み直してみたんですけれど」とおっしゃって、素晴らしいなと思いました。

自分では気づかない価値

 あとは、教員研修用の資料のアップデートをして下さりました。研修の対象人数が多くなってしまったので、今までやっていた内容をブラッシュアップしたかったんですが、その方が相当手伝ってくれました(笑)

 本当にほとんど丸投げしてしまってその方もびっくりされていたと思うんですが、相当にいいものを作ってくださりました。その方の口からは決して「自分は資料が得意です」という話はなかったのですが、もう長年やっていらっしゃるから得意なんでしょうね。

 自分では気づいていないことでも、すごく良い価値だと思いました。

▲プロボノプログラムの初回セミナー時の会社紹介ブースの様子

 もう一人、女性の方がいらっしゃったのですが、その方はいじめにすごく興味を持ってくださりました。女性というのもあるのかもしれませんが、ハラスメントに対しても議論に積極的に参加してくださりました。意識も高い方で、4月から大学院にも通われているそうです。

 皆さんそれぞれ特徴に違いもありながら、ご自分のできる範囲の事をやってくれたので非常に良かったですし、私としてはは凄くありがたかったですね。

皆がやっていると「自分もやらなきゃ」となる

ー今回のプロボノに限らず、インターンなど外から社員以外の方に手伝ってもらう時に気をつけていらっしゃることはありますか?

 今回はコロナの影響もあったので、チームでの取り組みができなかったのですが、私はいつもプロボノの時には、絶対チームにしてやっています。それは、その方がやる気が出るから。皆がやっているし、「自分もやんなきゃ」となるからです。やっぱり横のつながりも大事だと思いますし、フォローしあったりもできますしね。

 うちとしても依頼したものが何か1個目標があれば良かったのですが、まるっとお願いしてしまったところもあったので。

ーその気づきは面白いですね。チームに向いているテーマの切り出し方と個人でやってもらう切り出し方は違うということですね。

 そうですね。今回、個人に関してはかなり密にはやらせていただいたので、それはすごぃお世話になりました。

 あと、皆さん暇だから今回参加されたのかなと思っていたんですが、そしたら本業もすごい忙しい方々ばかりでした(笑)本業も忙しい中で時間を使ってやってくれたのが本当に申し訳ないとともに感謝しかないです。

 私は1回繋がった方とは連絡したりするのが好きな人なので、今回のこの4人の方には今後もまた連絡したいなと思っています。全然知らないところの人達と出会えたので面白かったですね。

▲プロボノ活動の様子

「繋ぎ」で来ても良い

ー最後に、人生100年時代におけるキャリアについてお考えを伺ってもいいですか?

 経営者として考えているのは、例えばプロボノでその方がうちに関わる事でその人の価値が上がるって思って下さるのであれば、関わっていただくのは本当にウェルカムです。そこで絶対うちから離れないでほしい、というのもありませんし。

 実際、過去にインターンで広報をして下さった方は別のところに行きたくて、その繋ぎでうちに来られてたのですが、それでも全然良いと思っています。何かそこで私と関わっていることがその人に何かしらでもメリットになるのならどんどん使ってね、みたいな感じなんですよね。

 これからはその人ごとにいろんなステージをコロコロ変わっていくのは当たり前なんじゃないかなと思っています。今回のコロナ禍もそうなんですが、意外なことが起こるじゃないですか。

あれもこれもとやることがパラレルワークではない

 ただ1個、私が気を付けるべきだと思っているのが、あれもこれも何でもとやるのはパラレルワークじゃないよねとは思っています。あくまで、何か自分の軸があってのパラレルワークだと思います。

 パラレルワークとか副業とか言われたら何でもやるのではなくて、限りある時間の使い道は考えたほうが良いと思いますね。それがないとますますこれからは厳しいと思いますね。自分が何者かというものがないと。

 自分に対して相乗効果になるような事をやる必要があると思います。よっぽど趣味で好きであれば別ですが。忙しい人ほどそこを押さえてやっているから、差がついちゃいますよね、どんどん。

 今回のプロボノ参加の皆さんは、忙しい方ばかりでしたが、とにかく人がよかったですね。私に対する指摘も、嫌じゃない言い方をされるから上手だなと思いました。そこはやはり謙虚にという姿勢をお持ちだったのかもしれないですね。すごいいろんな方に出会えて良かったです。

ーじゃあ、また受け入れてくれるかな?

 いいとも!(笑)