昨今、新たな社会貢献の手段として注目を浴び始めている「プロボノ」。「プロボノ」はボランティアの一種でありながら、自らがこれまで培ったスキルや人脈を活かして企業やNPOを支援することで、スキルの棚卸しや社外での腕試しに繋がり、キャリア形成の側面でも効果があると注目されている取り組みです。
今回、エッセンス株式会社が提供するプロボノプログラムを受け入れていただいた株式会社エイチ 代表取締役社長の伏見 匡矩さんにお話を伺いました。(聞き手:エッセンス株式会社 島崎 由真)
1982年生まれ、早稲田大学政治経済学部卒業。2006年 P&Gマーケティング本部入社。シンガポールアジア本社に1年ほど出向。帰国しP&Gを退社、複数の会社を起業する。2013年に5社目の会社として株式会社エイチを設立、現在代表取締役社長を務める。
株式会社エイチは、全国1万8000のリモートワークに適したワークスペースと連携して、会議・説明会・イベント・セミナー・研修まで、さまざまな用途や目的に対応する出張ホテル・交通・ワークスペース・会議室・イベントスペースレンタルスペースなどをワンストップで一括手配・一括管理・一括精算ができるサービス、「叡知AI Assist」を運営しています。
例えば、野村不動産の時間貸しサテライト型シェアオフィスであるH¹T(エイチワンティー)や、各種会議室やレンタルスペース、大手ホテルのテレワーク応援プラン・ホテルのデイユース・各種会議室・コワーキングスペースなどをネットワーク化しています。
現在多くの方がテレワークになっていると思いますが、多くの会社さんが「もう家で働くのは疲れた」という従業員の方を抱えていらっしゃいます。一方で経営者の方は、「なぜ出社しないのにオフィスを置いたままなのか」ということでオフィスを削減していっています。
そこで、オフィスがなくなり家でも働けなくなった時に必然的にワークスペースが必要となり、その市場が伸びてきています。現在は大手さんが、ワークスタイリングやNewWORK(ニューーワーク)、ZXY(ジザイ)などのサービスを作っていっています。
現在、需要が多すぎて供給が足りていないという状況の中で、エイチのプラットフォームがあれば、1万8000の会場から家に近い会場を提案し、その場ですぐに予約できます。また請求はまとまって会社側にされ、管理者は誰がどこでいつ働いていたのか、どこに出張していたのかを管理することができます。また従業員は経費精算業務から解放され、社内の雑務がなくなるという仕組みです。
このようなプラットフォームとして、毎月何十社という大手の企業様に使っていただいています。
私は、1983年生まれの39歳です。大学を卒業してP&Gに入社してマーケティングを行っていました。シンガポールに出向し帰国してから何度か起業していまして、エイチは5社目です。
エイチを運営している目標として、「Googleを超えるサービスを作りたい」というのがあります。オフィス紹介くらいでGoogleを超えるのかと思われるかもしれませんが、このサービスはBtoB鋼材プラットフォームとして今後すごいことになると思っています。
当社のサービスは、大企業の方にご利用いただくサービスです。私は若い時からずっと起業をしており、大企業で働いていたのは外資系にいた4年間だけなので、ネットワークや文化はあまり分かっていません。
プロボノに参加いただいたメンバーは日本の大企業を経験しておられ、社内へのコネクションもお持ちです。
ですので、「その資産やネットワークをを活用させていただき、営業ネットワークを作っていきたい」「大企業の皆さんが、テレワークをどのような捉え方をされているのかを深堀りすることでユーザーのインサイトに近づきたい」と考え、そのための貴重な機会だと感じたためプロボノを受け入れることにしました。
他のプロボノを受け入れている企業のテーマというのは、「新規事業を考えてみませんか?」「会社概要を考えてみませんか?」というものが多いと思います。
想定していた通り、大企業という重要なターゲットで働く方たちが「テレワークに対してどんな向き合い方をしていて、どういう悩みを抱えていて、実際にどのように考えていて」という生の声を聞けたことが一番の成果でした。
二番目は、皆さんきちんとしていて、一つずつ資料を積み上げながら市場に対する回答をし、それを積み上げるという作業をしていただいた方もいらっしゃいました。
「すごいな」「やっぱり優秀な人はいるんだな」という印象を受けましたね。
当社としては、プロボノでの情報を元に、ピボットをして事業の展開を変えていきました。プロボノでの成果があったからこそ、上手くいったと思っています。
私自身が、初めに設定した目的は、「各社へのアプローチ」「各社の状況が知りたい」というもの、つまり一社一社へのインタビューだったわけです。ただ、プロボノに参加している方は、「チームとしてプレゼンに向けて成果物を作りたい」「ベンチャーと関わって新規事業を作ってみたい」という目的をお持ちです。そのすり合わせが難しかったですね。
かなり実務的なことを求めていたわけですが、「プロボノはそういうことではない」というご意見もありましたが、当社としては目の前にある実務を進めたいわけであり、経営リソースをプロボノメンバーの満足のために割き、実質的に意味のないプレゼンを作っても意味がありません。
その期待値のすり合わせを、オンラインで、メンバー5人対私1人で、1時間でするのは無理でした。そのため、裏で調整していただいた部分もあります。
ユーザーとしての生の声、事業に関わっていない人からの率直な意見、ヒアリングこそが事業を成長させると思っています。プロボノはそれが得られる大きな機会ですし、ボランティアで手伝っていただけるのはすごいことだと思います。
そのため、ぜひ手伝っていただきたいです。参加者の方にとっても、当社のような小さなベンチャーと関わることで、得られるものがあるのではと思っています。お互いに良いものが得られるのであれば、やる価値はあると思っています。
「大手企業で社内のヒアリングをしてもらう」「大手企業とのネットワークを作る」というポジショニングは新しく、今までにないものであり、ベンチャーは欲していると思います。
P&G時代、ユーザーの話を聞くために年間4~5000万円の予算を使っていました。ベンチャーも本当はユーザーの声が聞きたいのですが、なかなか大手企業にヒアリングの機会をいただくのは簡単ではないという現状があります。
それができるプロボノというのは、起業家にとって、とても魅力的だと思います。社内の人から聞く方が、本音が出てきますしね。
ただ、大手企業側からすれば情報を漏らせない部分と、ベンチャーとして情報がほしい部分の、バランス感覚は必要だと思います。