「プロティアン・キャリア」提唱企業が自らプロボノを受け入れ。嬉しかったのは大企業社員に「共感してもらえたこと」

 昨今、新たな社会貢献の手段として注目を浴び始めている「プロボノ」。「プロボノ」はボランティアの一種でありながら、自らがこれまで培ったスキルや人脈を活かして企業やNPOを支援することで、スキルの棚卸しや社外での腕試しに繋がり、キャリア形成の側面でも効果があると注目されている取り組みです。

 今回、エッセンス株式会社が提供するプロボノプログラムにてプロボノ活動者を受け入れていただいた4designs株式会社代表取締役社長CEOの有山 徹さんにお話を伺いました。(聞き手:エッセンス株式会社 島崎 由真)

有山 徹(ありやま とおる)
4designs株式会社 代表取締役社長CEO
一般社団法人プロティアン・キャリア協会 代表

2000年に早稲田大学卒業、大手メーカーに就職。6回の転職を経験しながら、経営企画に10数年携わる。2019年7月に経営コンサルティング、キャリア支援事業を行う4designs株式会社を設立。2020年3月共同代表の法政大学キャリアデザイン学部田中研之輔教授と一般社団法人プロティアン・キャリア協会を設立。2020年5月より「プロティアン・キャリア戦略塾」を立ち上げ、運営している。

組織内キャリアへの疑問から「プロティアン・キャリア」との出会いにつながった



-御社のご紹介をお願いします。

 4designs(フォーデザインズ)株式会社といいまして、2019年7月に設立しました。主にキャリア支援事業や法人向けの研修、組織開発のサービスを展開しています。

-特に「プロティアン・キャリア」に力を入れておられると伺いました。具体的にはどんな考え方なのでしょうか。

 「プロティアン・キャリア」は、1976年にアメリカ心理学者であるダグラス・ホール (Douglas T. Hall) が提唱したキャリア理論です。この理論に関して、法政大学キャリアデザイン学部の田中研之輔教授が2019年に「プロティアン(https://shop.nikkeibp.co.jp/front/commodity/0000/274840/ )」という本を出版されました。

 その理論のうち、特にキャリア資本論の考え方について人生100年時代・VUCA(ブーカ)の時代に合わせて実践的に使える形に進化させたものを、「現代版のプロティアン・キャリア」と呼んでいます。

 また、田中教授と共にプロティアン・キャリア協会を立ち上げました。協会では、今キャリアの大変革期にある日本において新しい考え方を広げていくことを目標に取り組んでいます。

-有山さんご自身の自己紹介をお願いします。

 有山 徹と申します。私は4designs株式会社代表取締役社長CEOを務める他、先ほどお伝えしたプロティアン・キャリア協会の共同代表をしています。

 キャリアとしては、大学を卒業してから事業会社の経営企画に10数年携わり、経営サイドから組織を見てきました。私自身は6回転職をしていまして、キャリアで悩んできた経験があります。

 そんな時、田中教授の「プロティアン」を読んで感銘を受けました。こういう考え方を広げれば、日本の組織内キャリアが当たり前だと思っている方々に、発想転換をして新しい挑戦や自身のアイデンティティの大切さにも気づいていただけるのではないかと感じたからです。田中教授に顧問を打診したことがきっかけとなり、現在のような形になっています。

 田中教授はソフトバンクアカデミアの一期生でもあり、ある意味教授らしくない、ビジネス・民間の視点、そしてキャリアだけでなく経営の観点も持っておられます。また、組織に関しても何冊も本を出されており、幅広い知見をお持ちです。

 プロティアンを広げるためには、キャリア充実と経営戦略は一体にしなければならない時代になってきています。そこで、私の今までの経験も活かしながら、田中教授がお持ちの知見を融合させてうまく伝えていきたいと思い、活動をしています。


プロティアン・キャリアを実践する手段の一つが「プロボノ」でした



-2021年2月~3月にプロボノチームを受け入れていただきましたが、受け入れを決められた理由、そしてプロボノに期待されたものを教えてください。

 まず、プロティアン・キャリア理論では、プロボノや越境活動として自身の組織ではない新しい環境下で仕事をすること自体が、キャリア開発に有効だと考えています。統計的にもそのようなデータはたくさんあります。

 「プロティアン・キャリアの考え方で、越境活動が有効ですよ」と法人研修等でもお伝えしていたので「私自身が実践しよう」と思ったのがプロボノ受け入れのきっかけです。

 プロティアン・キャリア理論は実践主義でもあるので、まずは自分たちでプロボノを受け入れ、機会提供をすることで、少しでもキャリア開発の一端を担いたいと考えました。

 そのため、他のプロボノを受け入れられている会社さんとは目的が少し違うと思います。プロボノを受け入れること自体が、当社が事業として行っていること、プロティアン・キャリアの考え方と一致しているので「キャリア開発に置いて越境は重要だ」という考えに共感し、共に広めていきたいと考えました。

ミッション「プロティアン・キャリアの認知度を高めよ」



-実際に取り組んでいただいたテーマについて教えてください。

 プロティアン・キャリアという組織と個人の関係性をより良くするというキャリア論を、より世の中に広げるためのマーケティングの支援というテーマでお願いしました。

-プロボノ活動者には、何を期待されましたか?

 大企業に対してどのようにプロティアン・キャリアを伝えていけばいいのかを考える際に、実際に大企業の中にいる方の生の声を聞くことは、マーケティングとして貴重な情報になります。

 大企業で働く方たちの考え方や知見、例えば「若い世代から見た50代はどうなのか」や「人事側の取り組み、研修などの能力開発のアプローチはどのように行われているのか」などを知り、それを打破する方法を実際に中にいる方と一緒に検討する、そのマーケティング活動を一緒にやってもらいたいというのが目的でした。

 プロボノで来ていただくのは、大企業の方々でした。大企業の方は、組織内キャリアのみで一社しかなく職務経歴書も書いたことがないという方がいらっしゃいます。

 新卒で優秀な方が大企業に入られることも多く、言い方はよくないかもしれませんが優秀な方を大企業で囲っている状態になっています。その優秀な方たちが組織内キャリアにとらわれて、本来は100ある能力の50、60くらいしか発揮できていないケースも現場を通じて感じている現状があります。

 優秀であるにもかかわらず、年功序列によって挑戦機会が提供されず、能力開発ができない方もいらっしゃる印象を受けました。



嬉しかったのは「共感してもらえたこと」



-初めてチームで集まった時の第一印象を教えてください。

 もう少し年配の人が来るかなと思っていたのですが、思ったより若手というか30代の方が多くいらっしゃいました。

 ほぼ30代と40代1名・50代1名でした。お話を聞いてみると、皆さんしっかりされており、きちんと求めたことは返してくれるなという印象でした。

-若いメンバー中心に進めていただいたということですが、受け入れてよかったことはありますか。

 受け入れて良かった点は、3つあります。

 まずは、プロティアン・キャリアの考え方を大企業からの参加者の方に、共感いただけたことです。プロティアン・キャリアの考え方が初めてという方もいらっしゃいました。共感いただき広げたいですと言ってもらえたことが一番うれしかった点であり良かった点です。

 最初にプロティアン・キャリアの考え方が受け入れてもらえないとその先は難しいですよね。共感いただき、皆さんが働きかけていただけたのは嬉しかったです。求めたことをきちんとしていただきつつ、想定していた以上の動きをしていただけたこともあったので、当初の期待値を上回りました。

 2点目は、今回の活動の中で皆さんからいただいた情報で、私自身が今の大企業の実態、そして大企業の中でどのようなキャリアに対する認識を持ち、どのような取り組みをしているのかというマーケティングの情報を得られたことです。

 3点目は、今回のプロボノの内容を継続して活動したいという方が複数名いらっしゃったことです。引き続き活動をさせていただいており、1年以上経過した今も「越境キャリアカフェバー」という活動が継続されています。

楽しむことは大切!ただ、本業とのバランスが難しい



-途中、田中教授も登場されたと聞いています。参加者にとってはテンションが上がる出来事だったようですね。

 びっくりさせようと思い、あえて黙っていて登場していただきました。募集の時もお話したのですが、仕事は楽しくやりたいというのが私の根本にあります。はじめにゲームで性格診断を行うなど、楽しくできたと思います。

 チーム作り・場づくりに関しては、私自身も積極的に取り組みました。そのあたりは、チームのパフォーマンスに必要なことだと考えています。




-受け入れで苦労された点はありますか?

 依頼した内容に対して、本業の業務が忙しくできませんでしたということはありました。これは、仕方ない部分かもしれません。本業と副業のアウトプットへの成果のこだわりとなれば、当たり前ですが本業の方がきちんとやらないといけないモチベーション・使命感はありますよね。

 当社では、当社のメンバー2名と受け入れたメンバー8名の10名の中でチームを分け、チームごとに考えましょうという形をとりました。そうした時に、あまり積極的ではない人が集まってしまったチームもあり、チーム間のアウトプットのバラツキがでてしまいました。短期間なので、そのあたりが分からないという難しさがありました。


プロボノを当たり前の選択肢に



-今後もプロボノの受け入れを継続されたいと思いますか?

 基本は継続したいですね。今回やろうと思った目的として、キャリア開発において越境は意味があるということを広めたいというのがありました。その目的は引き続きあります。

 そして、大企業の方に広げたいという観点でいうと、実際に大企業に属している方の観点や考え方、知見は重要だと考えています。そのためにも、引き続き継続したいです。

-プロボノについて、今後の可能性・期待も込めてどう思われているかを教えてください。

 繰り返しになりますが、プロボノが当たり前の選択肢としてあるべきだと思っています。これまでのキャリア開発では、「今の会社ではやりたいことができないから」「上司とうまくいかないから」という理由で、すぐに転職となっていたと思います。

 そうではなく、100年時代に長い観点でキャリア開発を考えた時に、キャリアの選択肢としてプロボノや副業が当たり前に考えることは、プロティアン・キャリアの考え方としてもうたっていることです。

 転職するといきなり違う環境になるというリスクがあります。プロボノや副業は、そのリスクをヘッジしつつ、新しい環境に入り、自分のアイデンティティや新しい自分を見つけ、自己認識力を高める手段です。これはとても大切なことなので、プロボノは広げていきたい。広まってほしいと思っています。