【未来を創る人事のリレートーク】第2回「変革を支える、人事の戦略的思考」後編

エッセンス株式会社では、「未来を創る人事のリレートーク」を新たにスタートしました。毎回、多彩なゲストをお迎えし、それぞれのご経験や想いを語っていただくとともに、次回のゲストをご紹介いただくリレー形式で進行します。つながりを広げながら、共に豊かな未来を描いていく対話の場として育ててまいります。
(写真左より:飯田氏、蓜島氏)

リレートーク第2回目は、飯田 浩二氏(東急株式会社 人材戦略室人事企画グループ参事)をゲストにお迎えし、「変革を支える、人事の戦略的思考」をテーマにお話しいただきました。前編では、飯田氏のこれまでのキャリアや社内変革の実体験についてご紹介しています(前編記事はこちら)。後編ではさらに踏み込んだ議論が展開され、より本質的な話題に迫っています。ぜひご一読ください!

▼ゲスト
 飯田 浩二(いいだ こうじ)氏 東急株式会社 人材戦略室 人事企画グループ 参事
▼ファシリテーター
 蓜島 資幸(はいじま もとゆき)氏 PowerXus株式会社 代表取締役
 ※詳細プロフィールは、
前編記事をご覧ください。

戦略から考える重要性

蓜島さん(以下、蓜島) 今年ご転職されたそうですが、現在はどのような役割を担っていらっしゃるのでしょうか?

飯田さん(以下、飯田) 現職では、事業戦略と人事戦略をつなぐ役割を担っています。人事戦略に一貫性と全体観を持たせ、理念の浸透やエンゲージメントの向上につなげていくことが求められています。これまで、組織全体のつながりを捉える経験を幅広く積んできたことが、この役割における強みだと考えています。また、組織内の課題を見極め、整理していくことも、自分に求められている役割の一つです。

蓜島 飯田さんのように全体のつながりを捉えられるようになるには、人事の仕事を幅広く理解する必要があると思います。それを身につけるためには、どのような経験が求められるのでしょうか?

飯田 人事の仕事を広く理解するには、いくつかの仕事を部分的に経験するだけでは不十分です。例えば、採用や育成の一部だけを経験しても、その仕事がなんとなくわかる程度にとどまります。大事なのは、いずれかの分野を、できれば複数、最初から最後までしっかり経験し、深く関わることです。そうして初めて、各分野がどうつながっているか理解でき、人事全体を広く理解できるようになります。部分的な経験だけで専門家になっても、全体は見えにくいと思います。

蓜島 今日お話を伺って改めて、「戦略から考えること」の重要性を感じました。でも、戦略から考える経験をしたことがない人は多いですよね。

飯田 多くの人は、戦略を具体的な行動に落とし込む経験が少ないため、その戦略自体の理解が十分でない場合が多いと思います。それを経験することもそうですが、制度や仕組みができあがっていく様子を間近で見る機会自体が、そもそも少ないと思うんです。そうした経験を語ってくれる人もあまりいません。

こうした背景から、現職では人事部門の管理職を巻き込みながら事業戦略と人事戦略をつなぐプロジェクトを進めています。まず、事業戦略や組織の価値観を深く理解したうえで、人材の「採用・育成・評価・報酬・職場環境づくり」といった要素を、いかに一貫性のある形で設計するかを重視しています。その過程で、各管理職に自部門の課題や方針、背景、現状、目標を書き出してもらい、それを数名単位で丁寧に共有。こうした対話を積み重ね、人事がチームとして機能し、誇りとやりがいが持てると思っています。
(写真:飯田氏)
蓜島 一方的に決めるのではなく、現場と対話しながら進めたのですね。

飯田 自分だけで考えて決めるのではなく、その過程を皆さんに見せたり相談したりしながら進めることで、周りの人たちに「こうやって形になっていくんだ」と実感してもらいたかったんです。一方で一貫性を持たせるために、管理職にまとめてもらった内容から加筆や解釈を加えて再構成した一枚ものの資料を作りました。各管理職にその背景を説明し、「現場の認識と合っていますか?」と確認していっています。背後には戦略との整合を意識した考えがあります。ここで違う意見が出ることが対話では重要だと思っています。

戦略の理想と運用の現実にはギャップがあります。例えば、戦略としてはローテーションを活用し、変化に強いゼネラリストを育てたいと考えながらも、採用現場では働く価値観が変化しており、会社にキャリアを委ねる人は少なくなっているため採用は難しくなっています。採用現場からすれば戦略は理想論に過ぎないと感じると思います。しかし、採用現場では組織全体の一貫性を保ちながら、ゼネラリスト育成を基本としつつ、新卒の一部に初期配属を確約するコースを設けるということが行われています。また、中途採用では専門人材を中心に採用をすることで組織能力としての専門性を強化する方向で対応をしています。これは暗黙知的に戦略をベースとしながら現実解を見出していると私には見えます。

このように言葉になっていないだけで既に戦略の遂行がしっかりと行われていることが多々あります。大事なのは戦略を言語化しておくことで対話ができ、認識が深まります。そして次の変革を意識的に起こすときに全体感を見ながら何を何故変えるべきか、チームとして認識しやすくなると考えています。そうなれば変革実感を共有することができるはずです。

蓜島 ローテーションだけで専門性を身につけるのは難しいですよね。高い専門性を持つ人材を採用せざるを得ないですね。

飯田 人事ではさまざまな取り組みが行われており、実際に成果も出ています。しっかり考えながら前に進める姿勢は、大変素晴らしいと感じています。特に現職の人事部門は課題認識と打ち手がスピーディーに展開され、その実行力が非常に高く驚きました。しかし一方で、自分たちの取組に自信が持てなかったり、頑張りすぎて疲れてしまったりする人事担当者もいると思います。だからこそ、自分たちの仕事が「何につながっているのか」を理解し、納得できることがとても大切です。「これがあるから頑張れる」と思える共通の軸があれば、一人ひとりの力が活かされ、組織として同じ方向に進むことができます。

そしてこの共通の軸こそが、戦略だと私は考えています。戦略とは、単にトップが描く方針ではなく、現場の人事一人ひとりが「自分の仕事はこの目的につながっている」と実感できる「道しるべ」のようなものです。そうした納得感があるからこそ、人事の仕事にやりがいが生まれ、無理をせず持続的に力を発揮できるのだと思います。人事部門の力をさらに高めることは、組織全体の力にもつながり、従業員の幸せにもつながると考えています。だからこそ、そのための仕組みづくりは、現場の人事自身のためにあるべきだと私は思います。
(写真:蓜島氏)
蓜島 ただ、バックオフィスの皆さんの自己肯定感を高めるのは、職務の特性上、難しい印象があります。

飯田 もちろん全員に効果があるわけではありませんが、徐々により多くのメンバーが共感できるものに戦略を育てたいです。自己肯定感や職場の雰囲気はエンゲージメント調査のデータを活用して問題点を把握し、現場で改善を進めることで、一定の解決にはつながると思います。

越境研修の価値

蓜島 なるほど。こうした課題に対しては、視野や役割認識を広げるような機会を設けることも有効ですよね。このリレートークを主催するエッセンス株式会社では、そのような学びの場として、「他社留学」と「プロボノ」という越境研修プログラム(下記リンク参照)を運営しています。飯田さんは、越境研修の最大の価値は通常の社内研修と比べてどこにあるとお考えですか?

 ▶関連リンク:他社留学の詳細はこちら/プロボノの詳細はこちら

飯田 人が「開花する」瞬間があることです。目の色が変わったり、そこから人生が大きく変わったりするきっかけが生まれることだと思います。

蓜島 そういったことは、社内研修ではなかなか起こりにくいのでしょうか?

飯田 社内だけでは、大きな変化や「開花」が起きることは、あまり期待できないと思います。もちろん起きる可能性はゼロではありませんが、それが起きる可能性が高いのは、社外の環境だと考えています。

蓜島 やはり社外で受ける刺激や新しい経験、学びが、人の「開花」につながる可能性が高いのですね。

飯田 そう思います。離職率が低い会社には、現状に漠然とした不安や葛藤を抱えながらも、高い能力を持つ社員がとどまっていることがあります。彼らの中には、内に秘めた情熱ややる気がありながら、それを発揮する機会や環境がないために、力を持て余している人も少なくありません。従来であれば、そうした状況を打破する手段は「転職」や「起業」に限られていました。しかし最近では、「越境」という新たな選択肢がすでに広がり始めています。退職せずに外部の新しい環境で刺激を受けながら、自分を成長させていけるという点で、越境には大きな意味と意義があります。これは、個人にとっても、会社にとっても、大きなメリットをもたらす可能性があると考えています。

蓜島 辞めずに一度外に出て、自社を客観的に見つめ直すことで、改めて「自社でもこうした成長や変化が可能だ」という気づきが得られて、モチベーションが再び高まることもありますよね。

飯田 そうですね。ただ、社内起業支援など社員の成長や新しいことに挑戦するための仕組みが整っている企業よりは、成長のための制度やプログラムがまだ十分でない会社の方が越境研修の効果は大きいと感じます。新たな刺激や視野の広がりが、社員の成長を促し、組織全体の活性化にもつながると考えています。
(写真:飯田氏)

日本企業の強みを活かす新時代の働き方

蓜島 今後、人事としてどのようなことを目指していきたいですか?

飯田 転職活動をする中で、「自分はどうなりたいのか」を改めて考えました。日本企業の良さや日本独自の文化には多くの素晴らしい側面があると感じています。一方で、ニュースではネガティブな話題が目立つことも事実です。人事の分野においても、ジョブ型雇用など新しい働き方が話題となっていますが、それが必ずしも正解とは思えず、簡単に受け入れられない部分もあります。こうした状況の中で、自分なりの考えを深め、日本らしい人事として、1つの解を出していきたいと考えています。

海外の考え方をそのまま取り入れると、会社や仲間は「個人同士のつながり」になることが多いと感じます。そうなると、会社自体がなくてもあまり変わらない気がします。でも、私は会社が「ホームタウン」のような居場所であり続けることが大切だと感じています。会社が次々と変わってなくなるよりも、安心できる場所があった方がいいですよね。ジョブ型の話もよく耳にしますが、グローバルには確かに様々な先進的な事例があり、それが合う場面もあります。でも、個人的には、もうその先の新しい時代に入っているのではないかと感じています。

蓜島 その先の新しい時代とは?

飯田 AIの急速な進化により、仕事のやり方は大きく変わろうとしています。変化の激しい今の時代では、「ジョブ(職務)」そのものも常に変わっていくため、ジョブ型に一度振り切ることにはあまり意味がないと感じています。これからは、「目的」と「スキル」が明確であれば、必要な人が集まり、柔軟にチームを編成する働き方が可能になるはずです。スキルを持つ人が集まって協働することで、ジョブ型の枠にとらわれない、より効果的なチームが実現できると考えています。

だからこそ、ジョブ型に固執するのではなく、メンバーシップ型の良さも取り入れながら、新しい働き方を模索していくことが、これからの大きな課題です。こうした形が実現すれば、日本企業の強みや、日本ならではの働き方がより一層活かされていくのではないかと期待しています。

蓜島 誰かがジョブリストを作る、というやり方はやめた方がいいのかもしれませんね。結局、その人の発想を超えることはできませんから。

飯田 グローバル企業は、今のジョブリスト型の仕組みでうまく回っているため、無理に変える必要はないと思います。ただ、日本企業がそれを無理に真似する必要はありません。日本企業の課題を補う動きとしてジョブ型が注目されていることは理解できますが、ただ流れに乗るだけでは意味がありません。特に、グローバルな視点を持ちつつも地域に根ざした企業はすべてがグローバルである企業とは性質がまったく違うのですから、同じ方法が合うとは限りません。だからこそ、日本企業ならではの強みを活かしつつ、自社に合ったやり方を模索することが大切だと感じています。
(写真:蓜島氏)

価値観に寄り添い未来を描く

蓜島 お話を聞いていて、上司によるキャリア面談の話が思い浮かびました。異動権限のない上司が「何をやりたいか」「どんなポジションを希望するか」を聞くことが、実はコミュニケーションを悪化させることがあります。例えば営業職の場合、将来「営業企画をやりたい」と言っても、異動権限がない上司は「推薦してあげる」と約束できません。結局「頑張れ」としか言えず、部下は「この人に相談しても意味がない」と感じてしまい、かえってモチベーションが下がることもあります。

だから、キャリア面談では、不確実な「やりたいこと」や「希望するポジション」ばかりを聞くのではなく、まず「今持っている能力」や「これから身につけたい能力」に焦点を当てて話をする方が効果的です。ポジションの話よりも、「どんな能力を身につけて、何ができるようになるか」という視点から会話を進めると、自然といくつかの可能性のあるポジションが見えてくるんですよね。

飯田 変化が激しい今だからこそ、ポジションではなく「能力」や「成長」に焦点を当てたキャリア支援が重要です。蓜島さんのお話を聞いていて、私も似たようなことが思い浮かびました。私は部下に対して「どうなりたいの?」という問いをよく投げかけます。その際、「なぜそう思ったのか?」という背景を掘り下げることも大切にしています。少し先の未来を一緒に描きながら、その根底にある「価値観」を引き出していくのです。すると、学生時代や子どもの頃の原体験につながっていることも多く、「だから自分はこういう方向を目指したいんだ」と気づくことができます。そうした大きな方向性を共に見つけたうえで、次に「では今、どんな能力を伸ばしていけばよいか」という話へとつなげていきます。

ちょうど最近、2年目のメンバーとそんな話をしました。出向者懇親会や退職者懇親会などのイベントは、一つひとつを見ると違うように感じますが、実はスキームは同じです。「場所を確保して」「人を集めて」「内容を考える」という流れが共通しています。このスキームは研修にもそのまま応用できるんです。だから、そのメンバーが将来「地元や街に貢献したい」と言ったときも、このスキームを使えばさまざまな活動に広げられると伝えました。また、エンゲージメントにも一緒に取り組んでいるので、これから分析や組織開発の視点で学んでいく経験は、どんな現場でも活かせるだろうという話をしました。

蓜島 価値観を大切にしながら、共に成長の道筋を探る姿勢はとても重要ですし、経験をさまざまな場面で活かそうとする考え方も大切だと思います。では、最後の質問です。新しいチャレンジを進める中で試行錯誤したり、刺激が欲しいと感じたりすることもあると思います。今後、どのような人事の方々と交流したいと考えていますか?

飯田 日本企業の良さを深く見つめ直そうとしている人事の方です。もう一つは、ジョブ型のその先、「古き良き価値観」と「新しい価値観」をどう融合させるかを一緒に考えられる方です。その鍵の一つが、AIだと感じています。これからAIの活用が進んでいく中で、私たちは一人ひとりが「自分はどうありたいか」を問われるようになると思うんです。人事としても、業務の改善はもちろんですが、それ以上に大切なのは、変化にスピード感を持って対応できること、そして自ら仕組みを変えていける力を持つことだと思っています。日本らしさを大切にしながらも、AIのような新しい視点を柔軟に取り入れられる。そんな人と、一緒に未来の人事を考えていきたいですね。共感してくださる方がいれば、ぜひ一緒に未来について語り合いましょう!

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