事例紹介

京王電鉄株式会社×株式会社LIFULLの導入事例

「地域価値を上げる手法を学ぶとともに、ユーザーとの対話を通じてまちづくりの先にある“人”に立ち返って考えることができた」(職種:不動産開発 留学頻度:週1日、留学時:新卒入社13年目)

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目的
地域価値を上げる手法を学ぶことで、今後の沿線でのまちづくりに活かす
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背景
沿線価値を向上させていくために、実際に魅力的なまちづくりを行っている地域に滞在しながら、知見を得る必要があった
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効果
・まちづくりの経験・知見を積むことができた
・まちづくりの先にあるユーザー(住民、来街者等)の満足度について理解を深めることができた

他社留学を終えて元の職場に戻った「卒業生」にインタビュー。留学前、留学中、留学後の想い、そして「留学後に何が変わったか」について、体験談を語っていただきます。

今回お話を伺ったのは、京王電鉄株式会社。他社留学を経験したのは、開発企画部の田中さんです。留学先は日本最大級の不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)」でお馴染みの株式会社LIFULLが運営するLivingAnywhere Commons(https://livinganywherecommons.com/)。留学中は、埼玉県秩父郡横瀬町にあるコミュニティ型コワーキング施設「LivingAnywhere Commons横瀬(以下、LAC横瀬)」の運営に携わりました。

所属 京王電鉄株式会社
留学先 株式会社LIFULL
他社留学期間 週1日/3ヶ月間(2022年12月~2023年3月)
留学した人 開発事業本部 開発企画部 田中 寛人さん(留学時:新卒入社13年目)
送り出した人 開発事業本部 開発企画部長 長谷川 和憲さん(留学時)

まちづくりに活かす学びを得るために

――まず初めに、他社留学に参加した背景をお聞かせください。
田中さん(以下、田中) これまで他社留学に参加した社員からも他社留学のことは聞いており、機会があればチャレンジしてみたいと思っていたのですが、タイミング良く社内で新規の他社留学希望者について公募があったため、迷わず応募しました。私は入社以来、不動産部門に従事してきたのですが、経営計画策定や計数管理といったバックオフィス系の業務経験が長く、もっと現場に近いところでまちづくりを体感したいという想いがありました。
また、当社は中期3カ年経営計画(2022~2024年度)において、「豊かで魅力的な“まちづくり”への主体的な関与」を掲げていますが、まだまだ会社としても個人としてもノウハウが足りていないと感じていました。そのため、私自身が社外に出て最前線を経験することでノウハウを獲得し、それを社内に持ち帰りたいと考えていました。参加前は楽しみな気持ちと不安な気持ちがありましたが、参加が決まったからには頑張りたいと思っていました。
――他社留学にはどんなことを期待して参加しましたか?
田中 当社は鉄道会社なので、地域とは切っても切れない関係にありますし、地域の価値が上がることは当社にとってもメリットになります。一方で、行政、地元企業、住民など外部の方々との共創という面では、まだまだ足りていない部分があると感じています。そこで、今回の他社留学で、地域価値を向上させるための取り組みを学ぶことで、今後の当社のまちづくりに活かしていきたいと考えていました。

充実した3ヶ月間

――今回田中さんが運営に携わった「LivingAnywhere Commons横瀬」とはどんな施設なのですか?
田中 「LivingAnywhere Commons」とは、自宅やオフィス等、場所に縛られないライフスタイル「LivingAnywhere」を実践することを目的としたコミュニティです。コミュニティメンバー(会員)になることで、全国に約50か所(2023年5月時点)あるLAC拠点 を「共有して所有」し、全国の拠点を好きな時に利用することができます。LAC横瀬は、埼玉県秩父郡横瀬町にある宿泊機能を持ったコミュニティ型コリビング施設なのですが、コワーキングスペース、シェアキッチン、イベントスペースなども備えている「まちの中心拠点」です。LACのユーザーだけでなく、町民や町外からくる企業の方など多種多様な人々が集まることで、様々な出会いと交流が生まれる場所になっています。

LivingAnywhere Commons 横瀬(https://livinganywherecommons.com/base/yokoze/

――留学中は具体的にどのようなことをしたのでしょうか?
田中 前半は横瀬町の地域価値向上の取り組みを学びながら、留学先のコミュニティマネージャーに紹介していただき、とにかく色々な方の話を聞くことで、ユーザーの状況やニーズの把握に努めました。後半はそれを元に、将来的に会社にどう還元していくかを考えつつ、LACユーザー向けのオンラインイベントを仕掛けたり、今後に向けてできることを常に自問自答しながら過ごしました。オンラインイベントについては、LAC横瀬のユーザーの方も参加してくださり、やって良かったと思える経験でした。
――3ヶ月間を振り返っていかがでしたか?
田中 多くのものを得ることができたので、参加できて本当に良かったです。頻度としては週1回という限られた時間ではありましたが、未知の環境に身を置くのは刺激がありましたし、自己成長に繋がる経験が得られました。
LAC横瀬は情報量が多い拠点で、3ヶ月間でも色々動きがありました。ある程度長いタームで、かつ間近で動きを感じられたのが良かったですね。1回施設を見学するだけでは「すごいですね」という感想で終わってしまうと思うので、一定期間留学しないとわからないことがあると感じました。今回は3ヶ月あったので施設やまちの素晴らしい点だけではなく、直面している課題も徐々に見えてきて、地域がそれに対してどのように対処しているのかを体感させていただきながら、今後当社の事業に置き換えてどう応用していくか、など踏み込んで考えることができたのが良かったです。
――留学期間がある程度あることが大事だと感じたのですね。
田中 そうですね、1回の見学では表面的なことしか理解できないと思いますし、HPを見るのと然程変わらないと思います。ユーザーとゆっくり話すことはできないですし、施設を案内してもらって終わりになってしまいますが、実際利用してどうですか?とゆっくりインタビューさせてもらうことができたのは3ヶ月間あったからだと思うので、ある程度の留学期間は必要だと感じました。
――留学前と後でギャップはありましたか?
田中 LAC横瀬はユーザーの自主性が重んじられた施設ということもあり、思った以上に「自分のことは自分で決める」という環境でした。会社に所属していると、自分の仕事はある程度誰かが決めてくれたりしますし、仕事においても細かな決まりがあると思いますが、横瀬はユーザーが思い思いに過ごされているのが印象的でした。ただ、ユーザーを放置するのではなく、コミュニティマネージャーが人と人を繋げたり、困っている人に話を聞いたりしてサポート役にまわることで、ユーザーにとって居心地の良い環境をつくっていました。自分もコミュニティマネージャーの視点を学ぶため、LACユーザーにインタビューをさせていただき、どんな人がLACに魅力を感じ、どのように利用しているのか、掘り下げていきました。

他社留学を通しての気づき・学び

――他社留学を通してどんな気づき・学びがありましたか?
田中 今回は、多くのユーザーにインタビューしていく中で、多様な価値観に触れることができたと思います。ユーザーは普段は都心に住んでいるフリーランスの方、横瀬に移住してきた方、全国を旅している方など本当に色々な方がおり、会社で仕事をしていると働いていない人と話ができたことは非常に刺激になりました。
LACのユーザーの方は多拠点居住をしながら自分の幸せであったり、人生をどうしていきたいかについて向き合っている方が多く、皆さんと話す中で自分の仕事や会社の事業について改めて考える機会になりました。事業の目的は短期的に見れば利益を上げるためですが、長期的にはどういうことをミッションとしてやっていくべきなのか、原点回帰して自分なりに考えられたのが良かったです。
(LAC横瀬 情報交換スペース)
――多様な価値観に触れて自分や自組織を見つめ直す機会になったのですね。
田中 私は組織に所属しているので、組織のミッションに基づいてやるべきことがあります。自分で主体的にゴールは設定しますが、あくまでベースは組織のミッションです。しかし、フリーランスの方は自分で夢を見つけてそれを達成するために頑張っていました。年々フリーランスの方は増えていて、ジョブ型を採用される企業も増えています。私はこれまでフリーランスの方とフェースtoフェースで話をする機会が少なかったので、今回どんなことを考えているかを聞けたこと自体が新鮮なことでしたし、組織に所属しないがゆえの不安についても共有してただけたことが参考になりました。
また、印象的だったのは大企業をアーリーリタイアして全国を旅して回っている方とお話したことです。その方が「こういう暮らしをしているからこそ企業勤めをしているときよりも今の時間を効果的に使えているかを意識しないといけない。ただ遊んでいるように見えるかもしれないけれど、今の時間を有効に使えているかを常に自分自身に問うている」とおっしゃっていたんですね。自分自身を振り返った時に、普段からこういう意識でいられているだろうかと反省させられると同時に、自分自身へのタスクの課し方の部分で勉強になりました。
――今まで話したことがないような方とも話ができて学びに繋がったのですね。
田中 そうですね、今回の留学を通して、どういう方が利用しているのかユーザーの顔が想像できるようになりました。「まちづくり」「コミュニティ」といった言葉はよく耳にすると思うのですが、これまでなんとなくユーザーの顔が考えられていなかったんですね。沿線のまちづくりをするにしても各自治体や電鉄会社がユーザーを増やそうとすると、パイの取り合いのようになってしまって「社会全体で見たら私のやっていることは意味があるのか?」と迷う気持ちがありました。しかし、今回の経験を通じてユーザーの顔が見えるようになって、その場所で過ごす一人一人の幸せを願ってまちづくりをしていくことがイメージできるようになったので、自分のやっていることは無駄ではないと思えるようになりました。
――直接ユーザーインタビューができたからこその学びということですね。
田中 「まちづくり」という単語からはどうしても高層ビルであったり、大きなスケールで物事を考えがちですが、住民であったり来街者であったり、色々な「個人」がいるからこそ街が成り立っているのだと思います。なので、沿線のまちづくりにおいても「この事業は誰のためにやっていて、誰を幸せにできるのか」と常に問いながら進めていくことが重要だと気づかされました。こういったことは頭でわかっていても忘れがちですよね。どちらかというと短期的な事業の収支に目がいきがちですが、改めてユーザーを意識しながら事業を進めることが何より大事なことだと思いました。
鉄道をはじめとする当社のサービスをご利用いただいているのは、ビジネスパーソン、学生、子ども、ご老人など幅広い属性・年代の方々です。どんな立場の方であっても生きやすい、暮らしやすいサービスを作るのが我々の役目だと思っていますので、今後のまちづくりに活かしていきたいです。
――ユーザー理解以外でも他に何か気づき・学びはありましたか?
田中 そうですね、場づくりにおいてはもちろん場所が必要なのですが、一番重要なのは、“コンセプト”や“文脈”なのだとわかりました。場所があって人が集まるだけではコミュニケーションは起こらないんですね。でも「ここはこういうコンセプトで作られた場所で、こんな文脈があるんですよ」と伝えた上でハブとなるイベントや繋ぎ役がいれば、コミュニケーションが活性化するんです。コンセプト次第で集まるユーザーも変わってきますので、そこは妥協してはいけない重要なポイントだとわかりました。

留学後の変化と今後に向けての想い

――留学後、実施したこと、現在進めていることなどはありますか?
田中 留学から戻って社内報告会を実施しました。今後私がやりたいことを実現するには仲間を作ることが大事だと思ったので、熱が冷めないうちに留学先で感じた課題意識を社内に共有することで議論できる仲間作りを進めています。また、仲間と一緒に進めていくにあたって、私自身が今後不動産業務やまちづくりにおいて大切にしたい自分の「軸」となる考え方を整理する必要があると感じたので、取り組んでいるところです。
――今後に向けて考えていることはありますか?
田中 今回の留学先が素敵な事業で、素敵な拠点を運営されていると感じたので、私自身もそのようなコミュニティを作っていきたいと思いました。ただ、留学先とは組織が異なりますし、東京と郊外という点も異なりますので同じことはできません。当社にマッチしたやり方を考える必要があります。そのため、社内や沿線関係者、施設運営をしていただいている事業者などと一緒に京王線の「場づくりの在り方」や「今後の方向性」について議論できるようにしていきたいです。今はまだ関係者全員が明確に同じ方向を向いていると言える状態ではありません。どんな結果になるかわかりませんが、まずは議論をする土台から作ってみたいと思っています。数ヵ月で終わるようなことではありませんので、色々な人を巻き込みながら長期的に取り組んでいくつもりです。
<留学先からのコメント> ~LAC横瀬 コミュニティマネージャー 大野様・新堀様より~
今回の他社留学で田中さんには、当コミュニティから感じ取って学んでいただいたことを自社に持ち帰っていただくために、自治体との取り組み、行政との接点などたくさんの取材の機会、環境を作らせていただきました。週1ペースでしたが、積極的かつ周囲も巻き込み、様々な方々と大変上手にコミュニケーションを取りながら進めておられました。
何か決められたタスクに取り組んでもらうということではなく、ご自身で模索しながらの3ヶ月でやりにくいこともあったかもしれませんが、非常に能動的に動かれていました。また、非常に研究熱心に表層的な部分から更に事象を掘り下げて、なぜこういうカルチャーが産まれているのかなどを考察していただき、最終的にはそれらの考察をもとにしたディスカッションもさせていただけたことは今後の施設運営にも活かせる示唆もあり大変有意義でした。
留学期間がもっと長ければ、研究していただいた考察を元に何らかの取り組みまでリードしていただきたかったのでその点は残念ですが、限られた時間の中で柔軟に対応しながらご尽力いただけたことに感謝申し上げます。3ヶ月間、本当にありがとうございました。
会社名 京王電鉄株式会社
業種  鉄道事業、土地・建物の賃貸業・販売業など
URL https://www.keio.co.jp/