プロボノ×地方の農業 都会のアイデアは、販路拡大のヒントとなったのか!?

 昨今、新たな社会貢献の手段として注目を浴び始めている「プロボノ」
「プロボノ」はボランティアの一種でありながら、自らがこれまで培ったスキルや人脈を活かして企業やNPOを支援することで、スキルの棚卸しや社外での腕試しに繋がり、キャリア形成の側面でも効果があると注目されている取り組みです。

今回、エッセンス株式会社が提供するプロボノプログラムを受け入れていただいた奄美サンファームの戸田 敏博さんにお話を伺いました。(聞き手:エッセンス株式会社 島崎 由真)

戸田 敏博(とだ としひろ)
奄美サンファーム CEO

7年前より弟が奄美大島で果樹園を買い取り農家に転身。奄美サンファームでタンカンを中心に生産し始めたことを機に、東京を拠点に販売を担っている。

奄美大島の標高の高い立地で、糖度の高いタンカンを栽培しています

ー奄美サンファームさんの紹介をお願いします。

 奄美サンファームは、奄美大島でタンカンというフルーツを栽培しています。特徴は、奄美大島の中でも標高400メートルくらいの山の頂で作っている点です。平地とは温度差が2.5℃くらいあるのですが、この温度差によって奄美の低地の果樹園よりも収穫時期が2~3週間程遅くなります。一番の違いは、標高が高いことで昼夜の寒暖差が大きくなるため、糖度が上がりやすい点です。他のリンゴなどの果物でも、寒暖差がある方が糖度は高くなるという特性があります。奄美サンファームで栽培しているタンカンの糖度は14~15度あります。低地での生産ではなかなかこの糖度までは上がらないと思います。意図してこの栽培条件を選んだわけではないのですが、偶然手に入れた産物として、他の果樹園さんと差別化するための有利な条件となっています。

東京で、弟が栽培するタンカンの販路開拓を行っています

ー戸田さんの自己紹介をお願いします。

 私は鹿児島の大学に受かったのですが第一志望でなかったため中退し、翌年再受験をしました。それがうまくいかず、父親が亡くなったので大学をあきらめてアルバイトをしていました。アルバイトしながらも、自分がやりたいことの方針が固まらず将来何をしたいのかと考えていました。20代から40代までそんなことが続きました。その頃“モラトリアム世代”という言葉が流行しましたが自分がまさにそうだったなと思います。40代後半になってようやく、自分でアイデアを見つけてそれを活かせる仕事が向いているのではないかと思いいろいろチャレンジしてきました。今から7年前にたまたま弟が農業をやりたいとうことで、後継者がおらず売りに出ていた果樹園を買い取り、奄美サンファームをスタートしました。

 私は東京にいて果樹園の栽培の仕事はほとんどしていないのですが、スタート当初の収穫量があまりない頃は、知り合いに個人販売していました。そこから、だんだんと収穫量が増えてくると見た目が良くないのはあまり売り先がないという問題に直面しました。個人販売は見た目が悪くてもいいのですが、規模が大きくなるとそうはいきません。それなら加工品にするのはどうかということで、奄美で出回っているタンカンの加工品を参考にしたりして3年程前からは自ら加工品を試作したりしてきました。

ープロボノを受け入れていただいた理由、きっかけを教えてください。

 知り合いの方に「プロボノ」をご紹介いただき、参加してみないかと言われたことがきっかけです。その時は、活動内容などは知りませんでした。タンカンのPRができればということで軽い気持ちで参加させていただきました。

「栽培したタンカンの販路を拡げるためにはどうすればいいのか」

ーどのようなテーマで活動をされたのでしょうか?

 「栽培したタンカンをどのような加工品にすればいいのか」という課題がありました。生産量の比率でいうと全体の5割程は見た目が良くないため、加工品にする必要があります。一般的にタンカンの加工品というとジャムやジュースになってしまうのですが、それでは単価やコストを考えると利益が厳しくなってしまいます。そもそも、競合製品も多く本当に売れるのかという懸念もありました。

 もちろん、栽培するタンカンのうち見栄えのいいものを増やす努力をすることも必要なのですが、今回のプロボノでは生食用では売れないタンカンをいかにして販売できるようにするかというのが私の中ではメインテーマでした。

ー具体的にどのような加工品を検討されたのですか?

 ジャムやジュース以外の加工品ということで、以前、韓国の済州島でオレンジをドライフルーツに加工してチョコレートのコーティングをするというのが売れているという情報を聞いたことがありました。中国や韓国からの観光客に売れており、一番の売れ筋商品になっているそうです。そのような商品をタンカンで作るには具体的にどうしたらいいのか、3年程前から、構想を練っておりました。

 今回のプロボノでは皆さんからアイデアをいただきながら、自分が温めてきたものを形にして売れる状態までもっていくためにはどうすればいいのか、一緒に考えていただきました。

プロボノは、今までやろうと思ってできなかった事に着手するいい機会になりました

ー受け入れてみて良かった点、苦労された点を教えてください。

 良かった点は、今までやろうと思ってできなかった事に、これを機に着手できたことです。プロボノを機会に動き始めた中で、動いた結果を報告しながら話し合い、自分の中でも考えがまとまってきました。商売として成立させるためには具体的にどうやって進めればいいかという方向性も見えてきたのも、良かったと思います。

 プロボノのメンバーの方にマーケティングの客観的な分析も行ってもらいました。例えば、冒頭でお伝えした奄美サンファームのタンカンの糖度が高いというのも、今までその要因を深く追究することはなかったのですが、今回のプロボノメンバーの方々とのやり取りがきっかけでいろいろ調べてみて立地条件が要因だということがわかりました。優位性などをあまり突き詰めて考えたことがなかったので、それがこれからやっていくべきことだなというのがはっきりしました。

困った点は、特になかったですね。

ー実際に動いていただいたことで、仕入れをしてくださるスーパーさんやカフェが見つかったと伺っています。

 そうですね。実績も出ています。

 現状の課題として、低農薬で作っているので、見た目が良くないという点があります。東京の百貨店でよく見かけるのは屋久島のタンカンで、表面に傷がなくてつるつるして色合いもいいです。傷があるなど見た目が悪いと、何の説明もなしに並べているだけでは見た目の良い方が選ばれてしまいます。そのあたりを皆さんにもっとうまく伝えられるように、営業展開として説明や試食を取り入れようということで、提案していただきました。

▲プロボノプログラム終了後インタビュー時の様子

リモートでプロボノができれば、地方でも広がる可能性はあると思います

ー今後もプロボノを受け入れたいと思われますか?

 これまでは、栽培しているタンカンをどうするかということしか見えていませんでした。今回のプロボノを通じて、他の農産物や特産品も同様に顧客を広げられる可能性があるんだと気づきました。今回気づいたことをきっかけに、さらに広げていきたいなと思います。プロボノに関しても、機会があればぜひ受け入れたいです。

ープロボノのような首都圏や大企業の方がくるという活動は、日本中の困っていらっしゃる農家さんや地方企業さんの中で広がっていくと思いますか?

 可能性としてはすごくあると思います。地方の農家さんは、地産地消で完結していればいいですが、販路を広げたいケースはあると思います。奄美サンファームでは、私と弟がそれぞれ現地での生産と東京での販路開拓を担っています。そのような役割があればいいですが、地方で生産をしている方であれば、販路開拓は大きな課題になっていると思います。今はリモートで色々なことができますので、リモートでプロボノができるのであれば、地方でも可能性はすごくあると思います。