官民連携の街づくり法人のプロボノ受け入れ 日本最先端のまちはどう変わったのか

 昨今、新たな社会貢献の手段として注目を浴び始めている「プロボノ」
「プロボノ」はボランティアの一種でありながら、自らがこれまで培ったスキルや人脈を活かして企業やNPOを支援することで、スキルの棚卸しや社外での腕試しに繋がり、キャリア形成の側面でも効果があると注目されている取り組みです。

 今回、エッセンス株式会社が提供するプロボノプログラムを受け入れていただいた山梨県都留市の官民連携のまち街づくり法人である一般社団法人まちのtoolbox 代表理事の伊藤 洋平さんにお話を伺いました。(聞き手:エッセンス株式会社 島崎 由真) 

伊藤 洋平(いとう ようへい)
一般社団法人まちのtoolbox 代表理事

公務員として5年務めた後、民間企業に就職。2019年4月から都留市に居を移し、2020年1月に一般社団法人まちのtoolboxを立ち上げ、代表理事を務める。長年にわたり、まちづくりに関わる仕事に携わっている。

都留市は地方創生の日本最先端の取り組みをしている街です

ー団体のご紹介をお願いします。

 一般社団法人まちのtoolboxは、山梨県都留市にある官民連携のまちづくり法人です。もともとは、都留市が推進している「生涯活躍のまち事業」という地方創生の柱の一つを推進する団体として、市役所の中に立ち上げられた任意団体でした。2020年1月に法人を立ち上げ、4月から法人化して活動を行っています。

「生涯活躍のまち事業」は、「移住促進」「健康増進」「仕事創出」「生涯学習」業務という4つの柱で運営しています。

ー伊藤さんの自己紹介をお願いします。

 私は、ずっとまちづくりに関わる仕事をしてきました。都留市からのお声がけがきっかけで、2019年4月から都留市に居を構えて生活をしています。高齢者のコミュニティづくりに興味があり、生涯活躍のまち事業がその分野でした。そこで日本最先端の取り組みをしている都留市でやってみたいと思い、今に至っています。

それ以前は、市役所の公務員を5年程務め、退職して民間で働いていました。

ー公務員を辞められる方は少ないイメージがあります。

 少ないと思います。行政のことを知っている民間人材が少なく、そこにポジションがあるのだということを、退職してから気づきましたね。公務員をしているときは補助金申請などを受ける側だったので、その気持ちがわかりますよね。それもあって、民間企業ではハードルの高い国交省のモデル事業も受けることができました。それができたのは、公務員としての経験があったからこそだと思います。

2019年秋に「サービス高齢者向け住宅」をオープン、一躍トップランナーになりました

-都留市の魅力を教えてください。

 都留市は生涯活躍のまち事業の中で、2019年秋に「サービス高齢者向け住宅」をオープンし、それがきっかけとなり、一躍トップランナーになったんです。そういう面でも日本最先端のまちといえると思います。私はそこに非常に魅力を感じています。

 もう一つは、外部の人間が都留市に突然引っ越しをしてきても、それを受け入れてくれる市民のみなさんや行政のみなさんがいて受け入れができる土壌があることです。私も外部の人間ですが、それが、活動を継続できる大きな理由だと思います。

「関係人口」を増やす手段の一つとして、プロボノに可能性を感じました

-今回、プロボノの受け入れを決めていただいた理由を教えてください。

 先ほどもお伝えしましたが、私たちの事業の柱の一つに「移住促進業務」があります。しかし移住していただく流れとしては、いきなりは難しいだろうと感じています。そのような中、「関係人口」つまり、何かしら都留市のことを知ってくれた人、関わってくれた人を増やしていきたいと考えていました。その手段の一つとして、プロボノの可能性を感じたというのが、受け入れを決めた理由です。

-具体的にはどのようなテーマで受け入れをされたのでしょうか?

 大きく二つあります。一つはFacebookグループでオンラインの都留市に関するコミュニティを作っており、半年で人数が150名くらいまで増えました。人数が多いグループではあるのですが、活性化しておらず、それを活性化するというのがテーマでした。もう一つは、都留市の事業として、更地に色々な建物や拠点を整理するというものがありました。それをどのような方向性で進めていけばいいか、考えていただくというものでした。

-テーマを選ばれた理由を教えてください。都留市の方にもご参加いただいたと伺っています。

 二つ目のテーマは都留市としての取り組みでもありました。また、プロボノのメンバーの中に不動産業に関わっている方がいらっしゃったので、そのような方の知見を活かしていただけるのではないかということで、テーマを選びました。

明るく前向きな方ばかり、純粋に都留市に関心を持って関わっていただけました

-キックオフでの皆さんの印象はいかがでしたか?

 事前に企業名などの情報を教えていただいていたのですが、その時点で大企業の方ばかりだなと思っていました。始めてみると、皆さん純粋に都留市や私たちの取り組みに関心を持って関わりたいと思っていただいている方だったので、スムーズに進められました。「大企業ばった」「大企業だからすごいでしょ」というのがあると思い込んでいたのですが、全くそんなことはなかったですね。

 皆さん、明るく前向きな方ばかりでした。会議の場では大人しく、ガンガンやっていこうという雰囲気ではありませんでしたが、出てきた内容はすごいなと思いました。

▲プロボノプログラム終了後インタビュー時の様子

ー現地まで行く方もいらっしゃり、アグレッシブでしたね。

 そうですね。営業マンの「やりましょう!」というような、前へ前へというのではなく、内部に秘めている感じでした。真面目な方が多かった印象ですね。会議が終わった時に、「次回までにこれをやっておきましょう」というと、口頭での発表でもいいにもかかわらず、皆さん資料を作ってきてくれていたので、すごいと思いました。

2つのテーマそれぞれで成果があり、今後の展開につながっています

ー受け入れてよかった点や、得られた成果があれば教えてください。

 それぞれのテーマで、成果があったと思っています。Facebookグループの「デジタル都留市民」では、具体的にアンケートを実施して「どういう人たちがいるのか」「どういう意識で入ったのか」などの属性を把握できたのが大きな成果でした。そこから具体的にヒアリングをしていこうという動きもあり、今後の展開につながっています。

 もう一つの土地活用(複合型プロジェクト)についても、大きな考え方の部分を話し合うことができました。一つのコンセプトが決まったこと、市と方向性が共有できたことが大きな成果だと思います。

-苦労された点があれば教えてください

 最初に目標設定をする際、どこまでやってもらえるのかという部分が、一番悩んだ部分です。こちらとしてはボランティアでお願いしているのですが、どこまでお願いしていいのかという腹の探り合いですね。この点に関しては、エッセンスのファシリテーターの方にサポートいただき、「目標はここら辺にしましょう」というのを第一回目で言っていただけたので、良かったと思います。

大企業の看板を背負った方の発言は、市を動かすことにもつながる

ー今後もプロボノを受け入れたいと思われますか?

 もちろんです。

ー魅力はどのあたりに感じますか?
 
 大きく二つあると思います。一つ目は、元々気づいてはいたものの、業務がルーティンになり当たり前になっていると、忘れてしまうことがあります。それに改めて気づかせていただいたと思います。私自身、都留市に来た当初は良さを感じていたのに、当たり前すぎて忘れていたことがありました。それに気づかせていただいたことで、新鮮さを忘れないことは重要だなと思いました。

 ずっと都留市にいると当たり前すぎてその良さになかなか気づきにくいですよね。移住者ではなく、大企業の看板を背負ったすごい人たちの新鮮な意見が聞けるというということは、大きな影響力を持つこともあると思います。地域だとしがらみを気にする人が多いです。ずっと都留市で生活しているしがらみがありますが、来たばかりの方は気にせずに活動できるという部分も強いと思います。

 二つ目は、プロとしての能力を生かして成果を出していただける点です。
みなさん、本業での豊富な経験をお持ちのみなさまなので、データ分析や市場感覚など、専門的な見地からご協力いただけたのが多きかったです。企業として依頼するとかなりの費用がかかると思うのですが、ありがたいことです。