事例紹介

宇宙航空研究開発機構(JAXA) × 株式会社資生堂様の導入事例

「実際に越境したからこそ外部との共同研究の在り方が大きく異なることを実感することができた」(職種:研究開発、留学頻度:週1日、留学時:新卒入社13年目)
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目的
BtoC企業が行っている他社との協業フローや消費者との対話を通じたものづくりに参画することで、経済活動における研究開発の在り方を学ぶとともに、今後の活動に対する提言を行う
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背景
民間企業のビジネスの考え方を理解し、将来のプロジェクトにおけるJAXAと民間の役割を明確に捉える判断力を養う他、広い視野を持って提案できる力を涵養する必要があった
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効果
所属企業とBtoC企業では外部との共同研究の在り方が大きく異なることを実感し、エンドユーザーを常に意識しながらビジネスに繋げるための知見を得ることができた
他社留学を終えて元の職場に戻った「卒業生」にインタビュー。留学前、留学中、留学後の想い、そして「留学後に何が変わったか」について、体験談を語っていただきます。
今回お話を伺ったのは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の島 明日香さんです。JAXAの人材育成制度の一つである「宇宙ビジネス共創・越境プログラム」の一環として、他社留学を活用いただきました。越境先は、スキンケア、メイクアップ、フレグランスなどの「化粧品」を中心とした事業を展開する株式会社資生堂。越境中は、資生堂研究所が主導する、オープンイノベーションプログラム「fibona」の活動とサステナビリティの分野での取り組み支援を行いました。
所属 宇宙航空研究開発機構
留学先 株式会社資生堂
他社留学期間 週5日/6ヶ月間(2021年10月~2022年3月)
留学した人 研究開発部門 第二研究ユニット 島 明日香さん(留学時:新卒入社13年目)
送り出した人 新事業促進部 企画調整課 主任 指田 さやかさん

初めてのBtoC企業で外部との共創プログラムに参画

――まず初めに、今回JAXAの宇宙ビジネス共創・越境プログラムを通して越境することになった経緯と越境先企業を選定した経緯を教えてください。
島さん(以下、島) 今回は自ら応募して参加することが決まりました。2009年に入社以来、一貫して研究職として業務に従事してきましたが、研究成果の実用化や社会実装へと研究の方向性が変わりつつある中で、これまでの「基礎研究の目線」の他にも企業の目線や考え方を勉強したいと思うようになりました。越境にあたっては、研究現場のものの考え方や文献検索(論文・特許)、合成化学・触媒化学等の化学に係る専門性を活かせると考えました。今回の越境では、今後宇宙関連への参入を計画している全くの異業種企業で異なる製品やサービス開発のスタートアップに取り組みたいと思っていました。特に、BtoCビジネスを行う企業の他社との協業フローや消費者との対話を通じたものづくりに参画することで、経済活動における研究開発の在り方を学びたいと考えていました。
――そのような背景があって越境先として資生堂を選定されたんですね。では、越境中はどのようなプロジェクトに携わったのですか?
 今回、私が関わったのは2つのプロジェクトで、1つ目は資生堂研究所が主導するオープンイノベーションプログラム「fibona」の活動に参画しました。「fibona」はビューティー領域における新価値の創造や化粧品だけにとどまらないイノベーションの創出を目的として、外部との共創を行うプログラムです。実際に検討段階でのディスカッションに参加させていただき、意見交換を行ったり、研究計画立案のサポートを行ったりしました。
2つ目は、私自身のJAXAでの研究内容と近しい、サステナビリティの分野での取り組み支援を行いました。サステナビリティ推進室と協力して、外部オブザーバー的ポジションで情報収集や分析等を行いました。
どちらのプロジェクトも最終的には、提言書を作成し、資生堂CBIO兼CTO岡部さん他、今回の越境プログラムの資生堂関係者の皆さまに報告を行って終了となりました。

「fibona」公式サイト:https://spark.shiseido.co.jp/fibona/

――越境先の方々とのコミュニケーションはスムーズに取ることができましたか?
 そうですね、越境先のメンバーの皆さんがオープンマインドだったこともあり、越境初期の段階からスムーズに関係性を構築できたと思います。ただ、コロナ禍で直接お会いする機会を作ることが難しかったので最初は受け身になってしまった気がします。後半からは提言書を作らないといけないという目的もあったので、積極的に動きフランクに話ができるようになったと思います。

悔いを残しつつも充実していた半年間

――JAXAでの仕事と並行してプロジェクトを進めるのは大変でしたか?
 越境前半はちょうど自身の研究成果を対外発表するタイミングと重なってしまったので、辛かったです。後半はJAXAの業務が落ち着いたので、比較的スムーズに越境先の業務に時間を使うことができました。
――プロジェクトを進めるにあたって、上記以外で苦労したことはありましたか?
 そうですね、特にありません。半年間、ほぼ一貫して各プロジェクトの担当者の方が伴走してくださったので、安心してプロジェクトを進めることができました。また、アウトプットする上での苦労なども特にありませんでした。越境先の方々は非常に丁寧に話を聞いてくださいました。私が出したアウトプットに対しても認識のずれがあった場合にはきちんと意見をいただくことができ、指示も的確だったのでその都度修正していくことができました。資料の修正にあたっては、自分で色々と調べないといけないこともありましたので、強いて言えばそれが苦労したことなのかもしれません。ただ、そのおかげで知らない業界の知識や企業でのR&Dの動きを知ることに繋がったので良い学びになりました。
――あまり苦労だと感じることがなく、進めることができたのですね。では、越境中もっとできたらよかったのに、と心残りに思うようなことはありましたか?
 最初の1,2ヶ月で自分がどんな知識、技術の持ち主で何をすると効果的かを越境先にキャッチアップしてもらうのに時間がかかってしまいました。オンラインでのやり取りが多くなってしまったことも原因にあると思いますが、フォローアップも遅くなってしまい、スピーディに対応できなかったことが反省点としてあります。ただ、私自身がどんなことができるかを越境先に理解していただけた結果として、アドバイザリーのスタンスが構築され、意見を言うことに重きを置けて、最終的に外部目線での報告や提案を求めて頂けるだけの価値をご認識いただけたのは良かったです。
また、サステナビリティの提言にあたっては、宇宙業界での事例を紹介するため、その分野に詳しいJAXA内の別の研究グループに話を聞き、色々教えてもらいました。時間の問題もあったので直接話を聞ける方だけにお願いしたのですが、他の事業所にいる別部門の方にも話を聞くことができていたら、さらに精度の高い事例紹介や提案等ができたと思うのでその点が残念でした。

実際に越境したからこそリアルな学びを得ることができた

――今回の越境を通して、どんな学び・気づきがありましたか?
 一番大きな気づきだったのが、外部との共同研究の在り方がJAXAと企業とで大きく異なった点です。JAXAで共同研究をする場合は、双方の技術や研究結果を持ち寄り、そこから宇宙技術として何かを生み出すことを理想とします。しかし、越境先では、外部パートナーの技術や研究結果を活用して社会にとって新たな価値やモノを創造しようとしていました。また、資生堂はBtoC向けに事業を行っていますので、常にエンドユーザーを意識して議論を行っていました。私自身が基礎研究をやってきてビジネスに関わる業務を担当してこなかったこともあり、対象を限定するという観点がまず新鮮であり、かつ研究成果をどのように使ってビジネスに繋げるのか、という思考プロセスの一端を学べたことも大きな学びでした。
今後自分の研究成果を民間企業に使用してもらう場合に、この違いを知っているか知らないかでは大きく関わり方が変わってくるので、非常に大きな気づきでした。以前からJAXAと企業の共同研究の在り方は違うということは何となく気づいていましたが、それが具体的に何かまではわかっていませんでした。今回実際に企業へ越境したからこそ明確化したのだと思います。
――組織としての違いを感じた部分はありましたか?
 資生堂は開発拠点がみなとみらいにあって、今回お伺いすることができたのですがオシャレで素敵な環境でした。フリーアドレスの執務室と実験スペースが並んでいるフロアがあって、研究員以外の社員も積極的に研究者と直接やり取りができる環境になっていました。また、スピーディな商品開発をするために研究者と消費者が直接対話しながら進められる環境づくりにも腐心されているようでした。研究シーズがプロジェクトまで育たないことはよくありますが、資生堂は国際的な化粧品技術者の学会で多数の賞を取ったり、特許を取ったりしていますので、そういった研究シーズを活かした価値づくりをして、イノベーションを起こしていけるような工夫がされている点が非常に興味深かったです。
また、先ほど申し上げた通り、fibonaプログラムは外部パートナーの技術や研究結果を活用した価値創造を行う中で、研究者同士のネットワークやコミュニケーションを重要視しており、それを組織としても支援している点が素晴らしいと感じました。
このような環境が整えられている背景として、資生堂がBtoC企業で消費者に非常に近い存在だというのがあります。消費者の話をたくさん聞くことができる環境であることに加え、トライアンドエラーを繰り返し、それをすぐに反映できる組織風土が根付いていることも関連しています。また、ユーザーを属性別にセグメンテーションしやすいこともあり、フィードバックを得られやすい環境なのだと思いました。JAXAは「宇宙・航空」分野を事業としていますので、顧客が見えにくく、研究シーズを活用しようとした場合、社内のステークホルダーも非常に多く、誰に話をして進めていけばいいかわかりにくい環境になっています。そもそもの事業が異なるので同じようにはできませんが、JAXAに合わせたやり方でより研究しやすい環境を作っていけたらと考えています。
(写真:資生堂グローバルイノベーションセンター 「S/PARK(エスパーク)」)
――色々な学び・気づきがあったのですね。では、越境後はそれらをどのように活かしていますか? また、今後に向けて考えていることなどありますか?
 外部との共同研究の在り方についての学びについては、現在JAXA内で進めている研究のパートナー企業とのやりとりに早速活かすことができています。JAXAはこれから企業との共同研究がさらに増えていくと思うので、活かせる部分はもっと広がっていくと思います。JAXA内でも芽出しの研究をやる制度はありますが、まだあまり活用されていないので、資生堂が導入していた共同研究のやり方をJAXA内で伝えることによって、さらに外部との共同研究を活発化できたらと思っています。あとは今回の越境をきっかけとしてJAXAと資生堂の繋がりができたので、協業を行っていくための双方の窓口としてサポートしていけたらと考えています。
――組織の発展に向けて、すでに実践しているものもありつつ、今後さらに活動を広げていきたいとお考えなのですね。
 はい、そうです。私が仕事をする上で大切にしている想いとして、「100年後に人類が住む場所を拡大して社会や人の役に立ちたい」というのがあります。私がずっと研究を行っている、宇宙空間での人間の生命活動を支えるための酸素を、光合成以外の手法で二酸化炭素から作る研究というのもその想いがベースとしてあります。自分の目指すものを実現するために、自分の想いや価値観に共感してくれる人を巻き込んでいくことが必要です。そのために、自分の想いを発信し続け、それを実現可能な技術を規模に関わらず生み出し、説得力を増やしていくというのが地道なことですが大事なことだと思っています。組織は事業計画がある中で経営を行っていますので、研究者としての目線だけを持って動いていくのではなく、自分の想いややりたいことと組織としての視点とをすり合わせながら活動を続けていきたいと思います。
<越境先からのコメント> ~株式会社資生堂 中西様より~
初対面の際から感じていることを言葉として表現してくださって、良い関係性を作ることができたと思います。島さんの研究の取り組み姿勢や「人類」という視座でコミュニケーションを図る姿勢など、想定以上に島さんの存在から学ぶべきことが多くありました。結果的にまとめていただいた提言書も多くの関連者から絶賛され、良い形で終えることができました。今後の両社間での共創活動のきかっけになれば、と考えています。半年間ありがとうございました。
会社名 国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構
業種  日本の航空宇宙開発政策を担う研究・開発機関
URL https://www.jaxa.jp/