【開催レポート】エッセンスオンラインセミナー

昨今、新たな社会貢献の手段として注目を浴び始めている「プロボノ」。「プロボノ」はボランティアの一種でありながら、自らがこれまで培ったスキルや人脈を活かして企業やNPOを支援することで、スキルの棚卸しや社外での腕試しに繋がり、キャリア形成の側面でも効果があると注目されている取り組みです。

2025年3月27日、オンラインセミナーを開催しました。セミナーでは、エッセンス株式会社が提供するプロボノプログラム「itteki」を受け入れてくださったレガシープロジェクツ株式会社 代表取締役の前田茂雄さんにご登壇いただき、リアルな体験談を伺いました。
レガシープロジェクツ株式会社 代表取締役 前田 茂雄氏
 2003年三重大学卒、新卒で神戸本社のITベンチャーに就職。社長のかばん持ちをしビジネスの壁にぶち当たり挫折。その後再起をかけてエン・ジャパン株式会社を経てパーソルキャリア株式会社(旧インテリジェンス)に転職。2015年の地方創生事業の立上げ、ホールディングス向け商材のサービス企画を担当し、内閣府や経産省のワーキンググループに携わる。地方経済の生産性爆上げを果たすべく2020年起業。

なぜプロボノ人材を受け入れるのか?

——まずは会社のご紹介をお願いします。
 当社は名古屋市に拠点を置く人材サービス会社で、起業して5年目になります。事業内容としては、企業の採用活動から人材の定着・活躍支援まで、組織づくりをトータルで支援しています。エッセンスのプロボノプログラムには、これまで2回ほど受け入れ企業として参加させていただきました。私自身も大変勉強になる貴重な機会をいただいたと感じております。

レガシープロジェクツ株式会社HP: https://legacy-projects.jp

——ご自身も過去に越境体験があると聞きましたが、詳細を教えていただけますか?

 
私は熊本県で生まれ、福岡県で育ち、三重県で学生時代を過ごしてきましたので、色々な形で越境体験を重ねながら成長してきました。社会人になってからは、私自身も異業種研修に参加しました。大企業の方たちと共に、富山県のある市の移住プログラムを考えるというテーマに取り組みました。

 参加して良かったと感じたのは、「知らない人がいる」ということでした。自分とは異なる世界や環境で仕事をしている人たちと、共通の目的に向かって一緒に考えるという経験は、刺激的であるのはもちろんですが、「全く異なるバックグラウンドを持つ人の意見を受け入れることのしんどさ」を学ぶことができたので、非常に貴重な体験だったと感じています。

——越境体験がポジティブな影響をもたらすと感じたのですね。

 参加して良かったと思う一方で、参加した当時は私も管理職だったので、所属企業の仕事の調整に大変苦労しました。他の参加者も同様に、本業との両立に苦労しながらも、それを調整して参加していました。そういった経験があるので、越境体験自体は非常に素晴らしいものと感じておりましたが、参加するのであれば所属企業の仕事をきっちりと片付けて臨むこと必要だと思っていました。

——当社のプロボノ参加者を受け入れようと思ったのはご自身の体験があったからということですか?

 たしかにそれもありますが、エッセンスのプログラムが「大企業の方を受け入れるスキームである」という点に大きな魅力を感じたからです。大企業の方々と一緒にプロジェクトを進めることは、当社にとって非常に有益です。彼らはスキルアップなど明確な目的を持って参加しており、エッセンスの担当者の方からその姿勢や考え方を聞くうちに、自分もそのプロジェクトに関わってみたいという気持ちが強くなり、受け入れを決めました。最初はどうなるかわからなかったので、細かいことは考えず、まずは受け入れてみて考えよう、やってみようという軽い気持ちでトライしました。

プロボノプログラムitteki: https://www.essence.ne.jp/service/probono

プロボノ参加者への期待と現実

——プロボノの参加者に対して、どのようなことを期待していましたか?

 当初はプロボノ人材に対して誤解があったというのが正直なところです。私たちの会社にかけていただける時間とコミットメントが人によって違うことを理解できていませんでした。最近では、副業や兼業、社会人インターンなど、色々な関わり方があると思うのですが、当初は兼業くらい関わってもらえると思っていました。しかし、実際は想像していたよりも緩やかな関わり方をされる方が多かったように感じます。

——皆さん本業だけでも十分お忙しいので、高いコミットメントとなると難しいかもしれませんね。

 そうですね。当初は専門知識を使って深くコミットメントしてもらえると思っていたので、ハードなテーマ設定を考えていて、初回のセッションから核心をついた深い議論ができると思ってワクワクしていました。しかし、実際は緩やかなところから入っていきました。それもあって、二回目の参加時には、参加者の皆さんが取り組みやすく、かつ私も投資した時間に見合う成果が得られるテーマを設定したので、一回目の参加時に比べてよりスムーズに進み、得るものも多くありました。

 プロボノ参加者も送り出す企業も、ハードなテーマに取り組むことを期待しているわけではないでしょうから、お互いの前提条件を摺り合わせることが大事なんだと思います。条件が摺り合っていれば、お互いに非常に有意義な時間を過ごすことができると思います。

——活動が始まってからは、参加者をどのように受け入れていったのでしょうか?

 初回は、私が何をやりたいのか、どんな問題意識を持っているのかを丁寧に共有しました。じっくり話す時間を取ったので、予定時間よりも長くなってしまいました。いきなり明確なミッションを伝えるというよりも、まずは経営者としてどんなことを考え、どんな意識でいるのか、社会課題に対して当社がどのように向き合っているか等をしっかり理解してもらうことを大切にしたかったんです。
——具体的にやってもらいたいことを説明したわけではないんですね。

 参加者の皆さんにお願いしたいことはいくつか考えていましたが、絶対にこれをやってほしいと明確に決めていたわけではなかったんです。「参加してくれる方がやりたいこと」よりも、「私がやりたいこと」を伝え、そこに共感してくれた方々と何をやるか、一緒に考えて決めていけばいいと思っていました。

——当日はどんなお話をされたのですか?

 当時は、現場の主任・係長クラスの方々が辞めていくことに対して非常に強い問題意識を持っていました。当社のクライアントには製造業の企業が多く、現場のリーダーが辞めてしまうと、現場が一気に混乱してしまうという深刻な課題があります。その辞める理由をただアンケートで集めるだけでは、本音や背景までは見えてきません。だから私たちは、もっと能動的に現場の声を拾うために、1on1のコーチングビジネスを始めたんです。

 以前から、それをより体系的に、効果的にやるにはどうすればいいのか、悩んでいました。そこで活動の初回は、私が感じている現場の課題や、クライアントから見えてくるリアルな状況を率直に共有しました。そして参加者の皆さんがそれにどう反応するかを見ていました。

——皆さんの反応はどうでしたか?

 様々な業種や文化の方が入り混じっていたので、色々な意見が出ました。エッセンスのプロボノ参加者の所属企業はバリエーション豊富で、色々な方がいらっしゃいます。課長が50代中心の会社に所属している方もいれば、若くしてマネジメント職に就かれている方もいらっしゃいました。会話を進めていくと様々な化学反応が起こっていき、非常に面白かったですね。ただ、そうした深い対話ができるようになるには、事前にある程度の「インストール」が必要なんです。だからこそ、最初にじっくりと私から共有したのが良かったのだと後から気づきました。
——受け入れ側として、色々難しさを感じることもあったのでしょうか?

 そうですね、完全に受け身で「皆さんお願いします」というわけにはいきませんから。私から説明をして反応を見て進めていきますので、こちらのマネジメント力も必要だと思います。業務委託的に「これをやってほしい」と参加者へお願いするのではなく、ある程度柔らかいテーマを投げかける方が良いチームを作れると思います。

プロボノで活躍できる人材とは

——実際にプロボノ参加者と一緒に活動していただきましたが、どんな方がプロボノで活躍できると思いますか?

 色々あるとは思いますが、「出し惜しみしない方」でしょうか。プロボノは、お互いがリソースを提供しあう場です。例えば、時間や意見を出すこともそうですし、毎週出される宿題にしっかり取り組むことでより良い活動になります。リソースを提供しない人がいると、チームの雰囲気が悪くなるんです。もちろん、テーマによっては「調べ方がわからない」「人脈がない」といったケースもあると思います。でも、そういうときでも「自分にできることは何か?」と考えて動いてくれる人は、受け入れ側の企業にとっても関わりやすく、ありがたい存在です。

——宿題というのはどのようなものでしょうか?

 当社の場合ですと、調査や企画のための資料作りが多いと思います。特に調査に関して、プロボノのスキームは有効だと思っています。参加者は、我々が触れられない方々と一緒に仕事をされているので、間接的にタッチポイントが作れるのはとてもメリットがあります。例えば、「中間管理職の悩みとは」という宿題があった時は、自分の上司や同僚に聞く人もいれば、自分の体験を話してくれた人もいました。マスコミの方は報道担当者に聞きに行っていたので、自分の武器をどう使っていくかが大事だと思います。

 プロボノに参加するにあたって、自分の能力は通用するのだろうか?など色々と不安に思われる方もいるかもしれませんが、今いる環境や、自分が持っている人との繋がりの中で得られる情報を形にしようとする姿勢があれば、それで十分です。専門的な知識や調査スキルがあるかどうかが大事なわけではありません。

——調査の量は多いのでしょうか?

 人によるとは思いますが、私としては作業量が増えないように気を付けていました。楽しんで取り組まないと、面白さも成果も出にくいと思います。雰囲気も悪くなってしまいますし。「やらされ感」よりも「やってみようか」というスタンスで取り組んでいただいた方がいいと思っています。

エッセンスのプロボノの魅力

——知見を得るために人材を受け入れる方法は、色々な形があると思いますが(社員、インターン等)、エッセンスのプロボノの良さはどんなところだと思いますか?

 良い意味で「緩さ」があるところだと思います。お互いに強いコミットメントを求める場ではないという点がいいですね。例えば「営業促進」のように、「いつまでに何件成果を出す」というような明確な目標があるテーマについては、社員や業務委託の方に依頼してやるべきだと思っています。プロボノはどちらかというと、「体験・研修を通じて生み出されたアウトプットを受け入れ企業側がどう生かすか」ということなんだと思います。

 個人的には、プロボノ参加者は、「壁打ち相手」や「調査的な役割ができる方々」だと思っています。一方で、他社の類似サービスでは、本気の企画に取り組んで、成果を出すことが求められるケースもありますよね。そうなると、当社側も同じように強くコミットしなければならなくなってしまいます。つまり、「ちゃんと結果を出さなきゃいけない」というプレッシャーが生まれます。目的の違いをしっかり整理しておかないと、参加者にとっても、受け入れ側にとっても、しんどくなったり、すれ違いが起きたりする可能性があります。その時々の目的や状況に応じて、関わり方を使い分けることが大切だと思っています。
——参加者の皆さんの最終的なアウトプットを見ると、決して“緩い”ものではないという印象ですが。

 もちろんです。「緩い」と申し上げましたが、決して内容が軽いというわけではありません。お互い限られた時間の中で、アウトプットに向けて真剣に取り組んでいるからこそ、その時間を無駄にしたくないと思っています。私たちも時間に余裕があるわけではありませんし、参加者の皆さんも忙しい中で関わってくださっている。だからこそ、お互いの努力がきちんと“形として残る”ようにする必要があります。

——受け入れ企業の社長として、成果物の完成度や進捗を細かく求めたり、具体的な要望をすることはあるのでしょうか?

 もちろん、目標はしっかり持って進めます。ただ、それによって誰かが無理して残業するようなことは、本意ではありません。だからこそ、優先順位を見ながら、お互いに無理のない範囲で進めていくことを大切にしています。「緩い」という言葉を使いましたが、それは“何も求めていない”とか、“放任する”という意味ではありません。

参加者に期待しているもの

——プロボノ参加者に期待していること、求めていることはどんなことでしょうか?

 「成長したいと思う気持ち」を持って来てほしいです。プロボノに参加する時間を無駄にしないようにしてもらいたいです。参加する背景には、自分の成長や自己開発をしていきたいという、前向きな成長欲があると思うので、それを持ってきてもらえると、私たちも「じゃあどうしようか」と考えることができますし、期待もできます。何ができるかよりも、前向きに成長したいと思ってくれることが大事なことではないでしょうか。

——他にもありますか?

 先ほどプロボノで活躍できる人材についての話でもお話しましたが、自分にできることは何かを考えて、なんとかしようとするスタンスも非常に大事ですね。私としては、答えを一緒に出そうとしてくれるチームを作りたいんです。受け入れ企業としても、必要な配慮はもちろんさせていただきます。ただ、こちらから困り事を伝えた時に、皆さんがどれだけ本気で向き合ってくださるかが大事で、その姿勢のベースにあるのが、成長したいと思う気持ちなんだと思います。

——40日間の活動を通して参加者の皆さんに出していただいたアウトプットは、その後どうなったのでしょうか?

 結論から言うと、「だいぶ進化して今に至る」というのが一番正しい表現です。当社が参加したのは一年前で、その時の情報や考え方を元にして、4回くらいブラッシュアップしました。今では、原型は残っておらず、かなり進化している状態です。皆さんが出してくださったアウトプットが、重要な材料や土台となっており、あれが大事な分岐点だったと思います。

——最後に、受け入れ企業として一言いただけますか?

 私は会社を運営していますが、様々な社会問題に取り組むため、良いチームを作りながら、皆さんと一緒に進んでいきたいと考えております。今後も受け入れ企業として参加させていただきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。