キャリア再構築に向けたリスキリングの本質
前半は講師の西村氏より、ミドルシニア層を中心に広がる“キャリア停滞”の実情とその要因を掘り下げ、講師が自らの経験をもとに語った「真のリスキリング」の意味を紹介しました。
■ビジネスキャリアの危機
ミドルシニア層を中心に広がるキャリアの停滞現象に焦点が当てられ、調査データをもとに現状が紹介されました。講師は「50歳は人生の真ん中。マラソンでいう折り返し地点。立ち止まるのではなく、これからの走り方を見直す時期」と語りかけ、参加者の共感を呼びました。
■ キャリアの危機に陥る3つの理由
キャリアを停滞させる背景として三つのキーワードが提示されました。
1.こなし・さばき仕事 ― 仕事の意味・目的・提供価値の喪失
2.メタ認知症 ― メタ認知不足、役職とアイデンティティの統合=保身化
3.人間性の喪失 ― 自分らしさ、自己中心性の喪失
こうした構造が、自律性や主体性を損なっていると指摘しました。
■ 経験に基づくメッセージ
講師自身も50歳で副業に挑戦し、「自分の刀が錆びついている、もっと磨かなければいけない」と感じ、自己同一化=メタ認知症に陥っていることに気づいた経験を紹介。肩書きを離れ、一人の人間として何ができるかを問い直すことこそが、真のリスキリングであると語りました。
■ リスキリングの本質とは何か
単なるスキル習得にとどまらない「生きる知恵としてのリスキリング」の重要性を強調。講師は次の“三つの学び”を提唱しました。
・生きる武器になる学習―レジリエンスの智慧(宗教・哲学などの過去の叡智)、気づきの感度を高めるインナーワーク
・越境・経験学習―異業種・副業を通じた視野拡張
・機会開発学習―学びを実践につなげる機会創出
■ 幸福の三要素と“拡張キャリア”
心理学者マーティン・セリグマンの「幸福の三要素(快楽・夢中・意味)」を引用し、「キャリアの幸福も、意味と夢中の掛け合わせから生まれる」と締めくくりました。
参考:当日講演資料(提供:西村統行氏)
実践事例:越境経験から学ぶキャリアデザインと成長のヒント
続いて、ゲストスピーカーの根津氏にご講演いただきました。越境経験者としてのリアルな体験に基づくお話に、参加者も深く共感していました。
■ 取り組みの背景・当時の課題
独立系の自動車部品メーカーである株式会社ニフコに勤める根津氏は、100年に一度の変革期を迎えている自動車業界の中で、自分ゴト化が進まず、組織が停滞。変化への抵抗感や、本音を語り合えない職場の人間関係に課題を感じていました。そうした中で、2016年から企画創出の取り組みを開始し、2019年からエッセンスが提供する「他社留学プログラム」をスタート。プログラムの導入にあたり、まず根津氏ご自身が他社留学を経験されました。
■ 数字で見る成果と広がり
株式会社ニフコでは、この6年間で63名が越境プログラムに参加し、オンラインコミュニティには1,500名が参加。また、約30名のファシリテーターが中心となり、全社的な風土変革を推進。個人起点から「人事部」と「総務部」がタッグを組んで、全社展開と仕組化を進めています。この取り組みは2025年6月、「HR’s SDGsアワード2025」でグランプリを受賞しました。
■ 越境がもたらした気づき
49歳でITベンチャー企業への他社留学に参加した根津氏。未知の環境に身を置く中で、それまで自社で“当たり前”とされていたことに対して「本当にそうだろうか?」と疑問を抱くようになったといいます。
「越境は人生の転機を誘発するものであり、価値観の変化や意識変容、さらには行動変容をもたらす」と語りました。越境の過程で生まれる葛藤に直面し、それらをじっくり考えることこそが、キャリアデザインそのものであると強調。参加者には、できるだけ早く自分のキャリアについて考え始めることの大切さを伝えました。
■ 自分の強み=タグ付け
意図しない点と点を組み合わせることで、唯一無二の差別化が生まれます。根津氏は、価値を高めるキャリア戦略として次の3つを挙げました。
1.市場性―時代のニーズを読み取る力
2.希少性―唯一無二の、自分ならではの強み
3.再現性―ポータブルスキル(他の場でも活かせる実践力)
他社留学前は学ぶことに積極的ではなかったそうですが、留学を通じて学ぶ機会が増え、それに伴いポータブルスキルも増えたといいます。「友人に誘われたから」「面白そう」といったきっかけでも、新しい経験を重ねることで可能性が広がります。「経験の点が増えるほど掛け算の選択肢が広がり、得た強みにタグを付けることで差別化につながる」と説明されました。
■計画的偶発性とつながりの連鎖
何を(What)、どうやって(How)行うかよりも、なぜ(Why)行うのかという動機が重要ですが、それに加えて、誰とつながるか(誰と時間を過ごすか)が最も大切だと強調。スティーブ・ジョブズの「Connecting the dots(点と点をつなげる)」の考え方と同様に、何かの役に立つかを考えるよりも、思いついたことややりたいことをとにかく一生懸命取り組むことが、将来につながるといいます。また、思考のあり方としては「Win-Win」ではなく、「Happy-Happy」を基本にしているとお話されました。

参考:当日講演資料(提供:根津 幹夫氏)
ラップアップ ― 冒険的キャリアから拡張キャリアへ
根津氏の講演後、再び西村氏より本日のまとめとしてお話をいただきました。
■根津氏の講演を受けて
最後の「Connecting the dots(点と点をつなげる)」や人とのつながりの話は、キャリアを考える上で重要な考え方・行動指針だと述べました。過去の知恵や内省がなければ「成果が出てからやろう」となりがちですが、まず自分から価値を提供することで、成果や学びは後から返ってきます。いわば「恩を先に売る」シンプルな法則です。シニア世代にはこの感覚に気づかない人も多く、だからこそ自ら行動することが何より大切だと伝えました。
■ 小さな一歩から始まる“冒険的キャリア”
冒険的キャリアとは、「セーフティゾーンから一歩踏み出して、仕事価値のあいまいな世界から自身が価値提供できる世界へ、冒険心という遊び心を持って外に出ること」だと説明。他社留学や副業、NPO活動など、日常の延長にある冒険こそが、成長の原動力になるといいます。
■OSをアップデートするAwe体験
「Awe(オウ)体験」とは、心理学などで用いられる言葉で、「畏敬の念」や「圧倒されるような感動」を伴う体験を指します。越境では、困難を伴う楽しさや驚き、感動、非日常といった要素が重要であり、こうした感覚を経験すると自己変容が起こりやすくなります。今後の人事や研修のあり方にもつながる考え方だと説明。
■拡張キャリア
拡張キャリアとは、冒険的キャリアを通じて組織の枠を超え、自分自身というコンテンツから新たな価値を生み出す考え方です。「拡張(augment)」とは、単に広げるのではなく、経験や価値を重ね合わせてキャリアを創ることを意味します。夢中になれることや得意なこと、誰かの役に立てることを意識して経験を積むことで、偶然の出会いや新たなつながり(スティーブ・ジョブズの「Connecting the dots」やクランボルツ の計画的偶発性)を通じ、キャリアは自然に拡張されます。偶然の出会いや出来事がキャリア形成に大きな影響を与えることを強調し、「自分のありのままの行動が、新しい可能性や価値につながる」とまとめました。
■ これから求められる2つのX(トランスフォーメーション)
これからのキャリアは会社任せではなく、個人が自らデザインする時代です。私はこれを「キャリア・エクスチェンジ(CX)」と呼んでいます。キャリアを二刀流で考え、自ら変革を描くことが重要で、これは40代や50代を待たず、20代後半から少しずつ価値観や行動を見直し、柔軟に取り組んでいくことが重要だと語りました。
■ 最後に
講師は、自身の出版活動も“拡張キャリア”の一環だと語り、「生涯青春!」「人生、まだまだこんなものじゃない。人生という一人一人のシナリオを完全燃焼してほしい」と力強いメッセージを残し、終了となりました。

参考:当日講演資料(提供:西村統行氏)
書籍:拡張キャリア―最幸の仕事人生を実践する生き方・考え方 ※書籍の詳細・購入はこちらから
終了後のアンケートの一部をご紹介します。
・西村さんのエピソードや、実際に越境された根津さんのお話から、多くの驚きと学びを得た。素晴らしいキャリアと実績をお持ちのお二人が、実体験に基づいた等身大のお話をされ、非常に説得力があった。
・偶発性の話が自身の経験と重なり、非常に共感した。偶発の起こる確率を意図的に高める仕組みの重要性を実感している。
・何度か越境プログラムに参加してきたが、その経験を通してこれまでとは異なるキャリアを描くようになり、とても納得できた。
・すべての言葉や事例が印象的で、心に深く響いた。もっとじっくりお話を伺いたかった。
参加者の皆さんは大変満足され、それぞれのキャリアや人生を考えるきっかけとなり、新たな気づきと刺激に満ちた貴重な時間を過ごされたようです。
エッセンスでは、他社留学とプロボノという2つの越境プログラムを提供しています。
今後も、多様な学びや経験の機会を提供し、一人ひとりが“冒険的キャリア”を描き、実現できる環境づくりを推進してまいります。
【ご参考】エッセンス越境研修サービス