【開催レポート】HRサミット2025 ONLINE:組織の枠を越えた、「自分の再起動ボタン」

2025年9月にオンライン開催された「HRサミット2025」に、当社が登壇しました。
「このままでは、自分も組織も変われない」─そんな危機感から一人のエンジニアが他社留学を決意し、やがて全社を巻き込む人材育成の変革が始まり、1500人規模の取り組みへと広がっていきました。
本講演では、ゲストに株式会社ニフコの根津幹夫氏をお招きし、「現場から始まる組織開発」をテーマに、越境体験を起点とした実践プロセスと組織変革の工夫についてお話しいただきました。
座学や制度では届きにくい“行動変容の起点”としての越境体験が、組織全体の意識をどう動かしていったのか。リアルなエピソードを交えて語られた内容は、多くの参加者に深い示唆を与えるものとなりました。
今回の講演内容を、インタビュー形式で簡潔にまとめました。講演全体の流れやポイントをつかんでいただける内容になっていますので、ぜひご覧ください。
▶ゲスト
株式会社ニフコ 開発本部 エグゼクティブ エキスパート 根津 幹夫氏
自動車部品や住宅設備、医療機器など多分野で220件の特許を有し、エンジニアとして30年以上開発業務に従事。49歳でITベンチャー企業への越境留学を経験し、価値観とキャリア観が大きく転換、人生の転機を迎える。
現在は越境学習プログラムやマイパーパス活動、社内SNSコミュニティ運営を通じて人材育成と組織開発を推進。国家資格キャリアコンサルタント、マインドフルネストレーナーとしての専門性も活かし、ミドルシニア層の変化を支援。越境体験を原点に、自分らしく再起動する人を応援する社内外の活動として、セミナー講師や企業講演などを行っている。「HR’s SDGsアワード2025」では、「本音で語れる場づくり」部門にて最優秀賞・グランプリを受賞。

▶聞き手
エッセンス株式会社 取締役 高橋 正明氏
1996年、大手テレマーケティング会社に入社。新規事業責任者、マーケティング部門責任者、経営企画局長を歴任。新規事業の立ち上げ、アライアンス、M&Aを主導。ネット系マーケティング会社への資本参加、大手広告代理店との合弁子会社立ち上げプロジェクトを担当、両社の取締役を兼務。2011年よりエッセンス株式会社に参画し、研修部門を統括している。

エンジニアから組織変革へ

高橋さん(以下、高橋) まず自己紹介をお願いいたします。

根津さん(以下、根津) 株式会社ニフコの根津と申します。当社は、売上規模約3,500億円、従業員数1万人弱の独立系自動車部品メーカーです。主に自動車部品が事業の約9割を占めていますが、住宅設備、電気関連、アパレル分野にも展開しています。私は現在55歳で、人事部門ではなく、開発本部に所属し、人材育成と組織開発を担当しています。約30年間、プロダクトエンジニアとして様々な分野の開発に携わってきました。現在はその経験を活かし、人と組織の成長に注力しています。

現在取り組んでいるテーマは、大きく3つです。1つ目は、越境体験から得られる気づきを活かし、技術者の人材育成を推進する「価値創造プランナー」としての活動、2つ目は、社内SNSコミュニティの立ち上げと運営で、現在は全社的に展開され、約1,500名が参加する規模にまで成長しています。3つ目は、越境体験をきっかけに、企業講演やセミナーへの登壇など、社外での発信活動を積極的に行っています。

越境に挑んだ背景

高橋 根津さんには当社の他社留学プログラムを通じてベンチャー企業へご留学いただき、現在のご活躍につなげていただいております。まずは、当社の他社留学に参加された背景や、当時感じていた課題感についてお聞かせください。

根津 約30年間エンジニアとしてキャリアを積んできましたが、9年前に企画業務に挑戦し始めました。当時、顕在化した課題への対応は得意だったものの、「仕事がなくなった時の潜在ニーズにどう対応すべきか」という課題を感じていました。ワークショップや産学共同などの取り組みで一定の成果はあったものの、意識の変化があっても行動変容につなげるのは難しいと感じていました。

そんな中、6年前にエッセンス社の他社留学プログラムと出会い、「面白そうだ」と感じ、まずは自分が体験してみることにしました。当時49歳で、今後のキャリアに対する不安や焦りもあり、「新しいことをやらなければ変わらない」という思いから、まずは自らチャレンジしてみようと決意したのが、そもそものきっかけです。

高橋 根津さんは人事部門ではなく現場のご所属ですが、「現場側で何とかしなければ」という思いがあったのでしょうか?

根津 当社の人事も本当に熱心に取り組んでいて、さまざまなキャリア研修や階層別プログラムを実施しているのですが、やはりエンジニア特有の課題感やスキル面にはギャップがあると感じていました。そうした部分をもっとしっかりとサポートしていきたいという思いがありました。また、当社はアイデアを価値としている会社でもあるので、価値創造のためにはどうすればいいのか、という課題意識もありました。

株式会社ニフコ https://www.nifco.com/

越境体験での気づき・変化

高橋 実際にベンチャー企業へご留学いただきましたが、いかがでしたか?

根津 私は40代後半になるまで社外で働いた経験が全くなかったので、他社留学は非常に衝撃的な経験でした。IT系ベンチャーへの留学を決めたのは、敢えて強みを発揮できない環境に身を置くことで成長できると考えたからです。ちょうどその頃、NHK「クローズアップ現代」から取材依頼を受けたことも決断の後押しとなりました。しかし、そこからが本当の苦労の始まりでした。

高橋 まったく異なる環境に飛び込んで、どうでしたか?

根津 最初はまったくうまくいきませんでした。IT系ベンチャーは社員30名ほどで、社長以下全員が自分より若く、半数は女性という全く異なる環境でした。オフィスの雰囲気や価値観、仕事の進め方などすべてが違い、強いカルチャーショックを受けました。留学先からも「おじさんが来た」といった空気を感じ、自分がどう振る舞い、関係を築けばよいか戸惑い、お昼を一人で食べることさえも悩んでいた日々を鮮明に覚えています。

高橋 さまざまな違いがあるからこそ、価値観が揺さぶられることもあったのではないでしょうか?

根津 はい、ありました。自動車業界や大企業と比べて、ITベンチャーの仕事の進め方は大きく異なり、特にベンチャーでは「自分で仕事をつくる」ことが求められます。リソースが限られる中で工夫しながら進める必要があり、社内の人間関係もフラットでオープンでした。この環境で「役に立ちたい」「貢献したい」という気持ちが芽生え、価値観が変わっていきました。週1回、半年間の越境は刺激的でありながら悩みも多く、成果を出すための葛藤もありましたが、それ以上に楽しい体験でした。

高橋 どのような葛藤や変化があったのでしょうか?

根津 最初はどうしていいかわからないという戸惑いが強かったです。留学前のキャリア面談で初めて自分と向き合い、自分の強みややりたいことを考え始めましたが、そこからすでに表現するのが難しかったです。なんとかなると思って留学に臨みましたが、最初の3ヶ月は苦戦の連続で、もがき続ける半年間となりました。戸惑いながらも少しずつ周囲と関わり、徐々に貢献できるようになっていった─そんな経験でした。留学の後半では、社内SNSコミュニティの開発とローンチに関わり、大企業出身だからこその視点を活かして貢献することができました。多くの関係性が生まれ、意識も変わったものの、留学終了後には「これから社内でどう進めていけばいいのだろう…」というのが正直な気持ちでした。

仕組み化への挑戦と共感の連鎖

高橋 留学が終了した後、どのように社内への導入を進めていったのでしょうか?

根津 越境体験の価値は、実際に体験した人にしかわかりにくく、うまく言葉で伝えるのが難しい部分があります。そのため、翌年に他社留学の募集をするとき、どうやってその魅力を伝えるかが最初の悩みでした。どう進めるかを考えている最中にコロナ禍が始まり、厳しい環境の中で2020年6月に募集をかけることになりました。募集の際の言葉は「自分を変えて成長したい人」というシンプルな一言だけでした。

高橋 ご自身が刺激を受けて変わったからこそ、会社として越境経験が必要だというご判断をされたということですか?

根津 私が開発本部で感じている課題感や問題意識から、これはぜひ導入すべきだと思いました。ただ、それが全社や他の部署にも適用できるかどうかはまだわからなかったため、まずはスモールスタートとして開発本部から募集をかけました。結果として、6名が応募してくれました。

高橋 開発本部として解決できるのではないかと感じられた課題とは、具体的にどのようなものでしたか?

根津 もともとの課題感として、仕事は「与えられるもの」として捉える風土があり、自分ごと化されていないと感じていました。自動車業界が大きな変革期を迎え、パンデミックなど社会の変化が進む中でも、危機感や変化への意識が乏しく、このままではいずれ破綻すると強く感じていたんです。スキルは後からでも磨けますが、意識が変わらなければ意味がない―そこに危機感を持っていました。

高橋 2020年以降、毎年越境プログラムを継続していると思いますが、進める中で開発本部として変わったと感じることはありますか?

根津 ずっと一人で活動してきましたが、視座を共有できる仲間が増えてきた実感があります。特に一期生6名の存在には支えられました。いろいろな苦労や挫折しそうになった時も、社外の仲間が大きな支えになってくれました。今では越境プログラムもハードル別に複数用意し、延べ60名ほどの越境経験者が生まれました。世代の変化も感じながら、仲間の輪が広がっていることに感謝しています。

▶エッセンス越境研修:他社留学の詳細はこちら/プロボノの詳細はこちら

高橋 実際には、参加された60名の方々が周囲に良い影響を与えている部分もあるかと思います。また、コミュニティとして皆さんが互いに発表し合い、情報共有できる仕組みも整ってきているかと思います。今後、この取り組みをどのように広げていきたいとお考えでしょうか?

根津 今取り組んでいることは大きく4つあります。まず1つ目が越境プログラムの拡散、2つ目は社内SNSコミュニティの活用、3つ目が、私がスモールスタートで始めたマイパーパスワークショップの全社展開、そして4つ目が社内ファシリテーターの育成で、現在30名が参加しています。

越境プログラムは、関心の高いアーリーアダプター層には一巡し、現在は他部署や製造部門など次の層へ広がりつつあります。今後はイノベーター層の育成と、プログラムの価値や体系づくりの強化が課題です。社内SNSコミュニティも、20名ほどからスタートし、現在は約1,500名が参加するまでに拡大し、横だけでなく縦のつながりの活性化にも取り組んでいます。また、自己理解やマイパーパスの可視化による意識変容を土台に、行動変容へとつなげるための施策も検討中です。今後は、参加者やファシリテーターが次世代リーダーとして活躍できる場づくりにも注力していきます。

越境の再現性

高橋 人事のご担当者で「会社を変えたい」「外部の情報にもっと触れる機会を増やしたい」と感じている方も多いと思います。そうした方々がチャレンジを始めるには、まず何から取り組めばよいか、またその道筋をどう描けばよいでしょうか。

根津 越境の価値は、実際に体験してみないと伝わりにくいものです。そのため、人事や推進者自身がまずトライアルとして参加することが重要です。危機感を言葉で伝えるだけでは人は動かず、経営層にKPIや費用対効果を問われた際にも、体験がなければ答えにくくなります。だからこそ、最初はスモールスタートで、できれば2人以上で支え合いながら取り組むのが理想的です。何より大切なのは、人事の方自身が「自分ごと」としてこの取り組みに向き合うことです。育てたい人材や求める行動を自覚し、まずは一歩踏み出してみる。その素直な挑戦が、大きな変化のきっかけになるはずです。

高橋 根津さんのように現場主導で取り組みが始まった場合、人事としてはどのように支援していくのがよいとお考えでしょうか。

根津 人事と現場の間に温度差がある企業も少なくありません。研修は多く用意されているものの、現場では「なぜやるのかわからない」と負担に感じているケースもあるようです。だからこそ、現場の声や課題にしっかり寄り添い、当事者と一緒にプログラムをつくることが重要です。人事だけで取り組むのは限界があるため、現場で熱意を持つ人たちと連携しながら進めていくことが、より効果的だと考えます。

高橋 本日はありがとうございました!