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日本企業がイノベーションを起こすために必要な4つのアップデート。「リーダー2.0」「オープンイノベーション2.0」「オフィス3.0」「HR3.0」

■イノベーションを生み出す条件とは

近年、さまざまなビジネスシーンで「イノベーション」という言葉を耳にします。

イノベーションは直訳すると「技術革新」です。

それを聞くと、技術の開発や何か新しい発明だと思ってしまいますが、本来の意味は、様々な場面において今までになかったものが新しく取り入れられることを指します。

 

IoT・ビックデータ・AIの台頭によって、日本企業はイノベーションの創出を迫られており、企業のトップや人材マネジメントにとっては、そのための組織作りが喫緊の課題となっています。

 

少子高齢化によって国内市場は縮小し、グローバル競争の激化で日本企業はさらなる窮地に立たされています。

今回はそのイノベーションを生み出すために必要とされる4つの領域におけるアップデートをご紹介します

 

■「リーダー2.0」

日本企業ではイノベーションを成功させることは極めて難しいと言われています。

原因としては、日本企業は内向きの企業文化が深く根付いており、社内独自のルールが固辞されているため、その文化を変えることは簡単ではありません。

 

ルールやシステムに固執しているあまりに本来ある可能性を十分に発揮できずにいる企業も多いように感じます。

技術は生み出せても、新しいビジネスの仕組みを作るのがあまり得意ではないと言われるのはそのためです。

 

そこで1つの鍵となるのが新しいリーダーの登場です。

これから日本はビジネスの場においても非中央集権化が進んでいきます。

その変化に合わせ、企業をリードする経営トップやリーダーも、今までとは違ったタイプの新しいリーダーが誕生してくるでしょう。

 

ここでは、筑波大学の准教授・学長補佐である落合陽一氏が訴える新しいリーダー像「リーダー2.0」を紹介します。

 

・リーダー1.0

今までのリーダーの理想像は一言でいうと「強い人」でした。

マッチョで完璧に仕事をこなし、カリスマ性があるような人です。このタイプをリーダー1.0と呼びます。

 

・リーダー2.0

そして、リーダー1.0とは逆の新しいタイプのリーダーをリーダー2.0と呼びます。

新しいリーダー2.0の条件とは何なのでしょうか?

 

新しいリーダー2.0の条件の1つ目は「弱さ」です。

リーダー2.0の場合はすべてを自分で出来なくても構いません。何か一つでも突出した能力があれば、その他の事は能力のある周りの人に補ってもらえばよいという考え方です。

すべてを出来ない事が分かっているので、まわりへの共感性が高くなり、周囲の手が差し伸べられやすくなります。

 

2つ目の条件は「意思決定の象徴と実務決定の象徴は別でいい」という事です。

すべての実務経験を統括している人はいなくてよく、個々で自分の得意分野に特化すればいいという事です。

自分がいい製品を作るから全て任せろというタイプのリーダーではないということです。

 

3つ目は「後継者ではなく、後発を育てる」ということです。

自分の後を継ぐ人を育成するのではなく、自分の会社以外に新しい会社や新しいジャンルの事業を作っていくような人材を育てていける人です。

 

現代はIoTの時代を迎え、大体の事がシステマティックに解決されるようになってきました。

リーダー2.0は何か1つに突出していることが重要で、完璧な経歴や能力設定を求めている訳ではありません。

これからの組織は、同じぐらいの能力を持っているもの同士が集まるいわばバンドの様なものになると考えられます。

 

■「オープンイノベーション2.0」

オープンイノベーションとは、自社だけではなく他社や大学、地方自治体、起業家などと積極的に連携し、外部のアイディアなどを自社の社内課題に生かし解決する新しいビジネスモデルです。

 

日本企業ではつい最近まで創造性を追求する経営の重要さが理解されにくい状態でした。

創造性を追求するには、社内だけではなく社外でも情報を集め、それを元に事業化する仕組みづくりが必要となってきます。そうした背景でここ最近、多くの企業でオープンイノベーションが推進されるようになってきました。

 

多くの企業が行っている従来型のオープンイノベーションのスタイルである1対1での共同開発を1.0としたときに、さらに顧客や利用者、市民、政府や自治体などを巻き込んだ新しい形が「オープンイノベーション2.0」と言われています。これは、欧米でのイノベーションの新たな流れとなりつつあります。

 

2.0での目的は社会的な課題の解決です。

通常は新ビジネスの創出を掲げるのと比べ、広範で公的な意義があります。また多様な関係者が多層的に連携し、“共創”の観点が強いのが特徴です。

従来は産学の“ウィンウィン”というように、オープンといっても1対1のつながりが基本でした。

 

社会課題の解決の中で、特に注目を集めているのが「世界を変えるための17のゴール」「169のターゲット」を掲げているSDGsの存在です。

世界のモノづくり大国となり、次の目標を見失いかけていた日本の前にこの169の課題が示されることで、イノベーションを始動させる絶好のチャンスがきたと言っても過言ではありません。

現在、様々なプレイヤーがこのSDGsに着目し、多様なアプローチでオープンイノベーション2.0に取り組み始めています。

 

■「オフィス3.0」

オフィスとはどんな場所でしょうか?

 

勤務場所、働く人達が集まる決まった空間、など意見は様々だと思います。

その中で共通しているのは人々が集まり、事務作業などを行う場所をオフィスと呼んでいるということです。

ですが、最近では個人個人の働き方を尊重し、活かし合うことにフォーカスが当てられるようになり、オフィスに対する考え方が随分変わってきています。

 

多摩大学大学院の紺野登教授は、これからの時代は「オフィス3.0」の時代が到来すると提唱しています。

オフィス3.0とは何か?その前にまずはオフィス1.0からご紹介します。

 

・オフィス1.0

まず、オフィス1.0とは管理、分業などで階層化されたツリー型の組織をそのまま、デスクレイアウトした典型的な島型対向式のオフィスのことです。

 

・オフィス2.0

次に、2000年代に入り周囲の人との円滑なコミュニケーションや知識創造、協業の重要性に配慮したオフィスレイアウトが誕生しました。

これをオフィス2.0と呼んでいます。

 

・オフィス3.0

オフィス2.0の時に考案された形が今の原形になり、オフィス3.0はその延長線上になります。オフィス3.0を考える上で重要なのは、ワークプレイスをゼロベースで考えていくという事です。

 

オフィス3.0では「Design for Each」をコンセプトに考え、個々の働きやすさやパフォーマンスを最大化していくことが企図されます。

オフィス内であれば空調や照明、椅子を各人の好みに合わせて変えたり、集中するためのスペースや会話が生まれやすいスペースなどの目的別の空間を設け、必要に応じて場所を変えて仕事をできるようにしたりすることが、新たなオフィスのトレンドになってきているのです。

 

また最近は、インターネット環境の発展に伴い、同じオフィスに居なくても円滑にコミュニケーションをとることも可能になりました。

それによって、仕事はオフィスで集まって行うという固定概念は薄まりつつあり、自宅で行う在宅勤務や、ビルの中などにあるレンタルスペースを借りて行うレンタルオフィスなど、様々な場所で分散して働くスタイルも広がっています。

 

常識だったオフィスへ通勤という今までのスタイルは一つの手段にすぎません。

BCP対策(災害や事故など不測の事態を想定して、事業継続の視点から対応策をまとめたもの)や働く人達の子育てや介護の状況によって、従来のオフィスからもっと自分らしく自由な環境へと選択肢が広がっています。

 

オフィス環境の進化もオフィス外のワークプレイスの拡大も、それぞれに共通して言えるのは、企業が個々人の働き方の自由度を拡張し、その人が最もパフォーマンスを上げやすい環境づくりを後押ししているということです。

 

また、社員がオフィスの内外で仕事環境を自律的に選んでいくことが、内発的なモチベーションアップにつながることも期待されています。

内発的モチベーションとは、報酬や人事など外部からのモチベーションとは対となるもので、自身の楽しさや興味を軸に自分のために行動する際に沸き起こるモチベーションを指します。

 

イノベーションの創出においては間違いなく、この内発的モチベーションの存在が大きな鍵となるのではないでしょうか。

 

■「HR3.0」

HRとは直訳するとHuman Resourcesとなり、アメリカと日本では会社組織の体制や人事の過程が違うので一概には言えませんが、会社でいう人事部に一番近い機能を担っている部門のことです。

 

人生100年時代と言われている中で、今までは苦戦することも考えられなかった大企業が縮小や倒産していく姿は、多くの人々の働き方への意識改革のきっかけになっているのではないでしょうか。

 

最近では企業寿命30年時代や20年時代とも言われています。

今までの終身雇用や新卒一括採用のような雇用のあり方では変化の激しい現代では大企業も生き残れない時代に突入しています。

 

HRは今まで3段階で変容してきました。

 

・HR1.0

まずHR1.0は、1970年代の高度経済成長期の中で、企業の採用は定年まできちんと雇用する終身雇用、企業の成長スピードに合わせて調整が行えるため採用は新卒一括採用、そして知識の創造やスキルアップは社内研修で行うという組織モデルです。

 

・HR2.0

次に、バブル崩壊後にHR2.0時代に入りました。

人事は人的資産管理を通して、効率的なビジネスに貢献するよう戦略性を求められるようになりました。

その時々に必要な組織体を構築・維持するために、リストラや中途採用などを行うようになったのです。

 

・HR3.0

そして今、ビジネスにおける正解はますます見えづらくなっており、HR3.0へのアップデートが必要と言えます。

HR3.0では過去の成功モデルに頼れないため、経営陣に人事が率先してリーダーとして働きかけ、新しいミッションを掲げながら、組織や人材の開発を行っていくというような新しい組織モデルとなります。

並行して、副業やリモートワークなどの多様な働き方の促進や、フリーランスやシニアなどの多様な人材活用の提案も行います。

社会全体や社内外での人材活用は、人をベースとしたイノベーション促進にもつながっていきます。

 

■まとめ

日本企業でのイノベーションの成功率は十数%程度と言われています。

そのため、日本企業では成功することが難しいと言われているイノベーションですが、成功へのカギは社内のあらゆる領域で前例踏襲的な社内のルールやシステムに固執せず、新たな変革の可能性を模索する聖域を排した全方位からのアプローチを行うことにあります。

 

長年あるものを変えていくことは簡単ではありませんし、上記にあげたアップデートをすべて成し遂げた企業は存在せず、それぞれが道半ばの中、前へと歩みを進めています。

 

あらゆる障害を乗り越えながら、イノベーションを成功に導くためには、社内外の異なる分野の知見を得ることが欠かせません。

 

部署や役職、会社の壁を越えて意見を取り入れ協働する必要性やコミュニケーションをとる重要性を企業全体で理解し、競争力のあるイノベーティブな組織が多く生まれることを期待しています。