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「渡り鳥」キャリアが未来を拓く

 キャリアにおいての「渡り鳥」というと、あまり良い印象を受けないことが良くあります。ことあるごとに転職を繰り返したり、その都度給与アップを狙うジョブホッパー的なニュアンスがそこに含まれるからです。


 しかし、本来の渡り鳥は季節ごとに餌場を求め、群れや家族が生きながらえるための生存手段として渡っているのですから、まさに現代のビジネスやキャリアには「渡り鳥」が必要なのではないでしょうか。


 大手でも進む副業解禁や積極的なオープンイノベーションはまさに「渡り鳥」の推奨であると言えます。副業や他社にはいずれも、自身や自社の強み・弱みをもとに、それが活きる企業や取り入れる知見・リソースを探っていくことが必要です。その過程で自らの振り返りや視座の高まりが自然と起こり、自社と自己を同一化して語れる人材へと育っていくこともあります。まさに群れを率いるリーダーとなっていきます。


 デンマークの哲学者であるキルケゴールは渡り鳥に関する次のエピソードを残しています。

 毎年晩秋の頃になると、鴨の群れは食べ物を求めて南へと旅立っていった。ある日、その土地に住む老人がその鴨の群れに餌を与え始めた。すると、その年から、冬になっても、その鴨の群れは南へと飛び立たなくなってしまった。飛ばなくとも食べ物にありつけるので、その太った鴨たちは飛ぶことすらしなくなった。そして、その老人が亡くなり、その飼いならされた鴨たちは、食べ物を求めて自分の翼で飛ぶ必要にやっと駆られたが、もはや飛ぶことはできず、全ての鴨が死んでしまったという。


 この話には、渡ることを忘れてしまった鴨は自身の力では生きられなくなってしまうという戒めが含まれています。この話に感銘を受けた1人に米IBMの二代目社長トーマス・ワトソン・ジュニアがいます。IBMでは「野鴨の精神」というメッセージとして語り継がれています。


 日本は長らく戦後の高度経済成長で完成された社会システムや組織システム、ライフスタイルの中で、言わば先人から餌をずっともらい続けている状態だと感じています。多くの企業や個人の方が「渡り鳥」的な価値観を評価し、自らの渡りを通して新たな餌場の発見や創出を行っていける世界の実現に向けて引き続き邁進していきます。


エッセンス株式会社

越境研修事業部 部長 島崎由真