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企業が100年活躍する人材を生み出すには?最新の事例から読み解くこれからのミドル・シニアのキャリア開発のあり方

人生100年時代と言われ、一つの企業で勤め上げることが当たり前でなくなりました。企業においては、ボリュームゾーンであるミドル・シニアの持続的なキャリア開発が急務となっています。


この度、日本型のあるべき新しいマネジメントを、企業間で一緒に考え発信していくことを目的に、ミドル・シニア向けキャリア研修支援などを行う株式会社ライフワークス、組織改革・人事制度などの人材マネジメントのしくみで組織の活性化を実現する株式会社アクティブ アンド カンパニー、他社留学やプロ活動など多様な働き方を提唱するエッセンス株式会社の3社が発起人となり、「人生100年時代の戦略的人事構想会議」を立ち上げました。


今回は、7月26日に行われた同会議の第1回目となるシンポジウム「企業戦略としてのミドル・シニアのキャリア開発とは~45歳から定年以降を見据えて~」の様子をリポートします。

「引退モード」を産む現行の人事制度

80名を超える企業の人事担当者が詰めかけ熱気があふれる中、冒頭は、法政大学大学院の石山 恒貴 教授より「45歳以降のミドル・シニアの活躍を考える」と題した基調講演が行われました。


石山教授はまずはじめに、数年後には労働力人口の3分の2が45歳以上になってしまうことや今年5月に政府が企業の70歳までの雇用責任について方針を示したことに触れ、企業は雇用にとどまらず、フリーランス・起業支援・NPOでの就業など、あらゆる働き方を視野に入れて、社員が一生働ける状況を作ることを考えなければいけなくなっていると指摘しました。


一方で、役職定年や定年再雇用という旧来型の日本型人事制度の中では、定年までの10年をやり過ごす「引退モード」に突入し、成長を止めてしまう事態を招いているといいます。

石山 恒貴 氏(法政大学大学院政策創造研究科 教授 研究科長、一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院経営情報学研究科修士課程修了、法政大学大学院政策創造研究科博士後期課程修了、博士(政策学))

一橋大学卒業後、NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。越境的学習、キャリア形成、人的資源管理等が研究領域。人材育成学会理事。
主な著書に『会社人生を後悔しない 40代からの仕事術』(共著)( ダイヤモンド社 、2018年)、『越境的学習のメカニズム 実践共同体を往還しキャリア構築するナレッジ・ブローカーの実像』(福村出版、2018年)、『時間と場所を選ばない パラレルキャリアを始めよう!』(ダイヤモンド社、2015年)、『組織内専門人材のキャリアと学習』(生産性労働情報センター、2013年)がある。


教授が共同で行った「40代・50代の方のキャリア・成長の実態調査」では、活躍できている人の行動特性を以下の5つの因子として抽出しています。

1.仕事を意味づける

2.まずやってみる

3.学びを活かす

4.自ら人と関わる

5.年下とうまくやる

この因子は、パーソナリティではなく行動特性のため、意識すれば短期間に変えることができるのが特徴です。


次に、活躍しているハイパフォーマー以外の4タイプについて、「バランスタイプ」「伸び悩みタイプ」「事なかれ・安全タイプ」「不活性タイプ」があるといい、中でも注目すべきは4割を占める「伸び悩みタイプ」です。この4割が最多数のため、ここが変われば劇的に会社が変わるのではないかという仮説が立つそうです。


40代半ばがキャリア意識の境目

ミドル・シニアのキャリア意識の変遷を見ると、40代前半~後半で大きな意識の変わり目があり「出世したいと思う人」と「出世しなくてもいいと思う人」の割合は42歳でクロスし「キャリアの終わりを意識するかどうか」も45歳でクロスします。


成長意欲に関しては、40代の半ばで、新しいことをしなくなる傾向があります。これには仕事が回せるようになった結果、努力しなくなる「過剰適応」と、部長になった後、役員にはなれないと気づいたときにやる気を失う「昇進プラトー」という2つの理由があると言います。これらを解消するには、常に新しいことを行っていくために裁量を増やしていくことが大切だと指摘しました。


役職定年の前に、どんな準備をしていたかと聞いた調査では、「キャリアプランを計画していた」と回答したのはわずか2割に留まります。


この調査から見えてくるのは、ポストオフが成功するためにはキャリアプランを再形成したり仕事について考えていくことが必要だということです。


具体的な躍進の行動をどう促していくかについては、冒頭でも伝えられた5つの因子が必要だと説きます。

自走力を高める、5つの行動特性「PEDAL」

1.まずやってみる(Proactive)

2.仕事を意味づける(Explore)

3.年下とうまくやる(Diversity)

4.居場所をつくる(Associate)

5.学びを活かす(Learn)

5つの行動を促すのは、裁量が与えられて責任ある仕事をやり続けられて、それを社会貢献に紐づけて、やりたいことがはっきりしているということです。上司は細かいことは指示せず、任せると良い結果が生まれます。


ミドル・シニアの役割創造がモチベーションに再び火を点ける

続いて、株式会社ライフワークス事業企画部長の野村圭司氏より、「今日的な人事課題に対するミドル・シニアのキャリア開発の取り組み」と題したプレゼンテーションが行われました。

野村 圭司氏(株式会社ライフワークス 事業企画部長)

1994年に株式会社パソナに入社し、営業企画部門でソリューションコンサルタントを務める。その後、ウィルソンラーニング・ワールドワイド株式会社にて採用・育成コンサルタントに転身。合わせてNPO活動等を通じて、「組織におけるキャリア開発」を自身の中心テーマと定め、2013年に株式会社ライフワークスに参画。大手企業を中心に、組織内キャリア自律支援およびダイバーシティ推進を中心としたコンサルティングを行っている。また、ミドル・シニアの新たなキャリア開発コンセプト「役割創造®」を提唱し、 キャリア転機に向き合い、活躍しているミドル・シニアや企業の取組みの取材活動及び役割創造プロセスモデルの開発に従事。


再雇用になってからのモチベーション低下が著しいという現状課題に対し、ライフワークス社では、働く個人が会社にぶら下がるのではなく、自律的にキャリアを描ける環境を企業が整えていくことが大切であると考え、「役割創造®」というコンセプトの下にミドル・シニアの方が今まで培ってきた経験をもとに既存領域・新規領域、社内・社外それぞれで、自らやりたいことに手を挙げていくという仕組みの創造を目指しています。


具体的な事例として、サントリーのTOO(となりのおせっかいおじさん)である三好さんを紹介し、役職定年後に会社に何か貢献できないかと考え、若手の相談相手を自ら買って出てやっていたところ、人事の目に留まり、全社的な活動に広がったことを挙げました。


企業で役割創造コンセプトを取り入れた事例として、あるメーカーでは公募ポストへの挑戦資格の年齢上限を廃止し、2名が管理職登用となったことを紹介しました。研修でキャリアの棚卸をし、コンセプトを見つけ、これからどういうキャリアを実現していくのかをミドル・シニアの方が自ら真剣に考えられたそうです。このように、自分ならではの価値を発揮して組織に貢献できるようにコンセプトをどう作り出すか。そんな新しい取り組みが始まっています。


年齢基準という思考停止を脱し、フラットな制度を構築する

株式会社アクティブ アンド カンパニーの常務取締役 八代智氏から「企業戦略としての『ミドル・シニアのキャリア開発』」と題したプレゼンテーションが行われました。

八代 智 氏(株式会社アクティブアンドカンパニー 常務取締役)

大手金融機関にて人事業務全般(人事企画・労務・給与・採用等)に従事するとともに、人事制度改革プロジェクトに参画。2000年より複数の外資系プロフェッショナルファーム(アンダーセン、KPMGコンサルティング、ベリングポイント、デロイト・トーマツコンサルティング)にて組織・人事領域のコンサルティング、人事領域の業務改善などに従事。現在は、組織・人事領域のコンサルティング(組織再編に伴う組織統合支援、人事制度構築など)を行うと共に、アクティブ アンド カンパニーのメインテーマである、組織活性化コンサルティングサービスの提供も行っている。


冒頭、シニアの人材活用が注目される中、シニアだから特別なことをやろうとするのは間違いで、どのような階層であっても適切な処遇ができて、働き甲斐が創出できていればイキイキ働いてくれるとの考えを示しました。


そのために必要であるのが、フラットな職位や雇用形態などにとらわれない制度構築だといいます。どの企業も若手には4つのRと言われる「リテンション(人材の維持」」「リカレント(教育)」「リバンプ(改善施策)」「レコレーション(配置転換)」を実施していますが、この観点でシニア世代に対しても取り組んでいる企業はほとんどないと言います。それは、多くの企業は出口戦略を考えずに、定年制に頼ってきたからです。


年齢基準による思考停止を脱し、経営者を中心に会社としてどうしたいかを議論しなければ始まらないと八代氏は強調します。その上で、方向性が決まったら全社にメッセージを発信する。そうすることで社員にも伝わる、と。


ミドル・シニアの方のモチベーションをダウンさせる原因は、主に「やりたい仕事ができない」「給料が下がる」の2つです。そこで、やりたい仕事ができるように選択肢を提示することが必要で、例えば、30・40代向けに行われているフリーエージェント制や社内公募制を50代にも適用することが可能といいます。やりたいことができれば給料は下がってもよいという方もおり、もう一つのモチベーションの源も担保できるというわけです。


賃金については、ある企業では、定年後の給与水準を基本給は下げますが、標準以上の評価を得られた方にはボーナスを上乗せして、定年退職前と遜色ない水準まで支給しているそうで、こうすることで、意欲がある方のモチベーションダウンを防ぐことができるのだそうです。


「関係社員の創出と獲得」がこれからの企業には必須に

エッセンス株式会社の代表取締役の米田瑛紀氏からは「人生100年時代における段階的な社外活動による人材育成のあり方」と題したプレゼンテーションが行われた。

米田 瑛紀 氏(エッセンス株式会社 代表取締役)

1996年に大学卒業後、地元広島にて人材ビジネスを行う企業に入社。2000年に人材アウトソーシングの専門会社に創業メンバーとして参画、営業責任者に就任。9年間で20億円を売上げる組織の成長に貢献。2009年エッセンスを設立。専門分野に特化したビジネスのプロフェッショナル人材と成長企業とのマッチングにより、企業の経営課題解決に取り組む。2017年2月に他社留学事業を立ち上げ、大手企業社員をベンチャーに留学させる人材育成事業にも取り組んでいる。2017年10月に経済産業省「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」委員に就任。


冒頭、ミドル・シニアの方に限らず、「人材を雇用する」体制から「活用する」という考え方への転換が必要と説き、これからの企業の人材活用のカタチとして「関係社員」という考え方を示しました。これは、雇用関係にはないが、外部人材として事業に関わる方を指し、関係社員を早期にいかに増やしていくかが重要になると指摘しました。


個人にとっても、自分のスキルを自社以外で試し、新しい働く選択肢を知ることで、長期的なキャリア形成の足掛かりにできるというメリットがあります。1社しか知らずに定年や早期退職を迎えるミドル・シニアの方は、恐怖を感じ、自信がなく、結果として会社に依存したりしがみつく構造になっているといい、早期に社外でも自分の力が通用するということを体験し、自信をつけることが大切と説きます。


同社の他社留学はまさにこの機会を提供しており、「他社での腕試し」「異文化の中での協働の機会」「課題を発見し、アクションに繋げる機会」「他社からのフィードバックによる自己理解」の4つの機会を提供しています。


導入の事例として、東京電力の方がベンチャー企業のフロンティアコンサルティングのプロジェクトに参画されたケースを挙げ、東京電力の社員の方によれば、経営層から「とにかく価値を出そう」という意識が感じられ、ベンチャーの中で勝っていくための成長意欲が高く、顧客に選んでもらうことの大変さも感じたという言葉を紹介しました。


このように、他社留学は、今まで培ってきたスキルを活かした社会貢献活動であり、報酬を伴わず、副業規定にも触れず、NPOのように意義のあることなので、一歩踏み出しやすいサービスであると主張。100年続く人と企業を作るには、関係社員の創出・獲得が非常に重要だと締めくくりました。


ミドル・シニアのモチベーションのスイッチとは?

その後、登壇された4名のパネルディスカッションでは、会場に集まった企業の人事担当者から、活発な質問が相次ぎました。


最初の質問は「モチベーションの低い方の心を動かすにはどうしたら良いか?」


八代氏からは、モチベーションは自分でしか入れられない、そのスイッチをどう入れるのか、どう寄与するのかが企業に求められると指摘し、「できることは機会提供だと思います。選択肢を準備し、本人が選ぶ。自分が選んだものは一番モチベーションも上がります」と話しました。


米田氏はプロボノの事例を挙げ、自己肯定感もなく自信喪失していたシニア人材が、ある日本酒の酒造を復興させようという社会課題に取り組むベンチャー企業に挑戦し、お酒好きを社長から買われ採用になったと紹介しました。これに対し、石山教授は「自己肯定感が低くなっているが、プロボノに一歩踏み出したら意外に評価されて自信がついたということですね」と意義を語りました。


続いての質問は「ポストオフと定年の違いとは?定年再雇用制度の導入時の課題は?」というもの。


野村氏は「ポストオフというのは役職定年と定年再雇用の時に役職がなくなるということ」と答え、その上で「役職定年はビジネスパーソンにとっては大きな転機なのですが、その前に考えるということが非常に難しい」と指摘。制度の周知と予期をさせるということが大事であり、制度を入れるということはその後のパッケージも併せて考えるということが必要であると強調しました。


八代氏は「ポストオフは基本的には雇用契約を見直すことはしませんが定年は雇用関係を見直します」と回答。加えて、「ポストオフの時にどの程度の給料の引き下げができるのかということについては、ポスとオフを行った時に外れる仕事の量で決めるというのが一般的」との考えを示しました。しかし、「実際の現場では定年前と何も変わらない仕事をしている方も多く、モチベ―ションの低下につながっているケースが非常に多い」ことも指摘しました。


「社員に対して外部転身に目を向けさせるポイントとは?」という質問に対しては、米田氏は「20代の後半~30代の早い段階で、どこでも通用するスキルを持つことが大事だということや、自分の培ってきた知恵や知識が違った環境でも活かされるのか、評価されるのかを体感させるということが大事」で「企業としては、一番活躍してほしい、会社のことだけを見てほしい時期だと思いますが、あえてこの時期に考えてもらうことが非常に大事です」と話しました。


自社と日本全体の人材活躍を見据えて

最後に参加者へのメッセージが送られました。野村氏からは「ミドル・シニアの課題は簡単に解決できないと思いますが、安易な選択をしてほしくないと思っています。自社から出すのは簡単かもしれないですが、日本社会全体を考えた時に人材の質全体が低下していきます。需給バランスを考えると、社内で活躍できる仕組みを考えていく必要があると思うんです」と語りました。


八代氏は「シニアの領域に限定した話ではないのですが、今の日本は、セーフティネットに溢れすぎていると思います。本当の意味での危機感が醸成されていないと感じています。本当は安全ではないことはみなさん分かっているけど動けていないということです。だからこそ、みなさんと一緒に新しい考え方を作っていきたいと思っています」と語りました。


米田氏からは「3年、5年経つのはあっという間で、すぐに50歳を迎えてしまします。だからこそ、本当に早いタイミングで他社でも通用するという体験がものすごく必要だと思っています。リスクもありますが、一歩踏み出すようなことを会社がオープンに後押ししてあげることが必要です。そのことによって、大きな気付きと出会いが生まれる方が増え、日本全体にも良い活力が生まれます」と結びました。


イベントの全体を通して、会場からは今後迎える高齢化社会に向かい、ボリュームゾーンとなるミドル・シニアをどう活性化させるかという事について、強い問題意識とその出口を探す社会の姿が浮かぶあがった印象でした。今までのように、早期退職の促進だけでは問題の根本的な解決にならず、どのようにして長く社会に価値提供をしていく人材を創り出していくかは、重要な課題でありながら待ったなしの状況になってきている現場が、このシンポジウムに集約されているのだと感じました。

今後もこの大きな潮流と、出口に模索について戦略的人事構想会議には期待していきたいです。


【イベント概要】

日時:2019年7月26日(金)14時~17時

会場:日本橋ライフサイエンスビルディング

プログラム内容:

基調講演「45歳以降のミドル・シニアの活躍を考える」

  法政大学大学院政策創造研究科 教授 研究科長

参画企業の取り組み紹介

事例①:今日的な人事課題に対応するミドル・シニアのキャリア開発の取組み

株式会社ライフワークス 事業企画部長 野村 圭司 

事例②:企業戦略としての『ミドル・シニアのキャリア開発』

株式会社アクティブ アンド カンパニー 常務取締役 八代 智 

事例③:人生100年時代における段階的な社外活動による人材育成のあり方

エッセンス株式会社 代表取締役 米田 瑛紀 

パネルディスカッション『100年時代に求められる人材と、必要な人材マネジメントとは』

コーディネーター:石山 恒貴 氏

パネリスト:野村 圭司 ,八代 智 ,米田 瑛紀