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WORK MILL

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働き方改革の議論に求める「持続可能性の高い働き方」という視点

9月に創刊した「WORK MILL with Forbes JAPAN ISSUE 01」のWRAP UPにおいて、日本の働き方改革に求められるポイントとして「イノベーションを生み出す働き方」と「持続可能性の高い働き方」の2点について触れました。編集を進めるにつれ、後者の「持続可能性の高い働き方」こそが、働き方のデザインには極めて重要であり、欠かせない要素であると感じるようになりました。おそらく、働き方改革の議論に沸く現代の日本において、議論の枠組みや方向性をわかりやすく設定するキーワードになりうるのではないか。今回はその持続可能性の高い働き方について考察してみようと思います。

※WRAP UP:マガジンの要約ページ。「WORK MILL with Forbes JAPAN ISSUE 01」ではP102〜P103。

そもそも持続可能性とは何か

持続可能性(サステナビリティ:Sustainability)という言葉が、単語固有の意味を超えて特定の意味を持って世の中に登場し始めたのは1980年代後半に入ってからのこと。世界的に環境問題が深刻化し、資源が有限であること、地球環境は人間が意識して守らなければ維持できないことの危機感が共有されて、1987年の「国連環境と開発に関する世界委員会」においてブルントラント報告として問題提起されたことが大きなきっかけです。京都議定書やリオ・デ・ジャネイロで開催された国連環境開発会議など、その後続いた様々な国際的な協議の枠組みで、一層注目されるキーワードになりました。 最近話題になっているのは、2015年に国連サミットで採択され、2016年1月に正式発効した「持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)」でしょう。

SDGsに関連したセミナーやワークショップが日本各地で開催されており、注目度が高まっています。従来はニュースの中だけの言葉であり、公共政策や環境問題を手掛ける一部の人だけの関心事であったこのテーマが、企業の社会的責任(CSR)の認識の広まりもあり、一般的に拡散していることに時代の変化を感じます。カラフルなピクトデザインもあって、広く問題意識が浸透しやすいのだと思います(このデザイン、言語を超え、識字率の問題にも対応するためのものと推測しますが、こうしたデザインが果たす役割は決して小さくないといえますね)。

SDGsのロゴ (出典:国際連合広報センター

この通り、持続可能性という言葉は環境と開発に関する議論の中で主に取り扱われてきた用語ですが、人間活動に広く適応される用語として捉えることが可能です。持続可能性の高さを議論するポイントは、①資源が有限であるという認識と、②次世代への循環を健全に生むことができるかの二点。有限である資源を採掘し尽すことや、次世代への循環を生まない人間活動は持続可能性が低いということになりますから、そういった観点で問題を抱える働き方は、持続可能性が低いと表現されることになるでしょう。このままの働き方で自分も組織もこの先もやっていけるのかどうか、特に次の世代のことも視野に入れて長続きする働き方なのか、と考えれば理解しやすいかもしれません。

日本の働き方における持続可能性の現状

そう考えると、現代の日本の働き方は持続可能性が極めて低いと言わざるを得ないでしょう。労働資源が有限であるということへの対応が遅れていますし、次世代への循環を生むという点でも問題が少なくありません。労働人口は1995年をピークに毎年数十万人という数値で減り続けていることからも、労働資源は枯渇に向かっているといえます。 日本の労働問題の代表的課題である長時間労働ひとつをとってみても、持続可能性の低さを指摘できます。OECDのデータによれば日本の2016年の年平均労働時間は1713時間。この値はOECD加盟諸国の平均値1763時間よりも低い数値であり、一見良さそうな値ですが、ドイツやフランスといった国々と比べても20%程度長時間働いており、先進国の中では長時間労働の部類から脱却していません。さらに他の主要先進諸国と比べても時間当たり生産性が圧倒的に低い。成果の出ない働き方で、長時間拘束されているのが日本の働き手です。長時間勤務で十分に疲れがとれないまま、翌朝の満員電車に揺られて出社する。資源の回復より速いスピードで消耗が進んでいるとも言えそうです。

また、夫の休日の家事・育児時間と第2子以降の出生状況には正の相関がみられることが、厚生労働省の調査で知られています。長時間労働が当たり前の労働慣習となってしまったことは、少子化対策という次世代の循環に寄与する施策を有効に打ち出してこなかったツケが回り、労働人口だけでなく日本社会そのものが急速に収縮する流れが起こり始めています。このままの働き方で将来やっていけないのは自明の理です。 長時間労働である、非正規雇用が多い、というだけではなく、子育てをしながら働く女性たちは特に多くの不条理にさいなまれています。いくら優秀で成果を残していても、時短勤務であるだけで、正当な評価を受けられないケースを私自身幾例も目の当たりにしてきました。本来であれば短時間で成果を出している有能な女性たちですが、現状の観衆の中で我慢したり、割り切ったり、あきらめたりしながら日々冷却されている状態です。

また、日本の企業は新卒一括採用によるメンバーシップ雇用であり、入社してからローテーションを繰り返し、職能を高めていく雇用形態が一般的です。内定時から入社当初の研修を共に乗り切り、同じ釜の飯を食う関係の同期社員とのつながりは強固なものになるだけでなく、在籍年数の経過とともに社内に人的ネットワークを豊かに構築するようになります。つまり、一つの会社に長く在籍し続けた方が、人的資産を有効活用して成果を残しやすくなるわけです。これは会社が長期に雇用を保証している時代はよかったかもしれませんが、安定的と言われていた業界や企業であったとしても、急激なビジネス環境の変化によって危機に瀕する可能性がゼロではありません。そうした際に、社内でしか通用しないような職能しか持ちえず、キャリアの積み上がり方が弱い状態で次の職を探すのは容易なことではありません。これは、個人の働き方やキャリアの持続可能性が低い、という表現が出来そうです。

有限な人的資源に十分なケアがなく、健全に次世代を生み出して循環を生むことに配慮されていない。また無理や我慢が前提の上で成り立つような現代の日本の働き方は、持続可能性において大きな問題を抱えています。

コワーキングスペースにおける持続可能性の高さ

筆者はコワーキングスペースやコワーキングという働き方が、日本企業・組織の硬直化したコミュニケーションや前例主義的なビジネスの進め方に風穴を開けるのではないかという確信のもと、2012年から継続的にリサーチしてきました。思い返せば1999年の新卒入社一年目の若手社員懇談会でのこと。一期上の先輩社員が事業部長に対して「職場の閉塞感」という問題提起をしました。この言葉がずっと頭にこびりついていて、なんとかこの状況を打破したいという気持ちをずっと持ち続けています。これこそが筆者自身の働き方改革へのモチベーションであり原動力です。 とはいえ当時は20世紀から21世紀へ移り変わる時期。まだビジネスの持続可能性が高かったため、おそらくあまりこの言葉の持つ重みがしっかりと理解できていなかったのですが、その後ITの進歩やライフスタイルの変化によってビジネス環境は世界中を巻き込みながら大きく変化。多くの企業や組織において、新しい事業のアイデアの社内議論はすでにやりつくし、まさに閉塞感のある状況を迎えていると想定されます。早稲田大学ビジネススクールの入山先生が紹介しているように、新しい知と知の組み合わせであるイノベーションの源泉は「知の探索」。そのためには、今いる環境から如何に遠い場所で未知の多様性に触れていくことが必要になりますが、オフィスにはない多様性に触れられるコワーキングスペースはまさに最適な場所と言えます。会社が継続的に新しい価値を生み出していけることこそ、ビジネスの持続可能性を高めていくことにつながります。

そして、個人のキャリアにおいてもコワーキングスペースは有益です。人生100年といわれる時代において、初めに入社した会社のみで最後まで勤め上げる人の数も減っていくことでしょう。また企業の側においても、不確実性の高いビジネス環境においては、最後まで従業員の面倒を見きれないというケースが増えてくることも予想されます。自らのキャリアを設計し、いくつかの企業や職種を渡り歩きながら生き抜いていくことが今よりも当たり前の光景になるでしょう。コワーキングスペースでの出会いやそこで培われた信頼関係は、もしかしたら次の就職先になるかもしれないし、起業パートナーになるかもしれない。さまざまな多様性に触れておくことは、キャリアにおいてのセーフティネットにもなるはずです。 そのためにも、日本の組織人は自分とは何者かをしっかり表現できる訓練が必要でしょう。メンバーシップ制雇用の環境においては、転職をしない限りこのことをあまり意識せずともやっていけますが、コワーキングスペースでの交流は、自分の仕事やキャリアを表現しないと始まりません。自分の専門性やビジネスの概要を話すことが出来て初めて、そこで働く多様性との交流が叶うことになる。この点、オランダのコワーキングプラットフォームであるSeats2Meetの仕組みはよくできていて、自分のスキルや専門性を登録することで施設の利用ができるようになります。専門性を持った個人が交流を通じてお互いのビジネスを支えたり、助け合ったりすることで、新たな価値やビジネスの推進力を生む。こうしたことも、組織や個人の働き方の持続可能性を高めることにつながります。

働き方改革に持続可能性という視点を

上述したSDGsの目標を読み解く中でディーセントワークという言葉が登場します。「働きがいのある人間らしい仕事」という意味のこの用語は、1999年6月にILO(国際労働)の総会に提出された事務局長報告において初めて用いられ、21世紀のILOの活動の主目標と位置付けられました。筆者はまさにこの1999年に社会人になりましたが、この言葉自体を当時の職場で聞くことは全くありませんでした。おそらく多くの日本企業において、同様な状況だと思います。もちろん世界には日本よりはるかに劣悪な環境で生き、働かざるを得ない人もいることは事実。そうした国とは根本的に違うもの、果たして日本の職場で「働きがいのある人間らしい仕事」をしている人がどれだけいるでしょうか。

自らの働き方をどうとらえ、どう変えていくのか。現代日本が抱える「働き方」という大きな議題に持続可能性という視点を持ち込みたいというのが本レポートの提案です。今の議論をさらに前進させるためにも、この視点が大きな意味を持つのではないかと強く思います。 雑誌の次号以降も引き続き、またWEBマガジンにおいても、この持続可能性の高い働き方というテーマを自分の中に軸として持ちながら、各地を見聞しながら様々な人の知に触れていきたいと考えています。

■参考資料

SDGs:国際連合広報センター 
公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較 2016年版」 
Employment – Hours worked – OECD Data 
厚生労働省「第14回21世紀成年者縦断調査(平成14年成年者)」(2015年)

2017年12月13日更新

 

テキスト:遅野井 宏
写真:遅野井 宏