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LGBTQ+の働きやすい環境づくり アメリカ先進企業4社の取り組みと特色は?

毎年6月はプライド月間なこともあり、今年の6月も各企業のウェブサイトやSNSアカウントのポストやアイコンなどが虹色に染まった。様々な世代に影響を与えることのできるグローバル企業がSNSで啓発することでLGBTQ+に対する一般の意識は大きく変わるだろう。しかし、6月が過ぎればアイコンも元通りになる。

毎年6月が過ぎてしまのが寂しいと思いつつ、LGBTQ+というマイノリティグループに対してSNSのアイコンを虹色にする以外に、どんな取り組みがなされているのか気になっていた。

ジェンダーマイノリティーが自分らしくオープンにいられる環境を作るため、企業はどのような努力や工夫ができるのか?今回はヒューマン・ライツ・キャンペーン財団(HRCF)が毎年発行している「企業平等指数」(CEI)の数値を基準にLGBTQ+フレンドリーと言われているアメリカ企業がどのような取り組みをしているのかを紹介したい。

CEIとは、米国内外の企業がLGBTQ+の従業員に対して公平な職場方針、慣行、福利厚生をどのように採用しているかを示唆する数字であり、そのデータが毎年公開されている。CEIで高い数値を出すことは企業にとって非常に名誉なことであり、ワーカーにとっても、消費者にとっても、企業を評価する上で重要な指標ともなっているのだ。ここでは指数の高い企業を中心に取り上げ、どのような取り組みやポリシーが最も理想的であるかを考える。

Adobe

Adobeは全米でも最もLGBTQ+フレンドリーな会社の一つとして知られており、今年のCEI調査では “Best Place to Work” for LGBTQ (LGBTQにとって最も働きやすい場所)リストにランクインしている。以前から7年連続百点満点のスコアを取るなど、高く評価されており、同社がいかに積極的にLGBTQ+の立場向上に尽力しているかがわかる。

Adobeの評価すべき特徴として、社内における環境づくりだけでなく、社会全体のLGBTQ+コミュニティーに目を向けていることが挙げられる。

社員で構成された「AdobeProud Employee Network」 と呼ばれるLGBTQ+のコミュニティーのメンバーとアライのためのネットワークが、地域イベントへの積極的な参加をすることで、社外のLGBTQ+コミュニティとAdobeの橋渡し役となっている(アライとは、自分はLGBTQ+ではないが、コミュニティに理解があり、支援している個人のことを言う)。プライド月間に限らず、社員のパネルディスカッションやゲストスピーカーの招待、LGBTQ+の慈善団体や支援団体へのサポートなど、年間を通じて、権利保護とリテラシー向上を行う。

具体的には、毎年地域の非営利団体への寄付や団体でのボランティア活動が挙げられる。Adobeならではなのが、非営利団体に向けてのAdobeの技術やソフトの使い方についての無料講座。更にデザイン、マーケティングなどの専門知識も提供している。金銭面だけでなく、技術、専門分野での潤沢なサポートもAdobeの活動の特徴の一つだ。なお、ボランティア活動はLGBTQ+関連の団体に限らず、活動やミッションがAdobeのポリシーと合致する非営利団体全てが対象である。

Calvin Klein (PVH Corporation)

アパレルブランドCalvin KleinやTommy Hilfigerなどの親会社であるPVHは今年、6年目となるパーフェクトなCEIを獲得した。Calvin Kleinでは社外に向けた活動がより目立つように感じる。これは特に若い世代に広く親しまれているアパレル大手として、大きな発信力をうまく活用したものだ。事実、同社ではLGBTQ+支援の活動として消費者向けのキャンペーンや商品を通じたものが多い。

今年から始まった「This is Love」キャンペーンではLGBTQ+コミュニティーのインフルエンサーたちがCalvin Kleinの最新のプライドコレクションのモデルを務めた。新しい家族の価値やあり方に焦点を当て、コミュニティーに存在する絆が主な内容となっている。コレクションは、洋服、下着、アクティブウエアにまたがり、プログレス・プライド・フラッグにインスパイアされた配色が特徴だ。更にタグにはそれぞれの色にどんな意味があるかも記載されており、形だけでなく内側から人々の意識を変えようとする工夫が見られる。LGBTQ+コミュニティーのメンバーとして知られるインフルエンサーのモデル起用などはアパレルならではであり、メディアを活用したドキュメンタリー型のキャンペーンは見ている者の心に刺さるものがある。こうして若い世代にフォーカスを当て新しい時代のあり方について問いかけることは非常に意味のあることではないだろうか。

また、Calvin Kleinは今年だけでLGBTQ+関連のNGO団体に総額40万ドルの寄付を行なっており、コミュニティーの若い世代のための世界最大の自殺防止・危機管理組織であるトレバープロジェクト(The Trever Project)や、国際レズビアン・ゲイ協会(ILGA)、PFLAGナショナル (PFLAG National)、トランスジェンダー法律センター(Transgender Law Center)などの団体と提携し支援を続けている。

American Airlines

社会活動も手広く行う前述のAdobeとは対照的に、American Airlinesは特に社内に焦点を置き、LGBTQ+エンパワーメントに尽力している。そしてその努力は20年連続100点という突出したCEIに顕著に反映されている。

2022年度版のCEI調査にはアメリカ全土から1,271社が参加しており、そのうちの6割、800社以上が100点の評価を貰っている。これだけ聞けば非常に多く感じるが、全米にはおよそ1000万の企業があることを踏まえると100点を取ることがいかに狭き門かがうかがえる。

American Airlinesは大手航空会社としては非常に先進的であり、業界では初めて(同社調べ)の取り組みを積極的に行なっている。例えば、米国の大手航空会社の中で同性パートナーがいる社員への福利厚生を実施(2000年)したのはAmerican Airlinesが初めて。LGBTの従業員の同性パートナーに、同等の健康手当と旅行手当などを提供している。また大手航空会社として初めて、性的指向(1993年)と性自認(2001年)の両方を職場の差別撤廃方針に盛り込んだ。更に会社公認のLGBT社員支援団体を設立したのもAmerican Airlines。1994年に結成されたGLEAM(現在ではPrideと呼ばれる)の使命は、経営陣と協力し、アライや他の従業員グループに働きかけ、会社のすべての方針とプログラムにおいて公正、受容、多様性の原則を取り入れることである。

注目すべきはFortune100社で初となる試みで、LGBTQ+コミュニティーのメンバーのみで作られた、全米マーケティング・セールスチームの設立。The Rainbow TeAAmと名付けられたこのチームでは、国・地域のLGBTQ+コミュニティー関連団体と連携するトラベルスペシャリストが、旅行のニーズや特典を専門的に扱う。American Airlinesのみならず特定のマイノリティグループからだけの採用には賛否両論あるものの、個人的には1994年にこのアイディアが採用されたという事実自体をポジティブに評価したい。また、こういったチームがあるという事例が、マイノリティーにも虐げられず、自分らしくいられる場所は存在するという事実の体現にもなっているだろう。

社外活動に関しても、American Airlinesは全米のLGBTQ+の立場改善の兆しに大きく貢献している。同社は全米における複数のLGBTQ+コミュニティーをサポートする団体や連合の創立メンバーであり、サプライヤーダイバーシティプログラムを実施する、アメリカ唯一の航空会社でもある。他にも、全米のLGBTQ+関連の団体への寄付も多々行なっており、CEIが20年連続してパーフェクトなのも納得だ。

IKEA U.S.

American Airlinesに続いて、こちらも複数年連続100点満点中100点のCEIを獲得しており、全米でも有数のLGBTQ+フレンドリーな会社として知られている。

IKEAでは社内におけるLGBTQ+の従業員のための配慮や工夫が素晴らしく充実しており、様々な面でその努力が垣間見える。まずLGBTQ+の従業員とその家族に配慮した保険プランが充実しており、一般的な補償や手当の他に養子縁組、性自認に悩む人のためのカウンセリングや性転換手術の一部を負担してくれる。手術だけでなくカウンセリング料も負担してもらえるのは嬉しいところ。こういった事柄は当事者でないと分かりづらいがあったら嬉しい手当や配慮が十分に行き届いているところにCEI100点の秘訣があるのだろう。また、すべての社員が性的指向や性自認に関する無意識の偏見に気づき、その偏見を減らすための行動を学べるよう、LGBTQ+インクルージョンに関する徹底したトレーニングも常時行なっているようだ。更に興味深いのはLGBTQ+という大きなコンセプトからフォーカスを狭め、トランスジェンダーに特化したトレーニングとガイドラインを設置しており、ここにも誰も取り残されないようにする工夫が見える。

IKEAならではの取り組みなのはプライド月間限定商品の一部売り上げをLGBTQ+支援団体に寄付するというもの。#ProgressIsMadeキャンペーンの一環として行われているこの活動はPride Monthである6月1日〜30日の期間で行われる。レインボーカラーのキャリアバッグなど特定の商品の販売ごとに小売価格の30%をGLSEN, Inc.と呼ばれる団体に寄付する。この団体は幼稚園から高校までの学校において、LGBTQ+コミュニティーのインクルージョンを支援する団体であり、このパートナーシップは非常に意味のあるものだと言える。

インクルーシブな職場・社会づくりへ

以上、CEIの高い企業が社内外のLGBTQ+コミュニティーの社会的立場の向上のためにどのような工夫や取り組みをしているかを取り上げた。各社を比較すると、団体への寄付だけでなく、事業の特色を上手く生かした能動的な活動やサポートが多くあることが分かる。より良い社会に変えるために、どの企業も自分達にしかできない取り組みを検討、実施しながら真摯に向き合っているように感じる。また、そういった姿勢が企業へのグローバルな人気や信頼に現れていると思う。

私たちは、日々の生活や仕事の中で、多くの人々が自分を自分らしく表現できない悔しさや苦しみになかなか気がつくことができない。しかし、大きな企業が非営利団体や個人を支援しているという事実は多くのマイノリティーにとって大きな勇気となる。また、多くの企業でLGBTQ+についての講習会やトレーニングについても行うことは、これまでコミュニティーに関わりが無かった人々が知らずのうちに誰かを傷つけないように、また取り残されないようにするための工夫でもある。今回紹介した企業の取り組みを知ることで、少しでもインクルーシブな職場、社会づくりの重要性を感じ、インスパイアされて欲しい。

2022年8月更新

執筆=松尾舞姫
編集=山田雄介・猪瀬ダーシャ/オカムラ