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働き方研究者がおすすめするビジネス書 ―『マイノリティデザインー弱さを生かせる社会をつくろう』

はじめに

「働く」に関する社会の関心・課題は時代とともに変化し続けてきました。近年、日本では働き方改革が大きなテーマとなり「生産性の向上」を求め、いまやパンデミックをうけて改めて「安心、安全」が見直されています。社会で起きている変化と、働く人々やライフスタイルの在り方を見つめながら「働き方」を考えていきます。

働く場においてもオフィスだけでなく、私たちが生活する空間すべてにおいて、健康でいきいきとした人間らしい働き方や過ごし方ができることが、今の時代に問われています。この連載では、これからの働き方や働く場を語るうえで参考になる書籍を「働き方」の研究者が選定し、ご紹介します。 

『 マイノリティデザインー弱さを生かせる社会をつくろう』

澤田智洋
発行 ライツ社 2021年 3月

この本のおすすめポイント

マイノリティとは何か、そして一人ひとりの可能性について考えさせる

  • 「弱さ」は社会の伸びしろ。弱さが持つ「新しい強さ」を教えてくれる
  • 「成長する生態系(仲間)」づくりが解る
  • 「いい仕事をしたい」という願いが叶う働き方が理解できる
  • 「何をやるか」と「何をやらないか」の両方が大事なのはなぜかを教えてくれる
  • 自分が居心地のいい仕事場所を得るためのヒントが解る

「はじめに」では、著者が広告会社に新入社員として入社。その後10年余り経ち、仕事も順調、家庭を構えて初めての子供が生まれるのです。しかし、生まれて3か月目に息子の目が見えないことがわかります。この時の親としての思いが切々と書かれていて胸が締め付けられます。しかし、著者はその苦悩を乗り越え、息子と多くの身体障がい者たちに希望の光を当てる活動を、広告マンとして福祉の仕事でできないか模索し始めます。

著者は、多様なマイノリティ(障がい・コンプレックス・弱さを持った人びとと法人格など)が多く存在していることに気が付きます。そして、「少数派」のもっている「弱さ」を可能性のある「社会の伸びしろ」として認知し、社会の全ての少数派と思える人や企業への支援を「弱さから、社会を良くする仕事がしたい。」と、仕事(広告)を活かしてつかみ取っていこうとします。

人は誰しも「いい仕事をしたい」と夢や希望を持って社会で働き始めます。しかし、仕事に慣れてくると忙しさと慣れから自分に都合の良い働き方へとなびいてしまいがちです。世界満足度調査では日本の順位は35カ国中最下位、仕事が忙しくても「やりがいを感じていない」のです。著者はそんな現状に打ち勝つ新しい働き方を模索しながら社会とともに生きていく、そんな働き方の事例を紹介しています。

新入社員の時には100%仕事中心、3~5年たった頃は会社50%・自分50%そして15年たった現在は会社○○%・自分○○%・家族○○%・友人○○%と働き方の比重を紹介。意識して生活のバランスを考えていないと、気が付いた時には偏った働き方の現状に満足してなんとなく生きていた、という事になりかねません。著者は自分の人生の意味をしっかり考え広告業界の秒単位のTVCM(10秒から15秒のCM)ではなく、社会活動としての生態系(成長するメディア)を構築しようと提唱しています。

「もっと、仕事で得た力を、みんなが自分の人生と接続できたなら…働き方に大変革が起きるんです。」と提案。それが少数派に目覚めた著者が提唱する「マイノリティデザイン」というコンセプトのひとつです。

本書の第5章ではマイノリティデザインの作り方を詳しく紹介、「秒単位」の仕事と成長していく「生態系」的な仕事の違いを解説。どのようにして「生態系」を作って行ったら良いのか、プロのコピーライターとして、分かり易い言葉で詳しく実践的に説明しています。

そして最後に、コピーライティングが持つ新しい可能性として『人ではなく、言葉にリーダーシップを持たせる』ことができるようなプロジェクト目標が人をつなげると説明し、形ばかりの「フラット組織」ではなく、新しい組織意識を持つことにより「成長する生態系」としての組織を提案しています。

『 マイノリティデザイン ー弱さを生かせる社会をつくろう 』の読後感は?

本書は目の見えない息子を持つ親の気持ちと強い愛が感じられます。

筆者は、自分が経験した挫折と苦悩から自分の人生を見直し、息子の為に何ができるか考えるうちに、多くの「マイノリティ」の存在に気が付きます。そして役に立てる事があればと自分の得意な広告の仕事を通じて福祉活動に貢献、それを人生の励みとしています。

障がい者の社会参加や福祉の世界は、一般の人には理解されないことがあり、障がい者や少数派の人自身もいろんな葛藤があるようです。事例紹介では障がい者や少数派の人びとの話を聞き「『弱さ』が見方を変えると新しい価値になる」と気がつき「見方を変える」ことが自分にできる得意なことを生かせることだと発見します。 このように福祉を仕事に置き換え自分の得意分野(広告業)を生かせないか思考錯誤します。

本書でこのようなことを知り、見ていて大変と思うだけでなく自分たちの仕事の得意分野も福祉活動に活かせることがないのか、もっと多くの人の「弱さ」を「強さ」にかえる社会つくりに貢献できるのではないかと思いました。

著者プロフィール

ー田尾悦夫(たお・えつお)
株式会社オカムラ ワークデザイン研究所 研究員。企業のオフィスや金融機関店舗のスペースデザインを長年、現場中心に携わり、クライアントと一体となる空間づくりを心掛け、支援する。その後、オフィス構築のノウハウを生かし、人々の「モチベーションやウェルビーイング」を主軸にこれからの「働き方」の研究に従事。 また、研究活動の傍ら「オフィス学会」、「ニューオフィス推進協会」、「日本オフィス家具協会」など多くの関係団体で研究や教育研修、関連資格の試験制度の運営にも携わることで、業界全体の啓蒙活動にも積極的に活動している。 

2022年4月21日更新

テキスト:田尾悦夫(オカムラ)
イラスト:前田豆コ