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【クジラの眼-未来探索】 第8回「ウィズコロナ/アフターコロナの働く場の変化とは? 」

働く環境、働き方の調査・研究を30年以上続ける業界のレジェンド、鯨井による”SEA ACADEMY”潜入レポートシリーズ「クジラの眼 – 未来探索」。働く場や働き方に関する多彩なテーマについて、ゲストとWORK MILLプロジェクトメンバーによるダイアログスタイルで開催される“SEA ACADEMY” ワークデザイン・アドバンスを題材に、鯨井のまなざしを通してこれからの「はたらく」を考えます。

―鯨井康志(くじらい・やすし)
オフィスにかかわるすべての人を幸せにするために、はたらく環境のあり方はいかにあるべきかを研究し、それを構築するための方法論やツールを開発する業務に従事。オフィスというきわめて学際的な対象を扱うために、常に広範囲な知見を積極的に獲得するよう30年以上努めている。主な著書は『オフィス事典』、『オフィス環境プランニング総覧』、『経営革新とオフィス環境』、『オフィス進化論』、『「はたらく」の未来予想図』など。

イントロダクション(オカムラ 垣屋譲治)

今回のSEA ACADEMYは、「ウィズコロナ/アフターコロナの働く場の変化とは?」をテーマとし、オカムラが5月に発行した「アフターコロナにむけたワークプレイス戦略」をベースに、アフターコロナの働く場を見据えながら、直近のウィズコロナのフェーズで何が求められているかを考えていきます。

オカムラではコロナの状況と働く場の関係を、緊急事態宣言下の「エマージェンシーコロナ」、宣言が解除された今の状況を指す「ウィズコロナ」、ワクチンや特効薬が普及されたのちの「アフターコロナ」の3つに分けて考えています。

8割の人が出社しなかったエマージェンシーコロナの状況が終わり、ウィズコロナである今は出社率5割がひとつの目安です。そしてアフターコロナに向けて、在宅勤務などの柔軟な働き方を取り入れながら出社する人の割合を段階的に増やしていく。そうした考え方が必要だと私たちは考えています。

プレゼンテーション1(オカムラ 多田亮彦)

ウィズコロナの中で起きていること

多田:柔軟な働き方が今後普及していくことを前提にして、ウィズコロナの中で今起きている状況を見ていこうと思います。

New Normalとしての在宅勤務

GAFAなど市場をリードする企業の在宅勤務許容状況を見てみると、グーグル、アマゾン、フェイスブック、マイコロソフトでは10月あるいは年内は在宅勤務できる人にはそれを認めていますし、ツイッターにいたっては永久にOKを出しています。アップルでは柔軟な働き方をするよう管理者に指示がくだっています。こうした状況を見聞きすると在宅勤務が常態化することを予感せざるをえません。

家族と仕事、新しい在宅勤務ポリシー

在宅勤務の強制が長期化する中で、家族と仕事の新しい関係が生まれ、在宅勤務ポリシーも日々更新されています。また、私たち自身の感性や価値観にも変化が生じていて、例えば、オンライン会議に自分の子供が参入するといった、以前では考えられないことが今起きている。これまでもライフワークインテグレーションが重要だと語られてきましたが、それが新しい次元に進んでいることを感じさせられますし、そこには新しい雇用契約などの仕組みが必要になっていくのではないでしょうか。

リモートネイティブの出現

今年の新卒社員の多くは初めからリモートワークで働く状況になりました。最近の就活生は「どのくらい柔軟に働くことができるのか」を企業の選択基準として重要視しているという話もあります。こうしたことが今後さらに加速するように思われます。リモートネイティブの出現は働く上での新しい作法を生み出します。一例を挙げれば、オンライン会議は25分、50分などと設定して、次の会議との間に5分、10分の余白をとるようにする。カメラは常にオンにして相手に自分の顔を見せて隠れないようにするといったことですが、リモートワークをよりうまくこなす方法は今後どんどん進歩していくに違いありません。

働く場のライトサイジング

コロナの事態で在宅勤務が可能だと気づいた企業の中には、オフィス面積を圧縮できるのではないかと考え始めているところがあります。ここで大切なのは、単にダウンサイジングするのではなく、ライトサイジング、適正なサイズにしていくことです。ウィズコロナ、そしてその先のアフターコロナにおけるオフィスはいかにあるべきか、オフィスの意味そのものが今、問われ始めているように思われます。

コロナショックで変わる働き方と働く場所

コロナ以前の働く場所は、オフィスを中心として社内の他拠点やシェアオフィス、カフェなどのごく限られた場所でした。コロナ以降は、自宅も含めオフィス以外の場所が大幅に増えていくことが予測されています。さらにはワーケーション(バケーションに出かけた先で仕事をする働き方)やデジタル上のバーチャルなオフィスに出勤するといったものまでが働く場として認識されるようになるでしょう。そうなったときセンターオフィスに求められるのは、他の働く場所では担えない機能であるはずで、企業文化の醸成やコラボレーションなどがその有力な候補として考えられています。

こうした時代を迎え、働く場の管理方法はFM(ファシリティマネジメント)からWM(ワークプレイスマネジメント)へと移行させていく必要があります。これまで企業は、「FM」として働く場として管理しているスペースだけをマネジメントしていれば済んでいましたが、働く場が多様化していくとそうはいきません。自分たちの管理が及ばないところで社員が働く機会が増えるからです。コロナ以降は、すべての働く場を対象にした管理する「WM」という概念が求められるようになるでしょう。

プレゼンテーション2(オカムラ 藤原篤)

ウィズコロナ時代の「働く場」とは?

藤原:緊急事態宣言が解除されウィズコロナが始まりました。私からは働く場を今後どのようにしていけばいいのかをお話しします。

ウィズコロナで考えなければならないのは在宅勤務と段階的出社をうまく組み合わせることです。緊急事態宣言が解除されたから全員がオフィスに出社して働こうとは考えず、出社率を徐々に増やしていくやり方がうまい対処法だと考えています。

そのためにはまず、オフィスに出社するワーカーの感染防止対策を講じなければなりません。オフィスの中でいわゆる「三密」を防止するための対策として、距離・位置を保つ、仕切る、接触を減らす、清潔を保つ、運用・ルールの徹底の5つを考えていく必要があります。

具体的なオフィスでの感染予防対策

具体的な対策を見ていただきます。

ケース① 固定席のオフィス

従来型の固定席で運用している100名規模のオフィスで、来週から出社率50%でオフィスを動かそうとしているケーススタディを紹介します。準備する時間はありませんしコストもかけられない。そこで、コロナ前のレイアウトを大きくは変えず、主に運用でカバーしていこうとする事例です。

  • デスクエリア:座る位置は隣との距離をあけ、正面には座ることを避けるよう互い違いに着席します。
  • 会議室:定員を半減して利用すると同時に会議中は扉を開け放して「密」にならないよう配慮します。
  • ミーティングコーナー:テーブルや座席の間隔を調整してソーシャルディスタンスを保ちます。
  • コピーコーナー:一か所にまとまっていると接触機会が増えてしまうのでフロア内で分散させます。
  • カフェコーナー:「密」になりやすい空間であるため、コーヒーマシンやウォーターサーバーなどの使用は控えます。
  • オフィスの出入口:鉢合わせするリスクを減らすため、入口と出口をはっきり分けて対処します。

同じオフィスで100%出社せざるを得ない場合には、デスク席をすべて使うことになり隣に座る人と正面に座る人とは十分な距離をとれないので、デスクの前面と側面に仕切りを設けるなどして飛沫感染を防ぐ必要があります。

ケース② フリーアドレスのオフィス

次はフリーアドレス(あるいはABW)で運用しているオフィスの場合です。いろいろな人が自由にいろいろなところで働くスタイルで、これは着席位置の管理が難しいという点でコロナ対策的には問題のある運用方式と言えるかもしれません。

対処方法としては、席の間隔を空けるとか仕切りを設けるといった考え方はケース①と同様です。その上で、誰が、いつ、どの席を利用したかをあとからトレースできる「ホテリング」という運用方式の導入をお勧めします。これは、オフィスを利用したい人が事前に席を予約するやり方で、利用履歴が残るので、万が一感染者がでた場合、その周辺にいた人たちまで含めて特定ができるわけです。

安全・安心に働ける環境

お話ししてきたような対策を打つことでオフィス内の安全性が担保されても、私たちにはまだリスクがつきまといます。それは、通勤途中の公共交通機関内のリスクやでオフィスビルに入ってから自分のオフィスまでの間に存在するリスクです。これらのリスクを取り除くために、感染の検査体制を拡充やスマホのアプリを利用した予防対策の導入が求められています。さらにビル管理の側面では、自然換気のできる空調システムの導入など、ビルオーナー側がビルのスペックを向上させる動きも今度出てくるのではないかと期待しているところです。

ディスカッション(多田×藤原×垣屋)

ウィズコロナのコミュニケーション

垣屋:エマージェンシーコロナのときはみんなが在宅勤務していたので、会議などのコミュニケーションはオンラインでせざるを得ませんでした。ウィズコロナになって仮に50%の人が出社するようになったとき、コミュニケーションはどのようにとっていけばいいのでしょうか。

藤原:コミュニケーションの目的によって、リアルとオンラインを使い分けるようになると考えています。今回在宅勤務を強いられた中、報告会議であればオンラインでやっていけると多くの人が実感したはずです。一方でブレストなどアイデア出しを目的とするコミュニケーションはリアルな空間に集まる方がよさそうです。

会議や打ち合わせは、コミュニケーションの目的をしっかり考えた上でしなければなりません。そのために集まる空間は、今後、密閉を避けるためにオープンな環境になっていくことでしょう。周囲からの視線を遮断するとしても、天井まである壁で仕切るのではなく、「なんとなく仕切られている」くらいの仕切りで密閉状態をつくらないようにしていかなければなりません。

さらにその空間内には、会議や打ち合わせをしている人間同士が互いの距離をコントロールしやすいよう、簡単に移動できるテーブルや椅子を用意しておくことも大切だと考えています。

多田:調査したところ、全員がオンラインで行った会議に比べて、オンライン数名とリアルな場に集まった数名による会議の方が会議の目的達成度が低くなることが分かりました。これは得られる情報に格差が生まれて同じ土俵に立っての議論ができないためだと思われます。

ウィズコロナではオフィスに出る人と在宅勤務する人が混在しますので、両者がうまくコミュニケーションしていく空間や作法のようなものを考えていかなければなりません。その解決策が見つかるまでの間、オンラインで参加する人間がいる場合には、出社している人間もあえて一か所に集まらず、別々にオンラインで会議に参加するのがいいのかもしれません。

オフィス不要論

垣屋:在宅勤務でやっていけることを実感した人からは「オフィスはもはや必要ないのでは」とか「アフターコロナのオフィスのあり方はどうなるか」といった声が聞こえてきます。

多田:あえて過激なことを言うならば、これまで定義されてきたようなオフィスは不要になると考えています。働く場所はオフィスからいろいろなところに分散していくはずです。その分散するスピードは今後加速するでしょうし、分散する先もさらに広がっていき、今はまだ考えられていないような場所で働くようになるかもしれません。

藤原:本社を千代田区の丸の内に置きたいという理由でその地にオフィスを構える企業は少なくありません。この考え方はこれからも続くかもしれませんが、アフターコロナ以降は、登記上の所在地は丸の内のままで、あるいは最小限の機能だけを持つ小さなオフィスだけをそこに残して、主力部隊は家賃の安い郊外のオフィスに移す企業が増えるかもしれません。

今後働く場はさらに分散し、今オフィスの中で行われているABW(仕事に応じて働きやすい場所を自由に選んで働く運用方式)がもっと広い範囲、今いる都市を超えて日本全国で、あるいは国をも超えて世界の拠点を対象にして行われるようになるのではないかと考えています。

おわりに「ウィズコロナ/アフターコロナの知覚文化距離」

「ソーシャルディスタンス」を検索すると、三密、2m、飛沫感染などの言葉が躍る新型コロナウイルス感染防止対策に関する記事が大量に出てきます。でも本来のソーシャルディスタンスは感染症とは無縁の言葉。アメリカの文化人類学者エドワード・T・ホールが提唱した知覚文化距離の一つだったはず。ホールは、著書『かくれた次元』の中で、自分と他者との間の距離を次の4つに分類していています。

  • 密接距離:ごく親しい人に許される距離(0~45cm)
  • 個体距離:相手の表情が読み取れる距離(45cm~1.2m)
  • 社会距離:相手に手は届きづらいが会話は容易にできる距離(1.2m~3.6m)
  • 公衆距離:複数の相手が見渡せる距離(3.6m~)

相手との距離によってコミュニケーションの在りようが変わることを唱えたホールが近い方から三番目に置いたのが社会距離=ソーシャルディスタンスだったのです。相手から隠れようと思えば隠れられるし、逆にここからもっと相手に近づけば、相手に関心があると思わせることができる。そんな微妙な距離感なのがソーシャルディスタンスなのです。

もし今ホールが生きていて「ソーシャルディスタンス」が感染症予防に使われているのを知ったらどう思うかは置くとして、ウィズコロナでは相手との社会距離を保つことが奨励され、オフィスというリアルな空間だからこそ可能であり本来なら積極的にとりたい「個体距離」が否定される存在になっています。今のこの状況が仕事を進める上で好ましいはずはありません。いつの日かアフターコロナの時代を迎えたとき、それが常態化していないことを祈るばかりです。(ちなみにいつの日もオフィス内で「密接距離=恋人たちの距離とも言われる」になることはあまりありません。念のため)

最後までお読みいただき、ありがとうございました。次回お会いする日までごきげんよう。さようなら!(鯨井)

登壇者のプロフィール

-多田亮彦(ただ・あきひこ)株式会社オカムラ WORK MILL X UNIT 所長
雑誌『新建築』『a+u』で編集者をしたのち渡米。サンフランシスコのデザインエージェンシーbtraxの日本支社長を経て、2019年4月オカムラに入社。WORK MILLを通したマーケティングコミュニケーションの統括の他、WORK MILL X UNITのリーダーとして新規事業開発などに携わる。

-藤原篤(ふじわら・あつし)株式会社オカムラ スペースデザイン3部 部長
これまでオフィスづくりのスペシャリストとして数多くのクライアントのオフィス構築プロジェクトを手掛けてきた。空間づくりの豊富な経験や知識、海外でのビジネス経験を活かし、現在は、海外プロジェクト、インテリアデザイン等を担当するデザイン部門を率いている。

-垣屋譲治(かきや・じょうじ)株式会社オカムラ フューチャーワークスタイル戦略部 WORKMILLリサーチャー
オフィス環境の営業、プロモーション業務を経て、「はたらく」を変えていく活動「WORK MILL」に立ち上げから参画。2018年の1年間はロサンゼルスに赴任し、米国西海岸を中心とした働き方や働く環境のリサーチを行った。現在はSea を中心としたオカムラの共創空間の企画運営リーダーを務める。

2020年6月29更新
取材月:2020年5月

テキスト:鯨井 康志
共同編集:齊藤達

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