キャリアを断絶させない選択 クウェートより自分なりの「働き方改革」を考える駐在妻

クウェートに赴任した夫に付いて行くために、会社を退職した栗本梓さん。「この機会に一緒に行かないと、次はいつ夫と暮らせるか分からない……」駐在妻ならではの悩みの中で、HELP YOUのオンラインアウトソーシング(在宅ワーカー)をすることがひとつの希望になったようです。女性がずっと仕事を続けていくための、本当の「働き方改革」とは?

インタビュアー(ライター)

鈴木せいら
札幌市出身。横浜国立大学大学院工学修士修了。2007年夏より、函館へ移住。制作会社でライティング・編集業務を行い、実用書・フリーペーパー等のコンテンツ制作を担当、2011年よりフリーランスに。現在、「HELP YOU」プロフェッショナルライター。理系の知識を活かしたサイエンスやアカデミー系の文章から暮らしにまつわるエッセイ、インタビューなど幅広く手がける。

なぜクウェートへ?夫と暮らすために、悩んだ末の退職

2月にクウェートに行かれて、その後いったん帰国して挙式されたそうですね?

はい、2018年2月にクウェートへ。7月に結婚式のために一時帰国しました。ハワイで挙式して、その翌週に東京で披露パーティーをしたんです。結婚したのは2017年7月で、夫はその後すぐにクウェートに赴任したのですけど、その時点では私は付いて行きませんでした。2,3カ月の間悩んで、今年の1月末に退職しました。最初は夫は単身赴任でした。結婚前も彼はベトナムにひとりで赴任していたので、このまま単身赴任を続けるか、一緒に暮らすか、しばらく悩んだのですが……。

旦那さまのお仕事は、今後も海外赴任が続く予定?

はい。今はクウェートですが、この次はまたどうなるか……。赴任先の国や地域の情勢、住環境によって、一緒に付いて行けるかどうかの可能性は半々。行ける時に一緒に行かないと、次はいつ一緒に過ごせるか分からないんですね。

栗本さんは、退職されるまではどんなお仕事をされていたのですか?

総合商社で、薬品の輸出入の営業をしていました。2014年に入社して、自分ではまだまだこれからだと思っていました。ただ、勤めていた会社に復職制度があったので、登録した上で辞めました。私のように、夫の駐在に付いていくという理由でいったん退職しても、4年以内であれば会社に戻ることができる制度があるんです。その制度がなければ、もっと悩んだと思います。私はもともと理系出身で、大学では化学を専攻しました。大学院まで進学し、食品会社と共同研究を行っていました。

栗本さんご自身は、海外赴任の経験は?

ありませんが、もしもあと2年ほど仕事を続けていたら、その可能性はあったと思います。

クウェートでのくらし。夏は50度を超える暑さに

クウェートでの生活はどうですか?

夏場は気温が50度の暑さになります。今は落ち着いてきて、やっと30度を下回ってきたところです。

こちらへくるまでは「50度ってどんな感じなんだろう」と思ったのですけど、そもそも外を歩く文化がない、車移動なんですね。ですから、暑さに触れるのは家から車までの30秒ぐらいです。その瞬間にすごい熱風を感じますけど(笑)あとは、逆に建物の中は冷房で寒すぎるので、セーターぐらい着ていた方が良い感じです。

住んでいらっしゃるところは都会なのですか?

はい、高層ビルがたくさん建ち並ぶ都会です。

他にも日本人の方はいるのでしょうか?

夫の会社でもまず100人単位でこちらへ来ているので。それでも、奥さまも一緒に来ているというのは5~6家族というところです。あとは、クウェートの方と結婚された日本人の方もいらっしゃって、そういうつながりでよくランチにお誘いいただいたりしています。

では、生活面でそれほど困ることはない?

ただ、イスラム教の国なので、お酒や豚肉がこちらでは一切手に入らない。それがちょっと……。豚肉料理って、いろいろあるんですよね。「ソーセージが食べたいな」と思ったりして、たまにつらい時が(笑)あとは、イスラム教には年に2回ぐらいラマダン(断食)という時期があって、その期間は、日の出ている間に公共の場で食事をすると、逮捕されてしまうんです。お店なども一切閉まってしまう。そういう不便さはあります。

キャリアを継続させたい。くらしに目標が生まれる

HELP YOUに入られたきっかけは?

2月にこちらへ来てすぐに、「何かできることはないかな」と調べていた中でHELP YOUを知りました。クウェートではビザの関係で仕事ができない、給料をもらってはいけないんですね。それでインターネットで「くらしと仕事」を読んで、海外在住の方もいるんだな、と思って応募しました。2月に応募して面接を受け、本採用のご連絡をいただいたのは5月。それから2カ月ほど研修期間があり、挙式の都合もあったので、本格的に業務をスタートしたのはクウェートに戻った8月からでした。

どういう業務をされていますか?

SNS分析のレポート作成や、パワーポイントの資料作成。Instagramの写真投稿や文章作成の代行、メールマガジンの配信も行っています。レギュラーで担当しているのは、10社弱というところです。

1日の大まかなタイムスケジュールを教えていただけますか?

朝7時~10時ぐらいまで仕事をして、そこから10時~13時ぐらいまでは家事をしたり、ランチやスーパーへ買い物に出かけたり。その後また午後13時~15時ぐらいまで仕事をします。そしてちょっと自分の自由な時間も過ごして、17時ごろから夕食の準備にとりかかります。毎日夫が朝5時に家を出るので、起床は4時半。そのため、夜22時ぐらいには寝るようにしていますね。

時差の問題はありませんか?

時差は日本時間-6時間。やはりクライアントは日本の会社なので、日本の稼働時間に合わせなくてはいけないこともありますね。クウェートでの午前中が日本の午後になるため、クライアントとやり取りがある業務は午前中に集中する傾向があって。それをマネージャーに相談したら、午後の時間を有効に使える仕事をいろいろご紹介いただいたんです。そういうことができるのも、HELP YOUだからこそなのかなと思います。

リモートワークを体験してみて、どんな感想ですか?

大手のクラウドソーシングの存在は知っていたので、そういうものを調べた結果、HELP YOUにたどりついたのですけど、もっと淡泊なイメージを持っていました。単発で依頼が来て、業務を行って、報酬が入るという。

HELP YOUに入って驚いたのが、一緒にお仕事をする皆さんと直接会ったことがないにも関わらず、助け合いの空気があって。本当に会社に所属しているかのよう。分からないことがあって聞いたら、いろんな方が返してくれたり、忙しい時大変な時をみんなで共有したり。会社で働いていた時と似たような感覚で、想像していたリモートワークとは全然違ったので、びっくりしました。

HELP YOUでは、いろんな人たちと協力しながら連続的な働き方をしているので、一つひとつの仕事の結果やそこに至るプロセスで評価、関係の築き方も変わってくると思います。ですから、「周りから信頼してもらえるような仕事を」と、いつも意識しています。私も早く他の方をサポートできるようになりたいと思って。

スキル磨きで、何かやっていらっしゃることはありますか?

オンラインで英語を勉強しています。HELP YOUでも、翻訳や貿易関係の業務に挑戦してみたいです。英語以外のスキルについては、本当にHELP YOUの業務の中で。いろんな方の成果物を見たり、依頼があった時にネットで調べて自分なりに勉強したりしています。

クウェートでの生活は長くなりそうですか?

おそらく来年中には帰れると思います。

もしかしたら4年内に、その時の状況や気持ちによっては元の会社に復帰する可能性もあるわけですよね。そうするとやはり、仕事をしている状態をキープして、感覚を錆びさせないでおきたい気持ちですか?

本当にそうだと思います。こちらに来て1週間ぐらいの時に、まだこの国の生活にも慣れてない状態だったんですけど、「やらなくてはいけないことが何もない状態」が苦痛だったんです。時間がただ流れていくだけというか。会社で働いていた時は必然的に、何か目標を持って、少しずつクリアしていくような生活があったのですが……何か生産性のあることをしたい、という思いでした。

次に日本へ帰った時に、元の会社に戻るのか、また次の現場に付いて行くのか、もしかしたら今後子どもを授かるかもしれませんし……どうなるかは分かりません。もう一度海外に行ったとしても、HELP YOUでキャリアを継続できることが分かったので、ありがたいと思っています。自分がどんな状況になってもやりたいことをやれるように、準備をしていきたいです。

長期的に見た時に、状況が変わっても何らかの仕事は続けていきたい?

ずっと続けたいです。日本に帰って子どもができたとして、夫は海外で私ひとりで子育てをしなくてはいけなくなるかもしれない。そうなっても、仕事は続けたいなと思っています。会社に勤めていた時から、女性の働き方って難しいと感じていて。男女平等と言われていますけど、子どもを産むことは女性じゃないとできないですよね。だったら本当に平等にすることは難しいのではないかなと、私個人は思っていました。「働き方改革」と言われていますが、残業をなくすとか時短勤務の導入とか目先のことだけではなくて、一人ひとりのライフプランに合わせていつでも柔軟な働き方ができたら。それが本当の意味での「働き方改革」なのかな、と思っています。

まとめ

日本で働いていた会社でのお仕事も好きで一生懸命取り組んでいた、辞める時は迷いに迷ったという栗本さん。そこで「4年以内の復帰の可能性」が制度として用意されていたことが、海外赴任に付いて行く勇気をくれたそうです。今後のことは分からないけれど選択肢は用意しておきたい、その思いに共感しました。人生100年時代、人々が働き続けることが必要とされるならば、栗本さんのように「ライフプランに合わせた柔軟な働き方を」という声が、今後さらに大きくなっていくのではないでしょうか。

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